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いざ実地研修へ!

翌日、リリアを迎えに来たバルトは少し恥ずかしそうにリリアに手を差し伸べていた。リリアもそんなバルトに顔を赤くして手を取り馬車に乗り込んだ。馬車の中はいつもより静かに時間が流れて行く。


「「あの……!」」


同時に声を発して、そして『あっ』と顔を見合わせて思わず笑い合った。


「ごめんなさい」

「いや、俺がした事なのに何か恥ずかしくなっちゃって……」

「本当……あれはキザ過ぎだったよ」

「やっぱりそうだよな……」


やはりそんなロマンチックな空気は10歳には長く続かず、いつもの空気に戻った。校門前には大きな馬車がいくつも並んでいた。


「あ、リリア来よったか!おはよーさん」

「おはよう、メイベル」

「聞いたか?班分け、変わったらしいぞ。結局『エンシェント☆キラーズ』で班が組まれたみたいだ」

「え?」


初耳である。フィアンの話に思わず頓狂な声が出てしまう。


「どうやら殿下とレオールから陛下に直訴が入ったらしい。陛下は却下したらしいが、その話を聞いたアデール公爵から面倒だから便宜を図ってやれと先生が言われたらしいよ」

「何を考えてるんだ……面倒だろうと便宜を図ってしまっては権威の不介入という学園の理念が崩れてしまうぞ」


レオンの言葉にバルトは眉根を寄せた。陛下は却下した様だから、周りがいらない忖度をした感じか。


「第一、リリアがいるからこそ殿下の安全が確保されて陛下のご心配を晴らせるというものなのに」

「それが、納得しない奴らがいたんだ」


先生が来た。


「城ではリリアの実力を眉唾物と思う者も多くてな。そいつらを説得できなかったんだ。……リリア、悪いな。色々気を遣って準備してくれていたのにな」

「いえ、杞憂で終わるのが一番良かったので。あの魔道具が起動しない事を願いましょう」

「そうだな。……ではSクラスは全員馬車に乗れ!」


先生の号令で全員が馬車に乗った。ゴトゴトと揺られる馬車の中でメイベルは口を開いた。


「先生が言うてた『準備』って何なん?」

「ああ。今回さ学園の生徒だって分かる様にブレスレットが配られたでしょう?」

「これか?」


バルトが腕を上げてみせたのは馬車に乗ると同時に配られたシルバーのブレスレットだった。この学園の生徒であるということを分かりやすくするという名目で。


「そう。これね、実は私が作ったのよ。家に無駄にあったミスリルとオリハルコンを使ってね」

「「「「はぁ!?ミスリルとオリハルコン!?」」」」


全員びっくりである。ミスリルもオリハルコンも超高価な素材で、Sクラスだけでもいくら必要か、気が遠くなりそうなほどである。


「正直、売っちゃっても良かったんだけどね。使えるんだったら使っちゃおうと思って。そのくらい父上にも役に立ってもらわないとね」

「いや、それはええねんけど……」

「ああ、もちろん学園が買い取ってくれたよ?父上が無駄にコレクションしてニマニマしてた高品質の素材を贅沢に使って無料で寄付した方が面白いかとも思ったけどね」

「面白い、か?」

「父上への当て擦りとしてはね。でもそれ言ったら学園長も先生も『気持ちは分かるが、これから沢山お金が必要になって来るだろうから』って言うし……」


本当は寄付の方が父上に対してザマァ出来るから気持ちが良かったのだが、まあ確かにお金も必要だからね。結局は市場価格で買い取ってもらった。


「市場価格て……」

「気が遠くなりそうだな」


メイベルとフィアンは頭を抱えている。レオンとバルトは悟った様な顔になって自分たちのブレスレットを見ている。


「で、これはどんな魔道具なんだい?」

「攻撃を受けたら結界が発動するの。それと同時にこれをつけてる人たちに救難信号が発せられる様にしてある」

「アタシらのネックレスみたいやな」

「それは救難信号だけなんだよ。結界は張ってくれないから、自力になっちゃうからね」

「殿下のためにこんなの用意してたのにねぇ」

「実際は鍛錬してない2人を抱えて襲撃者を相手する自信はなかったから、先生に救難信号出すために作ったんだけどね」

「先生に?」

「エンシェントと遭遇したら、殿下ともう1人を庇いつつなんて無理だよ。先生に殿下達をお願いして私がエンシェントと闘うって言う作戦で行こうとしてたの」

「それで先生に相談してたのか」

「うん」


こんだけ気を使っていたのに全てを台無しにした殿下達に多少思う所がある一同だが、リリアは何とも思っていない様なのでとりあえず静観する事にした。


馬車は予定通り森の中に入る。森は少しザワついている感じがあるが、今の所は危険な様子はしない。


「何や、落ち着かんなぁ」

「森が騒がしいねぇ。僕らが集団で入って来たからかな?」

「そうかもな。警戒してるのかもしれない」

「もしそうならそのうちに落ち着くだろう」


メイベル達も森のザワ付きに気がついた様だ。成長である。


「Sクラス集合だ!」


ライオネル先生の声で全員が集まる。森の中でも割と深めな場所にSクラスはキャンプを張る事になっている。


「さて、今日から3泊4日の予定で実習を行う。何か身に危険が及んだらこのブレスレットが救難信号を発してくれる。ちなみにこれを用意してくれたのはリリアだ。……ドミニクのためにな」


先生が言う。ドミニクは驚いてリリアを見る。


「ドミニクと同じ班にすることは事前に言ってあった。そこでこのブレスレットを量産してくれた。いざと言う時に結界を発動して救難信号も出してくれるそうだ」


ドミニクもレオールも胡散臭そうに見ている。が、他の生徒は興味津々といった感じだ。


「とにかく、これは肌身離さずにいてくれ。俺にも連絡が来るようにしてあるからな。では解散!」


リリア達は森の中を歩き、川の近くにある軽く開けた場所にキャンプ地を作る事にした。


「.......なあ、リリア」

「うん?」

「アンタ、『キャンプ』の意味分かっとるか?」

「一応ね」

「じゃあ何でここに小屋が出来上がっとんねん!」


目の前の立派な小屋を見てメイベルは叫んだ。確かにこれはただのキャンプではない。グランピングだ。


「いやぁ、本当は殿下がいるから警備のことも考えて用意してたんだけどね」

「無駄にするくらいなら使っちゃおうという事かな?」

「うん!」

「『うん!』ちゃうわボケェー!」


メイベルのハリセンが飛んできた。そう、一応王太子がいる以上警備には気を配らないといけない。騎士達はいないからね。この位は必要かなと思って作ってアイテムボックスに入れておいたのだ。


「中も豪華だねぇ」


簡易キッチンにトイレと風呂も完備しておいた。お湯は炎の魔法を付与した魔石を使っている。コンロも魔道具だし、簡易の冷蔵庫もある。トイレもちゃんと水洗である。


「流石に小部屋はどうかと思って、雑魚寝になっちゃうけどね」

「それが普通やアホ!」

「それ以前に小屋がどうかという所に気を配って欲しかったな.......」

「まあ、殿下のためだったんなら分かるけどな」

「これ、旅で使ったら目立つだろう」

「『パーティの輪』を持ってないと結界で見えなくなる仕様だから」

「何や、仕様ならしようがないな.......ってどアホ!」


殿下も大人しく同じ班にしてたらここに寝泊まりできたのにね。馬鹿なヤツだ。


「.......さて。狩りに行くか。あと、飲水の確保も必要だな」


バルトは言う。その日に食べる分の食料と飲水の確保がキャンプの基本だ。.......この小屋のパントリーは時間停止の魔法がかかっていて、食料が大量に備蓄してあるのだが言わないでおこう。そこまですると研修の意味がなくなってしまうから。


「狩りは俺とレオン、フィアンで行こう。リリアとメイベル飲水の確保と虫対策を頼む」

「はいな」

「了解」

「さっさと行こうぜ〜」


男子陣は狩りに向かった。リリアとメイベルは水を汲みに川に向かう。川はとても澄んでいて、この季節には涼を取るにも最適だ。


「涼しくてええなぁ」

「森の中だと日差しも遮られてるからなおのこと過ごしやすいよね〜」

「ホンマやなぁ。王都は便利やけど暑いさかい、そこが不便なんよ」

「何でも揃うけどね〜」


日本で言うヒートアイランド現象というやつだ。世界は違えど街であるほど暑さを感じやすいのは同じのようだ。


「拠点が早くできたし、ついでに森の巡回と薬草採取もする?」

「せやな。ほな虫除けのお香焚いとる間にこの近在を散策しよか」


水を小屋のキッチンに置いて虫除けのお香を焚いた状態でメイベルと共に近所の散策に出た。相変わらず少しザワついてるが、エンシェントの気配はない。やはり学園生が集団で入ったからだろうか。


「あれ以来、エンシェントウルフは出てへんな」

「出るのが異常なんだけどね」

「せやな」


少しするとドミニクたちの姿があった。ドミニクは『早くしろ』と言うだけ。テント設置も虫除けも狩りの準備も全て他の生徒がやっている。レオールも何もしていない。きっと殿下の護衛を言い訳に何もしないのだろう。


「こりゃ、他の子らが大変やな」

「逆に何もしない方が邪魔にならなくて良かったりして」

「そうかもな」


王子として何不自由なく過ごしてきたドミニクにとってこの研修は市井を知るいい機会なのだが、彼もレオールもその意義を分かっていない様だ。


「お、見つけたで」


メイベルはそう言って木のそばに生えているキノコを採取する。


「何個いるんやったっけ?」

「3個かな」

「なんや、群生しとったわ」


幸い3個集まって生えていたから良かった。珍しいキノコのため、中々見つからないのだ。


「運がええなぁ」

「良かった。もうひとつは月見草だから夜に出直さないとね」

「ほな戻るか」


小屋に戻ると丁度先生達とばったり会った。小屋を見上げて他のクラスの先生は唖然とし、ライオネル先生は苦笑いをしている。


「相変わらずだな、リリア」

「あ、そうか。先生は魔道具持ってたっけ」

「おう。安全のためにな」

「殿下のためやったのになぁ」

「まあ、仕方がないさ」


先生達はコソコソと話している。『殿下のためとはいえ、これは.......』『しかも魔道具を持っていないと結界で見えなくなるなんて聞いたことがないぞ.......』『天才レベルじゃないぞ.......』など、騒然としている。


「リリアは陛下も認める規格外だからな。誰もできん」

「せんでええ」

「酷いよメイベル」


拗ねるように頬を膨らますと、メイベルにはジト目をされたが先生には少し驚かれた。


「リリアも子供っぽい顔をするんだな」

「まだリリアは子供や」

「そうなんだけどな。何となく同い年と話してるような気になる時があるからなぁ」


ポンポンと大きな手で頭を撫でられる。親にもされた事がない。.......ちょっと嬉しいかも。


「あれ、先生?」


振り返るとバルト達がちょうど戻ってきた。


「あ、おかえり。何か取れた?」

「ブラックベアが取れたぜ。あとゴブリン少々」

「食料になりそうな魔獣は多かったよ。狩りさえ出来れば飢える事はなさそうだね」

「ほな他の子らも大丈夫そうやな」


バルトは黙ってリリアを見ている。リリアは首を傾げる。


「バルト?」

「ああ、いや、何でもない」


そう言ってアイテムボックスからブラックベアを出した。


「5人で食べるならこのサイズでいいだろう?」

「ちょうどいいね。肉以外はギルドで売るとして、とりあえず解体しようか」

「任せとき」


メイベルはフィアンとブラックベアを解体する。方や商会の娘、方や肉屋の息子。この2人に任せたら間違いはない。


「ギルドで何か依頼は受けてきたのか?」

「薬草採取を少し。討伐は拠点を動かさない事を考えて、討伐出来たらギルドに申告しようと言う事にしました」

「なるほどな。いい判断だ」


また頭を撫でられる。生まれてこの方、ちゃんと褒められる事もなかったから褒められると嬉しい。


「くくくっ」

「何ですか?」

「いや、随分嬉しそうだなと思ってな。頭を撫でられるのは好きなのか?」

「まぁ.......嫌いでは、ないですね.......」


改めて指摘されると恥ずかしかった。顔が熱くなる。


「先生、あんまりからかわんといてやってください。可哀想やから」

「おっと、すまんな」

「いえ」


先生達は他の班の様子を見に行った。解体の終わったブラックベアを小屋の中に入れる。料理はリリアとメイベルだ。


「余った肉はパントリーに入れといて」

「ほいな.......ってなんやこれ!」

「あ、空間魔法付与してあるから時間も止まってるよ、そのパントリー」

「そうやないて!なんやこの大量の食料は!」

「何かあった時に篭城できるだけの食料は備蓄してあるの」

「どんな時を想定してんねん!」

「え、スタンピード?」

「アホォォォォ!」


スタンピードとは魔獣の大量発生の事だ。終息に一ヶ月かかる事も多い。その時に安全に休息を取れる拠点は便利なのだ。


「どのくらい篭城出来るんだい?」

「10人で一ヶ月は行けるかな。節約したらもう少し行けるかも」

「間に討伐した魔獣の肉とか挟んだら無限だな」

「そうだね。水とかは魔石もあるし」

「規格外すぎるな」


パントリーを覗き込んだ面々は口々に言い、感心している。


「出来たよ」

「アンタ、料理出来るんやね」

「失礼な!野宿とかしてたんだから出来るわよ」

「そういやそうやったわ」

「ありがとう」


配膳を手伝ったバルトはお礼を言ってリリアの頭を撫でてきた。


「どういたしまして?」


首を傾げて不思議そうにリリアは答える。全員ガクッと来た。バルトに至っては落ち込んでいる。


「まあまあ、バルト」

「ドンマイ」


レオンとフィアンは両脇から慰めている。


「アンタ.......」

「へ?」

「ホンマにええ加減にしいな!バルトが可哀想やろ!」

「えぇ?!」


なんで怒られたか分からない私はただ困惑したのだった。


夜になりメイベル、レオン、フィアンは月見草を探しに森に入った。リリアとバルトはお留守番だった。まあ、わざと2人にしたのだが。


「もう。何で怒られたのか分かんない!」

「あはは……」


未だに納得のいかない私は寝袋の準備をして言う。バルトは笑うしかない。この天然は何も気がついていないのだ。


「……リリア」

「うん?」


バルトは自分の寝袋の上に座ってリリアをチョイチョイと呼ぶ。リリアは不思議そうにバルトの前に座る。バルトの手はリリアの頭を優しく撫でる。


「……何?」

「いや……嬉しそうだったからさ」

「へ?」

「先生に撫でられて、嬉しそうだったから」


あ、だから撫でてくれてたのか。


「ただ先生の真似をしてるだけなのかと」

「むしろ何でそうなったんだ?」

「……大人の真似をしてみたいお年頃だから?」

「酷い……」


バルトは落ち込んでいる。


「リリアと同い年なのに……」

「私も同じですよ?大人たちの真似をして、強くなろうとしているんですから」


バルトは顔を上げる。


「大人の真似をして、早く大人になって、兄上やアメリアを守れる当主にならないといけませんから。それが兄上とアメリアに出来る唯一の償いですから」

「リリア……」


被害者として扱われる事が決定したとはいえ、ジェイコブとアメリアへの虐待を見過ごしていたのは事実だ。見た目は10歳とはいえ、中身は40近いのだから。

しかし、バルトからしてみたらそんな事情は分からない。同い年の、まだ10歳の子が必死で父親の尻拭いをしようとしている。決してリリアのせいではないのに、あたかもそれが当たり前であるかのように背負う決意をしている。しかも1人で。


「リリア」


バルトはリリアの手を握る。優しく、しっかりと。


「俺も頑張るから。リリアの隣にいても違和感のない人間になれるように。だから1人で何でも抱えようとするな」

「バルト?」

「リリアだけが戦う事がない様に、俺も強くなるから。だから1人で戦おうとするな」

「……そりゃあ、パーティなんだからいてくれないと困るんだけど……」


……


「何でやねん!!」

「メイベル!?」

「何でそうなんねんな!ええ感じやったやろ!今!」


いつの間にか帰って来てたメイベルが渾身のツッコミを入れてくる。レオンとフィアンは可哀想なものを見るかの様にバルトを見る。


「どんだけ天然やアンタ!」

「……るさい」

「あ?」


背を向けているリリア。傍から見るとただメイベルに怒って拗ねているだけに見えるが、メイベルだけは分かった。リリアの耳まで真っ赤になっている事に。両頬を手で覆って必死に落ち着こうとしている事に。メイベルはそれに気がついて『あっ』となった。そう、分かっていたのだ。ちゃんと伝わっていたのだ。ただ恥ずかしくて素直になれなかっただけで。まあ、前世の記憶があるリリアとしては『相手は子供……相手は子供……私はショタコンじゃない……』と言い聞かせていたのだが。


空気の読めないクズ二号。天然系令嬢のリリア。


予約投稿です。誤字脱字がありましたら連絡お願いします。

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