流行病
二ヶ月ほど経った。城の騎士団と週に一度の鍛錬を行ったり、魔法師団と魔法についての問答をしたり、何とも楽しい期間だった。見学した貴族達は目を白黒させていた。本当は難癖をつけようと思っていたのだろうが、何も言えなかった様だ。確かに剣で負ける事もないし、魔法に至っては規格外だもんね。
公爵としての仕事も少しづつ行っていっている。ロベルト侯爵と相談しながらエルドラン領の改革案も着実に進行している。まだ兄上が代官を出来ないので父上の頃からの代官に引き続き仕事をしてもらっている。何もさせてもらえなかった鬱憤なのか、リリアから事前に言われていた改革案は山ほどあった。道の整備や貯水池の改修、領地の開拓など問題は多くある。まず早急に行ったのは道の整備だ。もう直、冬になる。前世で言う所のロードヒーティングを作ろうと言う事になった。炎の魔石を使い雪が溶ける温度まで道が温まる様にしたのだ。王都からロベルト領までの間を全てエルドランで行うのは無理があるため、そこは陛下とロベルト侯爵に協力を打診。雪が降るまでになんとかしようと大急ぎで工事を行った。当然人手が必要な訳で、商業ギルドやスラムに行き人材を確保。国の関わっている事業のため給料も期待できる事もあり人は多く集まった。
そうしてある日の朝、起きて窓から外を見たらそこは雪国でした。いや、冗談ぬきになんだこの雪の量。確かに今の季節は冬だ。予報によると深夜のうちに雪が降ると言う事も聞いていたのでロードヒーティングは稼働させていた。だから道は雪が溶けていたのだが、それ故に道じゃない所との格差が凄まじかった。簡易の宿泊所も建設し、多くの商人や冒険者が利用してくれている。その両脇にも壁のような雪山が出来ている。
春になったらもう少し立派な宿泊施設を建設する予定だ。領地の屋敷も建て直ししたいんだよなぁ。ボロボロだし寒いし。兄上もアメリアもここに戻ってくることを考えると、決していい思い出のないこの屋敷を建て直すのは急務だと思っている。まあ全て雪が溶けないと出来ないのだが。
「リリア、おはよーさん。ごっつい雪やで!」
メイベルが廊下で声を掛けてくる。
「おはよう。私もびっくりしちゃった。一晩でこんなに積もるなんてね」
「うぅ……さっぶぅ……」
「あ、フィアン」
「おっす。寒いぞ」
「知ってる。この屋敷、隙間風ひどいから風邪ひかない様にね」
「公爵家の屋敷での会話とは思えないねぇ」
「レオン、これが現実よ。無能な人間が治めていたって言うね」
「リリア。朝から殺気出すな。身体に悪い」
「この寒い中、元気ですね」
「バルト、レオール。おはよう」
全員集まって食堂に向かう。色々悩んだ結果、『エンシェント☆キラーズ』の活動拠点をエルドラン領にする事にした。メイベルの実家であるザック商会の支店をここに作ったり、ギルドの支部もここにくる計画がある。ロベルト領などの寄子の領地からザック商会エルドラン支店に特産品を運び王都に持っていく、いわば中継地点として発展させる予定だ。開拓や建設には陣頭指揮を取る者も必要だし、人が集まれば小競り合いも起きる。それを仲裁する役目をリリア達パーティが担う予定である。
「いやぁ、ロードヒーティングの工事はよぉしといてよかったなぁ」
「本当だね。とりあえず商人さん達が便利に往来できるよ」
「商人さん達がフライングで来てるからな」
「……奥様。少々よろしいでしょうか」
執事のガッツがリリアに声を掛けてきた。
「何?」
「昨夜に到着した商人から話を聞いたのですが、王都で流行病が出始めたそうです」
「もうそんな季節か」
「はい。商人の移動を考えると、気をつけた方がよろしいかと」
「そうだね。……症状はどんな感じなの?」
「はい。主に発熱と倦怠感、腹を壊している者も多いそうです」
「症状が出るタイミングは?」
「朝起きたら熱が出ていた、外出から帰ってきて少しして発熱した、食後少ししたら突然嘔吐した、などです」
「そっか」
恐らくインフルエンザやノロウイルスによる感染性胃腸炎だ。この世界にもあるんだね。うちの領地は出入りも少なかったから発症例を聞かなかった。そういえば、この季節の国王への謁見ってなかったな。警戒していたのだろうか。
「特に肉の調理は気をつけて。火はしっかり通す様に。あと、しばらく生ものは控えましょう。野菜なんかも火を通して出して頂戴。特に料理をする人は体調が悪ければその日の調理担当から外れて休んで構わないから。外出から帰ってきたら手洗いとうがいを徹底して頂戴。王都の屋敷にいる使用人や兄上にも徹底させて」
「かしこまりました」
「バルト。ロベルト侯爵にも伝えて欲しいの。特にアメリアはまだ体が弱ってるから流行病に罹ったら大変だし」
「分かった。手紙を書いてシャドウイーグルに運ばせる」
バルトはうなづいた。こう言うのは衛生管理を徹底すればある程度は防げる。
「……石鹸作るかな」
「セッケン?」
「手を洗うのに使うものですよ」
「ああ、知っとるで。薬師が作っとるやつやろ?あれ高いねんな」
この世界では石鹸は薬師が作るもので価格も高いらしい。除菌効果のある薬草が入っている、前世で言う薬用石鹸しかないのだそうだ。
「木を燃やした後の灰と油と水があれば出来るよ?」
「そんな簡単なん?」
「灰にお湯を入れて一晩放置。濾した灰汁を熱した油に入れると出来上がるけど……」
「本当に簡単だね」
「石鹸を使って手洗いをすると衛生的にもいいからね」
「確かにな」
「あとで作ってみるか」
手洗い・うがい・マスク!大切!
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