転生しました
huwahuwanyankoの第二作です。作者本人が書いていて楽しかったので、是非お楽しみください。
「紗智!コーヒー買って来て〜」
「あ、私ミルクティーね!」
「ついでに俺のタバコも買って来い」
「分かりました……」
メガネをかけた地味なOLはそう返事をして席を立った。北海道の某オフィスで紗智と呼ばれたOLはダウンコートを着て外に出る。今日は猛吹雪でホワイトアウトしている上に寒い。元々物静かで何を言われても反論しない所謂『都合のいい人間』だ。そんな彼女は同僚達にとって使いっ走りでしかなく、書類のコピーや紙の補充、お茶くみや買い出しなど今日も彼女はいろんな意味で重宝されている。決して給料のいい会社でもなく、サービス残業なんて当たり前。かと言ってこの不景気な情勢でこれ以上の好条件はない。
会社近くのコンビニで指定通りの品を買い、オフィスに戻る道中に唯一ある信号待ちをしながら考え事をする。地味で安月給で毎日の様なサービス残業の上に同僚達の小間使い状態の私にも人生の楽しみというものがある。それはラノベを読む事。
今日は帰ったらラノベの続きを読もう。ずっと続きが気になっていた話の新刊が出ていた。最近は配信アプリなどもあるため、たとえ深夜でも買う事が出来る。家に帰って夕飯をレンチンしている間にお風呂に入ってビールを飲みながら新刊を読む。この贅沢は誰にも譲れない。
信号が青に変わり渡っていると、タイヤが滑るする音が聞こえて振り返る。目の前には大型のトラック。小さい頃から父が真剣の師範をしていただけにその指導を受け合気道も嗜んでいた私だったが、ここ数日の休日返上の残業続き社畜だったため体も頭も正常に働かなかった。ドンという鈍い音。激しい痛み。冷たくなってゆく体。周囲の喧騒。誰かが声をかけてくる。勝手に体が仰向けになるとサラリーマン風の男性が必死で声をかけてくる。何を言っているのかは聞こえないがこの慌てっぷりだ。交通事故に巻き込まれたのが理解出来る。痛みももはや分からず、薄れゆく意識の中、老人の声が聞こえる。
『望みはあるか?』
望み?
『そなたの望みを叶えてやろう』
誰だか分からないけど、もし生まれ変われるならラノベよろしくの転生チート無双をしてみたいな。魔法を使って仲間と共に世界を回って、魔獣を討伐して、国を救ったり、文化の発展に尽力したり。ああ、功績が讃えられて叙勲されたり、貴族になったり、平気で国王陛下や王太子殿下と仲良くなったりするのも面白いかもね。
『贅沢な奴じゃのぉ』
なんか文句言われた。妄想なんだからいいじゃない。妄想は人々に等しく与えられた贅沢であり権利だ。文句言われる筋合いも否定される言われもないはずだ。
『まあ全てとはゆかないかもしれないが、出来うる限り叶えてやろう。そなたは十分過ぎるほど徳と修行を積んでいるからのぉ』
はは。使い走りになっていたことで図らずも修行と徳を積む事になってたのか。やっておくもんだね。
『それでは行こうか?』
ええ。お願いします。
『では。我ら神はそなたに多くの幸がある事を祈っておるぞ』
ありがとう、神様。次に生まれ変わったら自重なんて絶対にしない。魔法使って世界回って暴れまわってやる。
スゥッと意識が遠のく。何だか苦しい。息が出来ない上にせまい。何処だろう。滑る様に何処かを進んでいっている。ズルッと飛び出す感覚と一気に空気が体内に入ってくる感覚。空気って素晴らしい。なんて言ってる場合じゃない。目が開かない。開けようとしてもうまく開けられない。声を出そうとすると泣き声に変わる。
「ふにゃぁ!」
ふにゃぁ、て。
「奥様!生まれましたよ!女の子です!」
「ああ!ようやく会えたのね!」
あ、これ知ってる。このシチュエーション、何処かでみた事ある。
「リリア。貴女はリリアよ」
女性の声がそう言ってくれる。ああ、これは間違いない。転生だ。夢じゃなかったんだ。本当にラノベの様な事が起きているんだ。
「そんな事より鑑定だ。おい鑑定士。この子のスキルを鑑定しろ」
誰だよ。この感動的な状況に水を差してる奴は。
「はい。……こ、この子は《魔法使い》でランクSSSです!」
周囲がザワめく。何だろうSSSって。なんか凄そうだけど。
「そうか。……スザンナ。よくやった」
「ありがとうございます……」
「リリアという名前はありきたりではあるが、まぁ平民に産ませた子供にはそんな贅沢な名前はつけてやる必要もないだろう」
おい、全リリアさんに謝れ。失礼だぞ。何つう所に転生して来たんだろうか。嫌な予感しかしないよ、本当。