緊急事態発生
次の日、朝食にお粥を作った。食べられる野草を採取していたため、それを入れた七草粥のようなものだ。
「朝にはええね」
「夏とはいえ、森の中の朝は冷えるからね」
「今日は朝礼が終わったらどうする?」
「他の子らは課題があるらしいけど、アタシらはなくなったさかいな」
『エンシェント☆キラーズ』で固まってしまったため、結局学園からの課題はなくなってしまったのだ。
「常設のゴブリン討伐をやりつつブラックウルフとかがいたら討伐でいいかな。あと生態調査も」
「分かれるか?」
「レオンとフィアンとアタシで回るさかい、リリアとバルトでデートしてき」
「メイベル!」
昨夜から暇さえあればリリアをからかってくる。油断も隙もない。
「じゃあ、そうしよう」
「バルトまで!」
「嫌か?」
「……」
リリアは赤くなってぷいっとそっぽを向いた。その後も一頻りからかわれながら過ごしていると、朝礼の時間になった。先生達のキャンプに行くと、ドミニクとレオールは不機嫌だった。同じ班の子たちもゲンナリしている。
「おはよう。一晩過ごしてどうだ?」
ライオネル先生の質問にドミニクは不満そうに鼻を鳴らす。何かあったんだな。何となく想像はつくけど。
「リリア班はどうだ?」
「ハッキリ言って快適そのものでした」
バルトの言葉にドミニク達は目を丸くする。
「まあ、あれだったら快適だろうなぁ」
「ホンマにキャンプなのか怪しいけどなぁ」
「安全だしいいじゃない」
「そうなんだけどね」
「色々規格外だからな」
ライオネル先生も笑っている。何も知らない他の生徒は何を言っているのか分かっていない。
「お前たちは課題はないがどうする?」
「ウルフの類がいないかを確認して、近くにゴブリンが溜まってないかのチェックとともに、森の生態調査の依頼があったのでそれをやろうかと思ってます」
「そうか。お前たちなら大丈夫だろうが、気をつけるんだぞ」
「はい」
解散した一行は早速森の調査に向かった。リリアは予定通りバルトとバディを組んだ。
「この実習って毎年この森なの?」
「ああ、魔獣もそこまで強くないしな。実習にはもってこいなんだ」
「なるほど。さっきからホーンラビットとゴブリンばかりだもんね。ブラックベアもいるけど」
ゴブリンは討伐するが、ブラックベアとホーンラビットは敵対さえしなければ討伐しないでいい。
「そいえば、森のざわつきが収まりきらないな」
「そうね。どうしたんだろう」
こんなにざわつき続けることなんて珍しい。何か異変が起きているのだろうか。
「……ん?」
「どうした?」
「今、声聞こえた?」
2人とも黙って耳をすませると悲鳴がかすかに聞こえた。
「こっちか?」
身体強化を使って声のした方に向かう。すると学園の生徒がゴブリンに襲われていた。
「危ない!」
バルトが風魔法でゴブリンを切り裂いた。
「大丈夫!?」
よく見るとSクラスの子だった。
「フェルデール!」
「あ、リリアさん……」
「貴女、ブレスレットは?」
「殿下に……没収された……」
「何で!?」
「あんな得体の知れない化け物の作った物を信じるのかって……殿下に逆らうのかって……」
そこまでして自分が上に立ちたいのか。流石に怒りが込み上げてくる。フェルデールの怪我は重く自力では動けなさそうだ。
「リリア。数が多いぞ。これは村かもしれない」
「……【召喚】アルガ」
召喚魔法でアルガを召喚した。
『お呼びですか?』
「この子を先生達のキャンプまで連れて行って。ゴブリンの村を見つけましたと伝えてここまで案内して」
『御意』
アルガはフェルデールを背負って走っていった。リリアはネックレスを握って魔力を通す。
「【招集】……これでメイベル達が来るまでここを死守するよ」
「分かった!」
風魔法で次々に襲ってくるゴブリンたちを相手しながらバルトは答える。
「バルト、前線交代。魔力を温存しつつ援護をお願い」
リリアはそう言って剣を取りだした。
「無理するなよ」
「ええ。メイベル達来たら教えて!」
ゴブリンの中に突っ込んでいく。正直いってこんなに多くのゴブリンを相手にするのは初めてだ。入り込みすぎず、背中は守ってもらえると信じつつもゴブリンに背中を見せないように注意して……
『ゴギャァ!』
土魔法がゴブリンに当たる。
「リリア!」
メイベル達だった。
「ありがとう!」
「よっと!またすごい数だね!」
レオンがゴブリンを切り倒しながら言う。確かにこの数は異常だ。
「皆でこの辺押えてくれる?バルト!」
「どうした!」
「何処かにゴブリンロードかゴブリンナイトがいるかもしれない!探すから手伝って!」
「分かった!」
「行くよ!」
「え?」
リリアは身体強化を使ってゴブリンの塊に切り込んで行った。
「行くって……!」
「突っ込むんかいな!」
「なんて無茶な……!」
「バルト!早く行け!」
バルトは慌ててリリアの後を追った。
本当に余計な事しかしないな、この王太子……
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