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父上がクズでした

あれから月日が流れて、どうも10歳のリリアです。私はどうやら公爵であるエルドラン家の長女に生まれた様だ。この10年で分かった事は多い。


まずはこの世界について。この世界はアトランティスと言う名前だそうだ。聞いた瞬間滅亡しそうな名前だったが、一応滅亡する予定はなさそう。そして今いる国はアトラント王国と言い、この世界の中心的な国だ。現在の国王はアルベルト・フォン・アトラスと言う。王国始まって以来の賢王だと言われ、国王襲名以来王国は発展し続けている。


そしてラノベファン垂涎の魔法。この世界には魔法があり、私は魔法使いとして生まれて来た様だ。生まれた瞬間、鑑定で魔法使いである事は分かっていたが、思っていたよりも魔法使いである事はこの世界ではアドバンテージがある様だ。この世界では魔道具を起動させる程度の魔力は全員持っているが、魔法が使えるのは魔法使いだけだそうだ。そしてここ数年、原因はわからないがその魔法使いは減って来ている。エルドラン公爵家は魔法使いの家系らしいがそんな家系も例外ではなく、ある時から魔法使いが生まれづらくなっているそうで、それが現在の当主である父上は気に入らないらしい。

それ以前に、父上はどうやら子供が出来にくい様だ。父上には妻が3人、妾が16人いるが、男の子は1人。女の子も私を入れて2人。こんだけいて生まれないのだから原因は父上なのだろう。しかしそれを妻や妾のせいにしている。さもありなんと言った感じ。

男の子はジェイコブといい第1夫人の息子で私から見たら2歳上の兄だ。魔法はCランクで武芸も苦手で勉強に秀でている、見事なほどの代官タイプ。公爵家だし、将来は宰相辺りを狙えるのではないだろうか。父上もその線で行こうとしている様だ。しかし魔法の才が低いのもあって私より態度が冷たい。リリアとは書庫でよく遭遇して会話はしている。兄上も父上には思うところがある様だが、妹である私の事は可愛いらしく、さっきの国の話も教えてくれた。最初は本の文字が読めなかったから兄上が読み聞かせをしてくれたのがきっかけ。兄上の膝に座って絵本を読んでもらう時間はなんとも穏やかで、この屋敷で過ごす時間の中で一番好きな時間だ。

私の下に1歳違いの妹アメリアもいる。彼女は妾に生ませた魔法使いでランクはS。結構すごいと思うのだが、父上からすると『ゴミ』だそうだ。自分はAランクだろうに。今はメイド見習いをしている。とりあえず姫付きのメイドになれる様にするためだそうだ。そうは言っても使用人扱いもどうかと思う。時々一緒にお菓子を食べたりしているが、扱いのせいか大人しく物静かで、常に何かに怯えている様子が見て取れる。手足は小枝の様で、ちゃんと食べているのか心配になる。使用人からの扱いも悪い様で、虐められているのに出会す事もある。その都度庇ってはいるのだが、隠れてやられては分からない。一応本人は大丈夫だと言っているから様子見だ。

私は第2婦人の娘でランクSSSだからか令嬢として扱ってもらえている。何かと言えば使用人たちがウザイほど褒めてくれる。父上も時々顔を合わせて現状報告を受けて満足そうに酒を飲むという儀式を行っている。まあ、父上からすると公爵としての体面を保つ道具なのだろう。可愛がられた記憶はない。将来、私は公爵を継ぐ事を望まれている。正確には婿養子を取って、私は形だけの女公爵となって実権は旦那に任せるつもりなのだ。つまり私はお飾り公爵という訳だ。SSSの魔法使いという肩書きを持つ史上初の女公爵となると評判も良いだろうし、国王の覚えも良くなる。国の内政を担当している父上にとって史上初の女公爵を排出した家というのは垂涎物の肩書きなのだ。


さっきから言っているランクだが、これはその人のポテンシャルだ。ランクはCからSSSまであり、それぞれ使える魔法や武芸の判断基準となる。魔法で説明すると、Cランクは初級魔法しか使えない。Bは中級魔法まで、Aは上級魔法まで、それ以上になるとSランク以上でないと行使出来ないのだ。SSランクになると最上級魔法が使える様になり、SSSになるともはや使えない魔法がないそうだ。この国で現在、SSSの魔法使いはいない。それ故に、生まれた瞬間から国宝級の人間になってしまった。国王陛下に齢5ヶ月にして謁見し、勲一等に叙勲されてしまった。私が暮らす王国は魔法使いの人材不足に悩まされているそうで、その流出を防ぐ意味もある様だ。公爵家の長女であるため、縁談の話もうるさい。どうやら王太子妃の話まで持ち上がっている。王太子はリリアと同い年だそうだ。妻は面倒だからお断りだが、友達ならいいと思う。


そんな魔法の才能に恵まれた私は2歳の頃から家庭教師がつけられ勉強をし始めた、主に文字を読み書きする練習だったが、正直言って2歳からそんなに教育してもなと思う。私は前世の記憶もあるし付いてはいけるが、並の2歳児に読み書きを教えると言うのは難しいのではないだろうか。実際、家庭教師の先生はかなり苦悩していた。2歳相手の勉強だ。魔法を行使するのは5歳からだし。と言っても父上は魔法も教えて良いと言っていた。いや、体が保たんと言っとろうが。殺す気か。王太子もまだやってないぞ。先生もそう言っていたが、SSSの魔法使いなんだから出来るはずだと言って聞かなかった。公爵がこんな認識で良いのだろうか。案の定、魔法を行使したらその日の内に体が保たずに倒れて1週間寝たきりになった。流石に国王にお説教を受けたらしく、魔法の行使は5歳まで待つと言う事になった。それでも父上は不満そうだったが。SSSなんだから出来ないわけがないとか、俺は間違っていないとか。いや、間違ってんだよ。父上の奇行を周囲は親バカをこじらせたのだろうという事にしたようだ。

完全回復してからは魔力調整の訓練と座学、肉体の強化を行った。先生は最初から魔力操作を行っている私に目を丸くしていた。初めてやって暴走もさせずに魔力調整を出来る子はそういないのだそうだ。ごめんね、私、書庫の本を読み漁ってすでに出来てたんだよね。ハイハイが出来る頃には書庫に勝手に入って本を読んでいたため、使用人の間では神童扱いになっていた。

そして父上からは貴族についてを毎日の様に教えられた。曰く、貴族は特権階級であり民は搾取対象だと。王家は民と貴族と王族は同じ人間であり、貴族は民を蔑んではならないと言っているが、そんなのはまやかしであり民を騙すための嘘である。我々貴族は神に選ばれた人間であるため民と同じ扱いになることはあり得ず、民は我々を敬うべきである、と言っていた。なんという選民思想だ。馬鹿なの?いや、馬鹿だね。領民が税を納めないと貴族は生きていけないじゃないの。これ、前世の記憶がある私だから染まらないけど、兄上とかよく染まらないな。兄上はアメリアにも時々声をかけて困っていないかを聞いている事がある。使用人たちからいじめを受けているのを見ると、使用人たちを咎めている姿を時折見る。まあ私相手の時ほど素直に引かず、使用人たちはブツブツ言いながら下がって行っているが、兄上は気にしていない様だ。本当にいい人なんだな。そして不安になる。本当に国王は選民思想になっているのだろうか。

国王夫妻とは生まれて叙勲されてからちょくちょくお会いしている。国王陛下は大柄で真っ白な髭が特徴的。初めてお会いした時はどこのサンタクロースかと思った。髪も白っぽいから結構歳なのかと思ったら、まだ20代だった。どうやら地毛が白銀だそうだ。白銀は神話に出てくる聖騎士の象徴であり伝説の色なのだ。国では白銀の髪を持つ陛下は国民の間では自慢の国王だ。そんな国王は抱っこしても泣かなかった私を気に入ったようで、娘のように可愛がってくれている。少し大きくなってからは、城の書庫の立ち入りを自由にしてくれた。城の書庫には家にはないような本が沢山あるため、城に招かれた時はほぼ入り浸りだ。使用人達の間では『才女』としても有名になっている。国王には私と同い年の王子がいる様だが、『おんながべんきょうしてなんのいみがある』と舌っ足らずに言って来た。たまたま側にいた執事が嗜めて、王子の代わりに私に謝っていた。内容はともかく、その舌っ足らず感が可愛かったから別に気は悪くならなかったのだが。使用人達が気を利かせたのか、それ以来会ってはいない。

そして私がこの世界に来て最も危惧しているのは、父にやらされている魔獣討伐だ。父上曰く『武芸に秀でている貴族は森に入って討伐訓練するのが決まりだ。上級魔獣なんて誰でも討伐できる』らしい。ちなみに父上は低級の魔物すらギリギリだ。私が5歳になった途端、父上は裏の森に毎日行き魔獣を討伐する事をノルマとする様になった。領地の森には低級の魔獣しかおらず一応安全と言ったらそうなのだが、いきなり魔獣討伐はどうなのだろう。家庭教師に聞いたら『珍しい事ではあります』という答えが返ってきた。やはり一般的ではないのかもしれない。まあ、それを意見出来る存在ではないのだが。しかも私だって『それはおかしい』とは言えなかった。前世でイエスマンが完全に板に付いてしまっている。癖ってやーね。そしてもっと問題なのは、普通に討伐出来てしまう事だ。5歳の子供はいくら魔法使いとはいえ魔獣の討伐は難しいのだという。しかしなまじ出来てしまうものだから、毎日ウサギの魔獣や鹿の魔獣などコンスタントに狩ってくる。そして父上はさらにノルマのハードルを上げてくる。ついには上級の魔獣を単騎討伐せよと言ってくる始末。この森に上級魔獣がいたら騒ぎになるだろうよ。この父上、本当に領地のことを何もわかってないな。何しろ領地は全て代官に任せっぱなしだ。自分は王都におり、贅の限りを尽くしている。そんな魔獣がこの領地にいない事も、そんな魔獣がいたら騎士を呼ばないといけない事もわかっちゃいない。そう言っても分かってはもらえず、ノルマを達成するまで家には帰るなと言われて野宿する事も度々あった。結局、距離の離れた侯爵の領地の森まで行き上級魔獣を討伐して持ち帰るなんてことはザラになって行った。最初は代官も驚いていた。領地に上級魔獣が現れたなんて一大事だ。何回か繰り返す内に慣れて行ったけどね。後で分かったけど、ただ小遣い稼ぎを娘にやらせていただけだったらしい。上級魔獣の素材は高値で取引されるからね。贅沢し過ぎて収益は問題ないのに収入だけでは家計が火の車だそうだ。それを娘に尻拭いさせるってどうなんだろう。使用人達も代官も何も言わないのはいつもの事なのだが、流石に国王に怒られた過去もあるからな。一般的な教育ではないにせよ、この討伐ノルマって非常識ではないよね。まさかこの討伐訓練自体が折檻だなんてことはないよね?……ね?


父上クズですねー……まあ、異世界ものでは定番ですよね。


予約投稿です。誤字脱字ありましたら連絡お願いします。

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