目標達成……?
「リリア!アンタ、ゆっくり休む様にゆうといたやろ!」
朝からメイベルの威勢の良いツッコミが屋敷中に響いた。実習が終了し、そのまま夏休みに突入したリリア達は最初の1週間はそれぞれでゆっくり休もうと言うことになり、思い思いにゆっくり休んでいたのだ。……1人を除いて。
「休んではいたよ?食事は取ってたし」
「そう言う問題とちゃう!なーしてこんなけったいな魔道具が出来あがっとんねん!」
「急いだほうがいいじゃない。この後の計画を考えても」
「計画?」
「うん」
リリアは少し豪華な箱に魔道具を入れた。それは手の形をしたものだった。素材はあいも変わらずミスリルだった。そうじゃないとリリアが詰め込んだ魔道具要素を取り込めないだけだったのだが。
「何を計画してるんだい?」
「うん。これから教えるから。バルト、馬車用意できた?」
「それは出来ているが……」
「それじゃあ、城に行くか」
「城?」
「うん。陛下にもゴブリン討伐の件をお話ししないといけないし、これをレオールに早く届けたいしね」
リリアはそそくさと部屋を出ていく。
「待ちーな!謁見なんて聞いてへんで!?」
「公式じゃないからね。あくまで非公式の会談だよ」
「何でやねん!」
「急ぐよ!陛下をお待たせしちゃうし」
「ちょい待ちー!」
暴走令嬢は今日も元気に暴走中です。
急いで馬車で城に向かう道中でリリアはバルト達に要点を話した。要は元から謁見の話はパーティのリーダーであるリリアの所に来ていた。しかしメンバーを休ませたいのと自分の休息兼魔道具製作のためにあえてバルト達には言わずにいたのだ。その気遣いには感謝しかないのだが……
「謁見当日の朝に突然いいなや」
「だから制服で来てって言ったじゃん」
「ゆーてたけど……!」
「非公式だったから大っぴらには言えないじゃない」
「せめて父上経由で教えてくれても良かっただろ」
「……」
「黙っちゃったよ……」
「そこまでは思いつかなかったんだな……」
やっぱりちょっと疲れてるのかな。帰ったら休もう、うん。
城の会議室に通される。会議室と言っても前世の様な無機質な場所ではなくソファとテーブルが置かれ、どちらかと言うと客間といった印象だ。
「ははは!相変わらず変な所で抜けていますな、リリア嬢」
「もう、セバス。笑わないでよ。ちょっと失念してただけじゃない」
「これは失礼しました」
陛下が来るまでの間のお相手を仰せ使ったセバスはニコニコと頭を下げる。
「リリアって、そつなく何でもこなしている印象があったけどねぇ」
「若干、近寄りがたい感じは確かにあったな。オーラが違うっつーか、他のご令嬢とは少し違う印象があった」
「概ね間違ってはおりませんよ、レオン殿、フィアン殿。城の使用人達の間でもお相手をする人間は限られていましたからね」
「そうなん?」
メイベルはバルトを見る。
「否定はできないな。あまりに強いからな、リリアの魔法レベルは。腫れ物に触る様になってしまう貴族も多かった。貴族出身ではない使用人達だと尚のことだっただろうな」
「強すぎる力はえてして恐怖の対象になるものだからね」
バルトは少し考えながら言葉を選ぶ様に言う。一方リリアは平気な顔をして紅茶を飲んでいる。
「セバスはSSの魔法使いだし、奥さんでメイド長のレイもSクラスだからね。この2人には叙勲されてからずっとお世話になってるよ」
「お世話だなんて……幼い頃から待機している時も泣かずに本を読まれたりジュースを飲んだりしながら、それはそれは大人しいご令嬢でしたもの。昔から本当に手もかからず大変利発な方ですよ」
メイド長のレイは紅茶を入れながら話す。バルト達にとっても初めて聞くリリアの幼少期に皆興味津々だ。
「生後5ヶ月から叙勲された子がてーかからんって、ナンボほど利口やってん」
「メイドに抱っこされて城に来て、メイド長に預けられて控室で待ってたのは覚えてるよ。ずっと抱っこされてたから、何でこの人はベッドに寝かせないんだろうって思ってたの」
「そんな小さな頃を覚えてんのか?」
「ん〜……家のメイドと全然違ったからね。うちのメイドは抱っこなんてほとんどしてくれなかったし、してくれてもすぐにベッドに寝かされたしね。父上に抱っこされた記憶なんてないなぁ」
「うちの父上は抱っこしすぎで母上に怒られたくらいなのに……」
「それが普通なんだよ」
特にレオンの所は長男が剣士向きじゃないからな。騎士団長は期待もしてるんだろう。剣士であっても騎士団向きではないけど。
そんな話をしているとドアがノックされて陛下が入ってきた。リリア達が立ち上がると、手で最敬礼を制しソファに座る。一緒にレオールも来ている。表情は記憶にある自信に満ち溢れたものと違い、どこか感情が削ぎ落とされた表情だ。ある程度予想はしていたとは言え、バルト達は辛かった様だ。息を飲むのが分かる。
「リリア。休みなのに悪いな」
「いえ。こちらこそお待たせしてしまい、申し訳ありませんでした」
「其方がメンバーのためにあえて言っていないのは予想がついたからな。相変わらず気遣いが素晴らしいご令嬢だ」
「もったいないお言葉です」
「それで、どっちから話そうか」
「ではまず、こちらの魔道具から参りましょうか」
そう言ってリリアは箱を開ける。中身を見て陛下もレオールも目を丸くしている。
「レオール様の腕を参考にして作った魔道具です。ガントレットです」
「ガントレット……」
「状況上仮の手としての役割が少し強めです。魔道具ですのである程度は動かすことは可能で、日常生活には支障が出ない程には動かせます」
「ふむ」
「しかしレオール様にとってそれだけでは魅力がない事も存じております。……レオール様。こちらを装備してみてください」
レオールは黙ってガントレットを手に取ると切断された手首に当てがった。義手はガチャッと音を立てて腕にくっついた。感触を確かめる様に手を開いたり閉じたりしている。
「そのガントレットには魔石が組み込まれています。魔石を起動させて手を握ってみてください」
魔石に魔力を込めギュッと義手を握るとガチャっと言う音と共に3本のナイフが飛び出す。
「こ、これは!?」
「ナイフを仕込んであります。今までよりも近接戦になってしまいますが、ないよりはいいでしょう?」
「確かに戦い方は変わるが、これは便利だ」
「それに剣は左でも振るえます。騎士としては邪道ですが、冒険者としてならば二刀流もいらっしゃいますから」
そう言うとレオールは遠い目をする。
「冒険者か……」
「……思うところはあるでしょうが、貴方自身の生き方にとやかく文句をつけられる筋合いはないはずです。私は冒険者としても活動していますが、騎士団長と鍛錬をさせていただいて、普通に勝ってますよ?」
はい、爆弾投下である。陛下とセバス以外は仰天している。
「あ、あの騎士団長に勝てたのか!?」
「勝てたと言うか、負けた事ないです」
「まじか……」
思わずレオールの素が出てしまう程度には衝撃だった様だ。
「騎士団至上主義も囁かれていますが、命をかけて戦っているのは騎士団も冒険者も変わりません」
「……そうか」
「もし冒険者として再出発するのであれば、お手伝いはしますよ?」
「え?」
「私の特訓は厳しいですけどね。それを覚悟出来るなら、前衛が増えるのはありがたいですからね」
そう、バルト達と話し合って決めた事。もしレオールが冒険者になる気があるのなら、その時は迎え入れてあげようと。
「その代わり、入るんやったらこの夏休み期間中、休めへんのは覚悟しぃや」
「あと、野宿もやり直さないとな。この間の実習でほとんど他の奴に任せてただろ」
「夏休み中にちょっと大きな依頼を受けようと話してるし、その間は野宿もあるだろうしねぇ」
「その辺も一ヶ月で私達に追いついてもらわないといけませんから、スパルタで行きますよ」
レオールは呆然とし、そして大粒の涙をこぼし始める。
「……レオール。俺はリリアに酷い態度を取ったお前を許せない気持ちは確かにある。でも、リリアが作ったチャンスを掴むと言うなら……俺は協力するつもりだ」
バルトの言葉は下手に優しい言葉をかけられるよりもレオールの心を救っていた。
「……っ。よろしく頼む!」
レオールはテーブルに手をついて頭を下げた。毒気が抜けた様だ。殿下の護衛というプレッシャーから開放されたのかもしれない。
「明日からギルドに登録してパーティ申請を出して、レベル上げするよ。夏休み中に50レベルにするから」
「はい!」
「リリア嬢。すまぬがよろしく頼む」
陛下は穏やかに言う。息子を守ってこんな事になった若い騎士は何としても救いたかったのだろう。そして真剣な表情になった。
「して、件のゴブリン討伐だ」
「はい。では、ある程度掻い摘んでお話させていただきます」
リリアは実習で起きた事を一通り話した。時々レオールにも話してもらい補足を入れながらリリア達がずっと抱いていた疑問は解決した。
「つまり偵察でゴブリンキングがいる事はわかっていたけど、それを自分達だけで討伐したら私達に一矢報いれると思って強行したと」
「はい……」
呆れた声でリリアはいい、申し訳なさそうにレオールは答える。
「アホやん!……おっと、失礼しました」
「いや、良い良い。私もそう思うからな」
陛下の前で殿下に軽い暴言を吐いてしまったメイベルは慌てて謝罪したが、陛下さえも呆れるほどの浅はかな理由だったため咎められはしなかった。
ちなみに他の子達は殿下とレオールが突っ込んで行ったのを見て、あまりの数に恐れをなして逃げようとして怪我をしたフェルデールを身代わりに自分達のキャンプに逃げたそうだ。研修が終わってからライオネル先生に聞かれ素直に答えたそうだが、せめて先生達のキャンプに逃げて来いと怒られた様だ。
「全く……若いうちは愚かな行動も言動もあるとは思う。余とて判断を誤ったことはあった。しかし、これはいただけないな。処分を検討しよう」
「お任せ致します」
何しろ王太子としての権威を利用して脅し、同級生を危険に晒したのだからそれ相応の処分が下るのだろう。まあ、廃嫡にはならないだろうけど謹慎くらいにはなるのかな。
「それとな、今回のゴブリン騒動の件で『エンシェント☆キラーズ』を冒険者ギルドに指示して、ランクをCに上げる様に指示してある。盗賊の捕縛も多くこなしているしな」
ここ半年で周辺に出没していた盗賊を大量捕縛、討伐をしていた。本当は捕縛の方が鉱山奴隷に出来るため報酬が多いのだが、そんな事を言っていられない場合もある。生きたまま捕縛するという事は技術的にも難しくベテランでも捕縛は出来ない人も多い。そんな中でも捕縛件数が多いうちのパーティは評判も高いのだ。
「Cランクですか。という事は……」
「ああ、有言実行だな」
思ったより早くCランクに上がれた。もう少し時間がかかるかと思ったが……
「そして余も約束は果たそうと思う」
「陛下。少々お待ちください」
「うん?」
「レオールのレベル上げがまだです。あと、ランク上げもまだです」
「あ、そうか。レオールは登録まだだから……」
「Gランクやな」
「全員でCランクになってからもう一度お願いしてもよろしいでしょうか」
「ははは!やはりリリア嬢は素直だな!ではもう少し待とう。いつまでに出来そうだ?」
「夏休み中には」
「レベルはいいとしてランクはどうするんだ?」
「……ギルドマスターに相談しましょう。条件は知ってますし、どうせこの夏休み中に大きな依頼も受けようとしてたし」
「出来るのか?」
「休まなければいける、と思う」
「思うんかいな」
「成せば成るんだよ。という事でレオール。悠長に言ってられなくなった。すぐに準備して行くよ」
リリアは立ち上がって陛下に頭を下げると部屋を出て行った。
「リリア!ちょい待ちーな!」
「陛下。失礼いたします。レオール、家まで送るから準備を」
「は、はい!」
「待てよ!リリア!」
「相変わらず猪突猛進だねぇ」
大慌てでリリアを追いかける面々。陛下は腹を抱えて笑う。
「いやはや!リリア嬢は愉快だな!」
「良くも悪くもまっすぐですからね。しかも、どうやらバルト殿とも良い関係だと」
「そうか。いい話が聞けるといいがな」
「はい」
セバスと陛下はそんな話をして部屋を出ていった。
ガントレットってかっこいいですよね!
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