初めての召喚術、そして……
「お前らなぁ.......」
先生はため息をついた。週末にギルドマスターとダンジョン周回したらレベルが30になったのはギルドから聞いた。それでさえ授業のメニューを考えると頭が痛かったのに、そこから50レベルまで上がってしまったと本人たちから聞き頭を抱える事となった。
「座学は必要ですし、受けたいのですが.......」
「魔法と剣術はいらないか?」
「.......結局、実践あるのみですからね」
「だよなぁ.......」
結局、実技の授業はギルドでの依頼達成報告で良しと言うことになった。
「午前はどのみち座学だ。それを受けて午後はギルドでの依頼達成って事でいいんじゃないか?」
「先生、ヤケにならんといてください」
「メイベル、お前まで規格外に.......」
「しょうがないですやん」
「そうだけどな.......」
ドミニク達はバケモノを見る目をしている。鍛えてもいいんだけど、素直に受け入れるわけもないしね。
「そう言えば先生」
「何だ?」
「今日の午後って召喚魔法やりますよね?」
「そうだな」
「それは受けたいです」
「.......やったことないのか?」
「はい」
召喚獣とかロマンあるよね!実は家庭教師も専門外だったみたいで習ってないのだ。
「意外だったな」
「独学でやっとるかと思っとったわ」
「流石に独学でやって変なの召喚したら嫌でしたもん」
「その辺は常識人だったのか.......」
「魔物とか召喚してしまう時もあるって聞いたので」
この世界では『魔獣』と『魔物』は別物であり、『魔物』は人の姿をした魔族、魔人のことを指す。魔族は裏の世界を治めている種族で、はるか昔に領土を争う戦争があり、魔族は負けて裏の世界に追いやられたのだとか。今でも魔族は表の世界に暮らす者を恨んでいるらしい。
「そんな心配しないでも学生じゃあ魔物は召喚できない、と言いたいところだがな」
「リリアはレベル100のSSS魔法使いだからねぇ」
「召喚できそうだ」
熱い信頼をどうも。という事で午後の最初に入っている召喚魔法だけは受けてギルドに行く事になった。
昼食後、一行は校庭に集まった。そこにはSクラスの面々と先生そして何故か学園長までいた。
「リリアの実技と聞いて見学したかったのだそうだ」
先生は苦笑している。どんな召喚獣を手に入れるのか楽しみだとワクワクして言われてしまった。期待が重いよ。
「という事で、リリアは最後だ。ドミニクから行こう」
「はい」
召喚魔法は事前に先生が地面に描いた魔法陣に魔力を込めると出来るのだそうだ。ドミニクは魔法陣の上に立ち魔力を込める。魔法陣が光り、現れたのはウルフ系だった。ウルフは知能が高いためプライドも高い。召喚出来ることすら珍しい。リリア達が討伐したブラックウルフとは違い赤い毛並みのウルフ、ファイアーウルフだ。炎の魔法を使えるウルフで、召喚獣としても人気が高い。
「ほぉ、流石だな」
先生の言葉に得意げだ。契約をすると、ウルフはドミニクの横に控えた。
次に召喚を行なったのはバルトだ。魔法陣から現れたのはワシの様な大型の鳥だった。
「シャドーイーグル!?」
「流石やな、バルト」
「シャドーイーグルって召喚出来たんだねぇ」
確か魔獣の本にも出てきていた超レア魔獣だ。陰に潜むことが可能で、その姿を見たものは少ないと言う。その姿から一度は契約したいと言われるものだが、召喚出来た例が少なく眉唾に思っている者も多くいる。
「よろしく頼むよ」
バルトがそう言って首元を撫でると、シャドーイーグルは嬉しそうに目を細める。
「いやはや、だてに50レベルまで行ってないな」
「俺も驚きました」
「うむ。見事だ」
ライオネル先生と話している学園長も嬉しそうだ。リリアの様子を見ようとしたら予想外の者まで見る結果となっている。ドミニクが盛大な舌打ちをしたが、まあいつもの事だ。
その後、どんどんと召喚を行った。メイベルは蛇の魔獣ブラッディースネーク、レオンは鹿の魔獣ヒュージディア、フィアンは蜂の魔獣キングビーを召喚した。
ブラッディースネークは吸血に特化した蛇の魔獣で、相手に絡みつき首に噛み付く事で血を吸い上げるのだ。何だかメイベルが蛇を連れていると、関西弁も相まって京美人に見えて来る。大きくなったら美人さんになりそうな顔立ちをしているし。
ヒュージディアは移動手段として優秀だ。背中に乗って移動するのが一般的だが、トナカイよろしくそりの様なものであれば引っ張ることもできる。しかし馬ほど脚力はないため馬車としては不向きなのだ。
キングビーは想像はつくだろうが、その尻に毒針を持っている。その毒は個体によって様々だが、今回フィアンが召喚したのは神経系の毒を持っていた。動けなくなった敵を喰いちぎって巣に運んでいくのだとか。中々に恐ろしい魔獣だ。
他の生徒はホーンラビットとか、スモールバットなど初心者が召喚する見慣れた魔獣を召喚していた。本来はこれが普通なんだろうなぁ。
「さあ、リリア。準備いいぞ」
先生に言われてリリアは魔法陣の上に立った。どうせだったら移動手段にもなる魔獣がいいな。森の中を身体強化して移動する度に移動手段になる魔獣が欲しいと思っていた。魔力を注ぐと魔法陣が輝きだす。ちなみに魔力によって魔法陣の輝きは変わる。一年生なら少し光るくらいなのだが、バルト達は輝くという言葉が正い状態だった。学園長もそれを見て目を丸くしていたのだが、リリアの場合は目が潰れそうな程に光っていた。
姿を現したのは白銀の狼。神々しいまでの毛並みで、リリアを真っ直ぐ見つめる瞳は黄金色に輝いている。その狼は身体を低くし、所謂伏せの状態になる。
『我が主人。ようやく見える事が叶いました事心より嬉しく思っております』
「あれ?喋れるの?」
『私は神獣フェンリル族の長、ビックフェンリルのアルガと言います』
「あ、フェンリル……」
『はい。その上位種であるビックフェンリルでございます』
うわー。これは私でも分かる。超チートじゃん。何で神獣なんて召喚出来ちゃったの?しかも召喚されたのが余程嬉しかったのか、尻尾が全力で振られている。……可愛い……
「では、契約してくれるの?」
『もちろんです、我が主人、我らが聖女よ。我らフェンリル族。全力を持って貴女様に仕えさせていただきます』
「ありがとう」
魔法陣に流し込まれた魔力をアルガは全て吸い上げた。召喚された魔獣との契約は魔法陣に流し込まれた魔力を魔獣が吸い上げる事で成立する。自ずと、術者の魔力に耐えられるだけの器を持つ魔獣が現れる。つまりリリアの魔力は神獣でないと耐えられないということだ。
振り返ると概ね全員唖然と言った感じ。バルト達は呆れている。
「いや……神獣とかホンマ……」
「しかも上位種でフェンリル族の長だしねぇ」
「なんかやらかすとは思ってたけどな……」
「まさか一族郎党、主従契約するとは……」
そう、長と契約すると言うことはその下にいる部下達とも契約すると言う事なのだ。この一族は総勢100頭を超えているようで、その全てがリリアの神獣だと言う事になる。
「は、はは……ワハハハハハハ!」
「が、学園長!?」
茫然としたのち大笑いをし始めた学園長に先生はびっくりしている。
「いやいや!陛下からリリア嬢は規格外もいいところだと伺っていたが、まさにその通りだな!お前を担任にする様に陛下から仰せつかったが、正解だった!」
「こっちは胃が痛いのですが……」
先生は苦笑いをしながら言う。
「先生、胃薬いりますか?持ってますよ?」
「いや。そういう問題ではないから大丈夫だ」
「アンタ、ホンマそういう所で天然出さんといてーな」
「胃痛の原因はお前なんだよ……」
メイベルとフィアンの一言にリリアは首を傾げる。
「とりあえず、魔物を召喚しなかっただけよしとしよう」
「そうだね。リリアの魔力ならあり得たものねぇ」
バルトとレオンは現実逃避を始めた。そのくらいじゃないと身が持たない。
「とにかく、今日の召喚魔法はここまでにする。リリア達はここで帰宅だな?」
「はい。着替えてからギルドに向かいます」
「気をつけてな」
「「「「「はい」」」」」
リリア達は教室に戻り荷物を持って帰路についた。リリアはバルトと馬車に乗り屋敷に戻る。
「お茶まで出していただいてありがとう」
「いえ、リリアお嬢様がお世話になっておりますし、ロベルト領ではアメリアお嬢様もお世話になっておりますので。このくらいはさせてくださいませ」
スティーブは温かい紅茶を入れて言う。リリアを送って自分の屋敷に戻って着替えてとなると時間もかかるため、リリアの屋敷で着替える事にしたバルトはすぐに着替えを終えて客間でおいしい紅茶を飲んでいた。
「もう間もなくリリアお嬢様も支度が終わります」
「慌てなくてもいいよ。そんなに急いでも仕方がないからね」
「はい。……バルト様」
「はい?」
「リリアお嬢様のご様子はいかがでしょうか」
「様子?」
バルトはキョトンとした。そんなの、執事であるスティーブが一番わかりそうなものなのだが。
「リリアお嬢様はこの屋敷でも常に公爵令嬢として振る舞っておいでです。私にも相談はあまりされず、兄であるジェイコブ様や妹のアメリアお嬢様を常に気にかけていらっしゃいます。つまるところ、ご自身のことが後回しになりがちなのです」
「なるほどね」
「最近、バルト様達と楽しそうにしていらっしゃるご様子を見て、少しはご自身のことも気にかけていらっしゃるのかな、と」
「いや、そう言った意味では俺たちの前でも常に自分は後回しだね。レベル上げだって俺たちのためを考えて、無理なく予定を組んでいるのが分かるよ」
エンシェントウルフが現れた時も、バルト達から極力距離を取れるようにしていた。メイベルが気を利かせなかったら協力を願い出ることもしなかっただろう。
「育った環境のせいもあってか、同年齢のご令嬢と比べても大人びていらっしゃいます。故に何でも抱え込んでいらっしゃるのではないかと.......」
「お披露目会の時も驚いたよ。父親が亡くなったと聞いてその時点で出来うる最善を選んで、他の貴族達とも気後れせずに渡り歩いていた。父上も助力していたとはいえ、その後の父親の不祥事の後始末も兄君や妹への気遣いも国王陛下との話し合いも。父上が驚く程の行動力だったと聞くよ」
「才女だともてはやされている一方で、リリアお嬢様はまだ10歳でいらっしゃいます。甘えたいお年頃でしょう」
「そうだね。俺じゃあ力不足だし、父上に甘えるのはきっと遠慮するだろうし.......」
「いえ、今最も近くにいらっしゃるのはバルト様でいらっしゃいます。どうか、リリアお嬢様を支えて頂きたいのです」
「.......うん。できる限りの事はするよ。俺だって一目惚れしたご令嬢を守れないのは情けないしね」
初めてリリアと顔を合わせたとこの衝撃は今でも忘れない。あまりに美しく可憐な花のようなご令嬢。そんな姿とは裏腹に芯の通った強さも持ち合わせている。しかも魔法を使わせればSSSクラスの桁違いな威力だ。エンシェント魔獣を単独で討伐できるくらいに強い。しかも剣術も体術も心得ていると来た。彼女なら史上初の女公爵も頷ける。しかし、そんな才女故に孤独になってしまう。1人でなんでも出来てしまうからこそ、誰もたどり着けない所にいる孤高の天才だからこそ。
「.......せめて隣にいて遜色ないくらいに強くならないとな」
「どうかご無理だけはなさいませんよう」
「うん。ありがとう」
スティーブとバルトは共にあの規格外のご令嬢を孤独にしないようにする決意をした。まさか本人が廊下でその会話を聞いていて顔を真っ赤にしているとは知らず。側にいるメイドも穏やかな笑顔で見守っていた。
男のプライドですかね。好きな子に頼られたいお年頃かな?
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