初めて……
学園に入学して半年が経った。リリア達は午前は座学を受け、午後からはギルドの依頼を受けるという生活を送っていた。ランクもDまで上がっていた。正攻法でブラックウルフの討伐依頼を達成出来るランクまで上がることができ、リリアも満足だった。それを皮切りに討伐依頼を優先して受け、盗賊の討伐依頼も率先して受ける。そして時間があれば王都の下水道掃除やドブさらいの依頼も受けたりしている。それは王都の情勢や民の様子を見たり、情報収集をしたりするためである。何しろ最近は今まで現れた事のない所で現れた事のない魔獣が現れたりしている。元からいた魔獣もその行動がおかしかったりする。民の不安も広がっている。それを少しでも軽く出来たらと言って、時間を見つけて広場の屋台の人達に声を掛けたりもしている。
「さて、全員揃っているうちに明日の恒例行事について話すぞ」
先生は教本を閉じて言う。
「知っている通り、1年は実地研修として王都側の森で野宿体験をする。このクラスも3班に分けて行う。今回はこっちで班わけをした」
プリントが配られる。まあ、予想通りというかリリア達は別れて班わけされている。
「A班はリリア、ドミニク、フェルデール。B班はバルト、レオン、ポール。C班はメイベル、フィアン、ツェルン、レオールだ。バランスを考慮したが、何か質問はあるか?」
「先生。殿下の護衛として私が離れてしまうのは困るのですが」
レオールは言う。確かに唯一の護衛が殿下の側にいないのは困るかもしれないが。
「お前以上にリリアが強いから問題ないだろう」
一刀両断である。確かに彼よりは強い自信がある。レオールはぐぬぬと言った感じ。ドミニクは憎しみの籠った目で睨んでくる。フェルデールは黙ってリリアを見ている。
「とりあえず問題はなさそうだな。各自準備をして明日は学園の玄関に集合だ。リリアはくれぐれも自重してくれよ」
「はい」
流石に王太子の前で無理は出来ない。その辺は分かっている。
「あまり驚いてなかったな」
「事前に聞いてたから。あの森のことも含めて打ち合わせが必要だったしね」
「なるほど」
リリアの屋敷でバルトと共に紅茶を飲む。ほぼ毎日こういう時間を取っているのはセバスの計らいでもある。
「どうも殿下とリリアを同じ班にしたのは陛下の心配を考慮したみたいだ」
「そうなの?」
「エンシェントウルフが出たからな。レオールでは荷が重い。リリアは討伐経験もあるし安心だからな」
「なるほどね。その辺は先生は言ってなかったけど、そういう事だったのね」
「レオールは文句タラタラだろうからな。メイベルとフィアンは大変だろうな」
「あの二人なら大丈夫だろうけどね」
何を言ってもきっといなしてくれるだろう。ここ半年でたくさんの依頼をこなして来て経験も積んだ。あの2人ならエンシェントでもない限りは問題ないだろうし、仮にエンシェントが出た場合は救難信号を発する魔道具も持たせてある。何かあれば駆けつけることも可能だ。
「では、明日の準備もあるからこれで……」
「うん、また明日ね」
外に出ると風が少し冷たかった。夏も本格的になっているこの時期には珍しい。
「ここでいいよ。寒いからね」
「そう?」
すると何を思ったか、バルトはそっとリリアの手を取るとその手にそっとキスをした。
「……ふぇ?!」
「また明日」
バルトは少し悪戯っぽい笑顔で言うと馬車に乗り込んで行った。リリアはしばらく呆然とする。
「……お嬢様。そろそろ戻りましょうか」
スティーブは優しく微笑んで言う。リリアの顔は段々と赤くなって行く。
「……びっくりした……」
「ふふふ……きっと今頃、バルト様もお顔が真っ赤になっているでしょうね」
その予想は正く、自分でやった事とは言えキザ過ぎたかもしれないと顔を染めたバルトだった。
バルトにとっても初めてのKissです。
予約投稿です。誤字脱字がありましたら連絡お願いします。