女公爵誕生
次の日、リリア達は城の控え室にいた。
「はぁ……何や緊張するわ」
特にメイベルとフィアンは貴族ではない。こう言う公式の場には慣れていないのだ。救いは制服でいいという事だけである。
「僕達も謁見は経験が薄いよ」
「普通はお披露目会くらいだもんな」
「爵位を継げばちょこちょこあるんだけどねぇ」
「私は生後5ヶ月で謁見したし叙勲もされたけどね」
「「「「「それは特殊!」」」」」
総ツッコミを喰らうリリア。不服そうに口を尖らせる。
「というか、僕はここにいて良いのか?」
レオールはオロオロして言う。そう、今回の叙勲メンバーにはレオールもいるのだ。
「まあ、叙勲の条件がレベル50の達成とギルドランクCだったからね。良いんじゃない?」
この長期間で長距離移動をする商人などの護衛も請け負っていた。当然盗賊もよく現れ、8割程は捕縛した。その功績もあるし、国王としては前途ある若者が自らの息子を庇い騎士の道を絶たれた事を気に病んでいたのだろう。叙勲はある意味お詫びのようなものなのではないだろうか。
「今回の叙勲は紛れもなく自分の手で手に入れたものだ。胸を張っていいだろう」
「そうだな。レベル上げだって必死で着いて来てたしな」
「盗賊関係の依頼をこなすのだって、剣士がいるのは心強いからねぇ」
「野営やって、随分上手くなったんちゃうん?素材の回収率もリリアに次ぐ勢いや。おかげて儲けさせてもろたわ」
レオールは涙ぐんでいる。
「努力して必ず報われるわけじゃない。でも成功者は必ず努力しているものよ。心が折れずに努力を重ねた結果がこれなんだよ。良かったじゃない」
努力しても父上からの愛情は得られなかった。でも、努力してきたおかげでレベルは100になり叙勲もされた。
「……はい!」
レオールは笑顔で答えた。すると部屋のドアが開き、セバスが入ってきた。
「お時間です。こちらへどうぞ」
セバスの案内で謁見の間に向かう。リリアにとっては色々な意味で見慣れた場所。玉座の前で最敬礼をして陛下の入場を待つ。相変わらず重たい足音と共にどっしりと椅子に座る音がする。
「面を上げよ」
顔を上げると優しい笑顔を浮かべる陛下がいた。
「こたびは誠にみごとであった」
「もったいないお言葉です」
「そなたたちを勲一等に叙する」
「ありがたき幸せ」
1人づつ勲章を渡される。まずはレオールだ。
「レオール。お前のおかげで王太子は無事だった。感謝する。そして、申し訳なかった」
「いえ。私は騎士にはなれませんが、これからも騎士と同じだけの情熱をもって研鑽を積んでまいります」
続いてはフィアンだ。
「そなたの討伐した魔獣の解体する技術は目を見張るものがあると聞いた。流石は肉屋の息子と言ったところだろう」
「あ、ありがたき、幸せ……」
次はレオン。
「ジョルジュ騎士団長も喜んでいる事だろう。前線で魔法の援護があったとは言え、多くのゴブリンを討伐していたと聞く。学園の教師でもある剣士トウヤも感心していたぞ」
「もったいないお言葉です」
メイベルも緊張した顔で立ち上がる。
「ザック商会の会頭は私が冒険をしていた時のパーティメンバーだ。1人金銭面の管理ができる人間がいると冒険者家業は助かるからな。君の場合は主にリリア嬢のツッコミに忙しそうだが、これからもその腕を遺憾なく発揮していってくれ」
「ありがたき幸せ」
バルトは流石に侯爵家だけあってか多少の緊張はあるものの堂々と立ち上がった。
「ロベルト侯爵とは最近よく話をしている。リリア嬢のブレーキ役としてこれからも期待しているぞ」
「はい。ご期待に添える様、日々精進してまいります」
そして最後にリリアだ。
「リリア嬢。この国唯一のSSS魔法使いよ。そなたが生まれた時、心底驚いたものだ。赤子なら親の姿がなければ泣き出してしまいそうなものだが、余が抱いても泣くどころかニコニコと笑っておったのだからな」
何しろ自我が既にありましたからね。何処のサンタクロースかと思った記憶がある。
「大物誕生だなと思ったが、今では規格外の魔法少女だ。本当にここまでよく生きていてくれたものだ。一歩間違えれば死んでいたかもしれない。SSSクラス魔法使いを死なせてしまうという不名誉な歴史をこの国に刻むことがなかったのは、ひとえにそなたの弛まぬ努力の賜物だろう。これからもこの国ためにその力を奮ってもらえるか?」
「私はこの国に生まれ、この国の貴族として育ってきました。そしてこれからもこの国で生きてゆく決意でございます」
あの王太子がもう少しまともになってくれたらね!
「わかった。これからもよろしく頼む」
「はい」
勲章をもらうと、陛下と同じ壇上に上がる。
「皆の者よく聞け。彼らはまだ学園の一年生だ。Sクラスとは言え、入学当時はリリア嬢以外は例年通りのよくいる新入生だった。所がリリア嬢の指導で一年生で50レベルに到達するCランクの冒険者と言う前人未到の快挙を成し遂げた。これは並大抵の努力では成し遂げられないだろう」
会場はザワついている。
「そこで余は彼らと約束した。この快挙を成し遂げた暁には、彼らを余の権限でギルドランクSSとし、これから先国に何かあればその力を貸してもらう様にすると。そして学園は自由出席とし、リリア嬢もその技術を騎士団に教えてくれると申しておる」
騎士団の指導を行う。しかもまだ10歳の子供が。当然異論も出てくる。
「へ、陛下!確かに彼らの実力は大したものですが、かと言って騎士団の指導なんて……!」
「そう思うか?リリア嬢に至っては騎士団長と模擬戦を行い、負けたこともないのに?」
会場は騒然となった。騎士団長はこの国で一番強いと言われている剣士だ。そんな団長が勝てないご令嬢など、にわかには信じがたい。
「騎士団長も是非ともお願いしたいと申しておるのでな。彼女達の実力をその目で見たいという者は見学すると良い。スケジュールは城の者に聞けば良かろう」
陛下はそう言い、そしてリリアを誘い自らの横に立たせた。
「そして本日よりリリア嬢に公爵位を授ける!この国始まって以来の女公爵だ!」
これはちょっと想定外だった。え、卒業後じゃなかったっけ?あ、卒業扱いですか、そうですか。
「エルドラン公爵領をリリア嬢が治めるものとする!」
一応、形式的に会場にいる人達は拍手をしているが、概ね同じ考えでいる様だ。『常識のない公爵令嬢が領地運営なんて出来るのか?』だろう。正直不安ではあるが、そこは寄親寄子の制度を存分に使わせてもらう。使えるものは何でも使っていくのが大切なのだ。
「では、これで叙勲式は終了とします」
セバスの一言で集まった人達は出ていく。リリア達は一度控室に戻った。
「うあぁぁぁぁぁぁ!緊張したぁぁぁぁぁぁ!」
フィアンはソファに体を預けて天井に向かって言う。
「フィアン!あそこで噛むんやもん!こっちがドキドキしたわ!」
「仕方がないだろ!緊張してたんだよ!」
「まあまあ、みんな同じだよ」
「しっかし、俺たちよりリリアの方が大変だな。このタイミングで公爵か」
「私もびっくりだったわよ」
せめて事前に教えておいて欲しかった。色々準備が整っていなかった。
ドアが叩かれ、陛下が入ってきた。そして王妃様も。全員固まってしまう。
「はっはっはっ!すまなかったな、突然で。王妃も是非会いたいと申してな!」
「あらあら、リリアまでそんなに驚かなくても良いじゃない!」
王妃はリリアを見て口元を隠して笑う。
「相変わらずサプライズがお好きですね……」
「それはもう!人生は驚きを感じてこそ楽しめるというものですよ?」
「心臓に悪い……」
そうこの王妃様、母を失ったリリアを不便に思い、事あるごとに理由をつけてはリリアにサプライズ訪問を仕掛けてくる悪戯っ子なのだ。服を買いに店に行き、試着して出てきたらいるなんてよくある事。お茶をしに喫茶店に行くと当たり前の様にいたり、誕生日には大きなケーキを届けてくださったりとやりたい放題だ。それを利用する父上がいたりしたものだから誰も止めない状態だった。え、それでどうして件の暴挙がバレなかったのか?……上手く隠してたんですよ、父上が。そういう事だけは本当に頭がよく回る男だった。
「そんなに急いでないでしょう?せっかくだもの!お茶しましょうよ!」
そう言ってメイドにお茶を用意させる。そう、拒否権なんてないのだ。
「中々手に入らないお店のお菓子が入ったのよ〜!」
「ははは。今朝から機嫌が良いのはこれのおかげだったか!」
「うふふ。ここのお菓子はどれも美味しいのよ?」
「うむ、そなたが美味しいと言うのだから間違いはないだろう」
この夫婦、相変わらずだな……。何しろ陛下が惚れて猛アプローチをした相手だ。家の爵位は子爵家だったため周囲も反対していたのだが、『彼女でないのならば王位は継がない!』と言ったほどだ。陛下は一人息子であったため王位を継がないという事は王家の断絶を意味するのだ。国王という立場のため側室も望まれたが全て拒否した。風当たりが強い中、陛下との間には3人の息子に恵まれた。誰にも文句言わせないという、ある意味で誰も敵わない王妃だ。
そんな王妃様が唯一悩んでいる事、それは女の子に恵まれなかったと言うことだ。
「もちろん息子達は可愛いわよ?でも女の子みたいに一緒にドレスを選んだりできないし、お茶会だって特にドミニクなんてもう付き合ってもくれないし……」
第2王子は7歳で体が弱く、3歳頃に流行病にかかって以降枕から頭が上がらない状態。第3王子は5歳でまだ母とお茶に付き合うと言う事はしてくれるものの、ドミニクを考えるとそう長くはないかもしれない。
「女の子とお茶をするのはやっぱり違うのよねー」
「確かに1人でも女の子がいると一気に華やかになるがな」
「うちも私とメイベルだけなんですけどね」
「あら、でもみんな嫌がらずに付き合ってくれるじゃない?」
「まあ、拒否はせーへんな……」
王妃相手に拒否できるのはドミニクだけだろう。まあ、紅茶もお菓子も美味しいから良いのだけど。
そんな話をしていると、陛下は思い出した様に紅茶を置く。その表情は真剣そのもので、リリアは少し背筋が伸びた。
「ドミニクの処分が決まった。夏休み中の謹慎だ。保養地への旅行も中止だな」
つまり、子供としては楽しみな夏休み中の旅行を取り上げられたわけだ。ドミニクとしてはかなり重い処分かもしれない。
「他2人の旅行は決行する。つまりドミニクは留守番だな」
「そう思うと、重い処分ですね」
「レオールの事もある。これでも軽いくらいだと余は思っている」
陛下はため息を吐いた。少し空気が重くなる。
「ところでリリア。あの領地どうするの?農作物は育ててるけど、特に特別なものは育ててないでしょう?」
空気を察してか、王妃は話題を変える。
「そうですね。立地的には王都からロベルト侯爵領までの中継地点になっています。冒険者の方々に話を聞くと道中に宿泊所がないと言う話も聞きますし、その辺で検討して行こうかなと思っています」
「ロベルト侯爵領は保養によく人が行くからな。整備して道中の宿を作るのは良い案かもしれんな」
「はい。しかもコメの生産地でもあり、ミソやしょうゆ、ニホンシュなどと言う特産品もあり商人の往来も多いです。その辺りにも需要は多いかと」
実はこの要望はロベルト侯爵からもきていたのだ。父上は無視していたが、王都からロベルト侯爵領まで宿泊施設が何一つなく、それでいて店もない、特産品もない、特徴もない。ないない尽くしの領地なのだ。せめて整備して宿泊施設などを用意したら良いのに、それもないのだから寂れる一方だ。
「改革に必要な人材があれば派遣するぞ?」
「そうですね……色々建設するのに労働力がありませんからね。王妃様」
「何かしら」
「現在のスラムはどの様な感じでしょうか」
王妃様は真剣な表情になった。この国にもスラムはある。他にも孤児院など、国の社会福祉に力を注ぐのは王妃の仕事なのだ。
スラムの人間は決して怠け者ではなく、ただ働き口がないだけなのだ。身なりを整えることも出来ないため、就職難に拍車がかかる。そう言った人材を雇えれば良いかもしれないと考えたのだ。
「確かにスラムの方々は決して働きたくないわけではありません。それぞれが抱える問題で就職先が見つけ辛い者も多くいます。重労働を厭わないのであればきっと喜んで働くでしょう」
「そうですか。ではその方向で検討したいと思います」
色々やりたい事はあるが、何しろ税収を得なければ何も出来ない。一歩ずつ前に進んだ方がいいだろう。
「ふふふ。楽しみだわ」
「リリア嬢と話しているとワクワクして良いな」
「お褒めいただき光栄です」
この後1時間ほど王妃様のお話にお付き合いしてお開きとなった。女性のお話の長さは世界共通だ。男性陣はぐったりしていたが、美味しいお菓子にありつけたのでリリアとメイベルは悪い気もしなかったのだった。
王妃様初登場!
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