第7話:臆病者の自己紹介
僕は気付いた。みんなの表情が変わったことに。
緊張する。
僕はおかしな子に見られたくなかったからペコっと愛想よくおじぎをして近くの席に座った。
そして、また僕は気付いたのだ。
バンダナの子の視線に。
一瞬・・・本当に一瞬だけど見逃さなかった。その子は僕を見てなかった。
しっかりと怨に焦点が合った目で警戒気味に視線を流したのだ。
プロの目だと思った。
見えてる!?
どういうことだ?
僕は小声でつぶやく。
「なんで見えてんだよ!」
おそらくみんなの表情が変わったのもこいつに気付いたからだ。
ここは男子校。女の子はいない・・・それがいるとなると能力者たちには新手の能力だと思われる可能性がある。
いや・・・思われた。人間を具現化する能力といったとこだろうか?
急に能力を発動した見慣れないやつは俺だって危害を加えられると思う。
サイキッカーなら常識だ。常人と違うのだから他人の能力には人一番敏感なのだから。
「サイキッカーにだけ見えるように実体化したのよ。あたしだってあなた以外のお友達がほしいわ。もしかしてほかの子に取られるんじゃないかとやきもちやいてるの?クスッ」
こいつ現状に気付いているのだろうか?そうとうなKYちゃんかいつものいじわるか?
まだ、僕はこいつのそういうところを読み取れずにいた。
先生が入ってきた。
みんなの名前が呼ばれる。
前原君と大杉君は知ってる・・・同じC組だからだ。
バンダナの子の名前は今日野というらしい。みんなの名前はだいたい覚えた。
だんだん僕の自己紹介が近づいてくる。
普通に話せるだろうか?顔は赤くなっていないだろうか?
いけない・・・・脂汗がでてきた。体がぬるくて気持ちが悪い。
「そんなに、深く考えなくていいじゃない?」
怨は僕にそう呟いてくれる。こんな小さな気遣いが嬉しい。
そうだよな・・・・僕のことなんかそんなじっくり見やしないさ!
そんな、気持ちにさせてくれた。
怨の顔を見る。僕の緩んだ表情を見て少し微笑んでくれた。
ありがとう。そう言いたい・・・・
「かわいいわね。クスッ」
なにが?いつもこいつのかわいいはよくわからない。
何を笑われたのだろうかとまた歯がゆい気持ちになった。
「先生がお呼びみたいね。クスッ。」
え?あ・・本当だ。もしかしてちょっと待たしてしまった?
僕は前に出る。僕は人が苦手だ。
小さく酸素を取り込む。
誰にもばれないように。
気持ちが落ち着いた。
1度だけみんなの方を向く。
そして、左下に視線を落とした。
開いた。口が。
「立川奏です よろしくお願いします。」
言えたっ!僕はフッと安堵の気持ちに満ちたのでした。