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夢幻の住人  作者: 昼行灯
9/43

09:道行き

 朝。

 早めに起きてお風呂に入る。ばしゃばしゃと湯船で遊びまわるクロに付き合い少し長めに温まる。

 クロに髪を乾かしてもらいながら、湯冷めしない程度にゆっくりくつろぐ。


 宿屋の女将マルアさんが食事を持ってきてくれる。

 出来立てのご飯はやっぱり美味しい。アイテムボックスに入っている食事もすべて出来立てのまま保存されているんだけど、気分の問題というか、他人が出来立てのご飯を持ってきてくれてそれを頂くのはやはりひと味ちがう。まあ、ほんとに気分の問題なんだけどね。


 クロと遊んでいると、マルアさんから馬車がついたと声が掛かる。

 「はーい、今行きます」

 部屋を片付け、扉を閉める。

 「あ、マルアさん。宿代、少し長めに払っておきたいんですけど」

 「なんだいリンちゃん、どこか遠出でもするのかい?」

 「さあ、どうでしょう。ちょっとわからないです」

 「心配しなくても大丈夫さね、リンちゃんの代金は国が保証してくれてるから。別にリンちゃんが払う必要はないんだよ」

 「そうなんですか、じゃあお言葉に甘えちゃおうかな」

 「はいよ、リンちゃんの部屋は誰にも貸さないから、いつでも戻っておいで」

 「はーい。わかりました。じゃあ、行ってきます」

 「いってらっしゃい」

 マルアさんの笑顔に見送られ、宿を出る。


 クロがフードから上半身だけだして顔を私の首の横に乗せ念話してくる。

 (マルアは良い人だな)

 (そうだねぇ)

 やー、まいっちゃうなぁ。

 (クロ、おひげがくすぐったいから動かさないでよ)

 (やなのだー!)

 言いつつ首をぺろぺろと舐めてくる。余計くすぐったいんだけどー。


 馬車に乗り込む。

 向かいの席に座るのは、ヤンさんとヤンさん。んー、もう隠れる気無いんだ。早いなあ。

 もうひとりのヤンさん。見た目は普通、というか印象に残らない顔立ちが特徴的といったら言葉的におかしいのだろうが、まさにそんな感じ。

 「はじめまして」

 そのヤンさんが微笑みながら挨拶してくる。嫌味の無いその微笑みはなんだか何でも言うことを聞いてくれる執事っぽい人を思い出させる。

 「どーも」

 「お早う御座います」

 いつものヤンさんが挨拶してくる。

 「おはようございます。なんと呼べばいいんです? 新ヤンさんと旧ヤンさん? それともヤン一号二号?」

 「ハハハ、お手厳しいですね。私達の事は共にヤンと呼んでいただいて構いません」

 「特に区別はないと?」

 「はい」

 「どちらが上とかあるんですか?」

 「この場では、私が」

 普通のヤンさんが自分の胸に手を当てて答える。まあ、確かに作戦立案とか取り仕切ってそうだしね。いつものヤンさんは実働部隊的な立ち位置かな。


 「わかりました。では早速、報告お願いしても良いですか?」


 昨日の夜の時点で、宿に常駐というか私の護衛をしている人に連絡をお願いしておいたのだ。

 「はい、では。昨日の夜、連絡の取れなくなった手の者ですが、一名いました」

 「そうですか」

 一名だけ、少ないと見るべきかそれほど活発に動いていないと見るべきか。

 「その一名ですが、死体で発見されました。特に目立った外傷はなく死因は不明です」

 「はい、どちらに?」

 遺体の場所を尋ねる。

 「我々の使っている屋敷に、今から向かってもよろしいでしょうか?」

 「はい、フジワラ君は? 出来れば先に合流したいんですけど」

 昨日の森さんの言葉と言った当人が生きている事から、最悪既に戦闘を行いフジワラ君が倒された可能性も考えられたので、生死及び所在確認と呼び出しをお願いしておいた。

 「連絡はついていますが、屋敷に行く前に合流した方がよろしいですか?」

 ヤンさん達的には、あまり部外者を連れていきたくない感じだ。

 「はい。彼も既に関係者になっているっぽいので、先に合流して情報は共有しておきたいです」

 「……わかりました。では先に待ち合わせ場所に向かいます」

 「お願いします」


 ヤンさんが御者に指示をだし、フジワラ君との待ち合わせ場所へと向かう。


 「リン様から行動を起こされるのは非常に珍しく感じますが、何が起きているのでしょうか?」

 頭脳担当のヤンさんが聞いてくる。

 「んー、まだ解らないですね。情報が足りない、かなあ」

 「解決への情報が、ですか?」

 解決というか、相手の目的が、かな。

 「その前段階かなあ」

 「相手の素性はわかっておられるのですか?」

 わかっていると気づいてての質問。

 「さあ」

 説明したからどうにかできる相手ではない。


 「なんかすみません、いいように使ってるだけみたいな感じで」

 「いえ、我等はそのための存在ですから」


 なんかグッと来るお言葉を頂く。まあ、一応私もローラン王家の一員だからね。けど、いつでも後ろから刺す気のある人達にそんな事いわれても困っちゃうよね。信頼して背中を任せたらグサリとか、この言葉もそのための布石だったりしてとか、思ったり思わなかったりなんてね。

 取り合えず、私とフジワラ君が消えるだけで済む問題ならば、二人でどこか他の国に逃げれば済む事なんだけど。まず、フジワラ君の話を聞かないと関係性がわからないし、何処から来たのかというのもある。


 考えられる来訪元は幾つかあるけど。

 ひとつは、ぶらり一人旅。

 ひとつは、魔の森から。

 有力なのはこの二つ。あとは、最近この近くに世界を渡ってきたのか。これはその後の行動が上の二つに含まれるから取り合えず置いておく。そしてこれ、いつもの問題児である迷宮の仕業。これも迷宮は魔の森にあるという可能性が高い、後は次元の迷宮もありえなくもないけど。


 「近隣の町か村で、何か良くない情報か噂でも構いませんがありますか?」

 「いえ、特にこれといった情報はありません」

 「南の森ですけど、国で監視はされているんですよね?」

 魔の森は、ローラン王都が南の端であっても安全な理由。南に広がる森は強い魔物の()()となっていて他国からの侵攻が不可能なため。そして、魔物も森から出てくることが無いので自然の城壁として機能している。

 「はい、そちらも特に目立った報告はありません」


 「うーん」

 やはり、全然情報が足りない。これ以上は聞くこともないのでフジワラ君と合流するまですることはない、頭脳派ヤンさんに観察されているのを感じながらクロと遊ぶ。


 馬車が止まり。フジワラ君が乗り込んでくる。

 「ヨゥ、と、なんだ、アンタ等もいるのか。俺の座るところは、そこしかないなー」

 嬉しそうに私の隣に座ろうとしたフジワラ君が見えない手に押されたかのように微妙に扉側に突き飛ばされる。そしてその出来た隙間にクロがちょこんと座る。

 「糞ネコちゃん邪魔なんだけどー」

 「にゃん!」

 「なに可愛い子ぶってんのー、むーかーつーくー!」

 「みゅん」

 耳とシッポを丸めるクロ君。

 「フジワラさん、か弱い子猫を虐めるのはよくありませんね」

 頭脳派ヤンさんが、割って入る。

 「ハッ? 何言ってんの? か弱いとか笑えるんですけど?」

 「みゅ~ん」

 震えながら私の脚にくっつくクロ君。演技派ですね。

 「フジワラ、ダセーぞお前」

 武闘派ヤンさんも加わる。

 「ハァ? ナニソレ?」

 「みゃ~ん」

 と泣きながら、私に脚にすがり付くクロ君。やり過ぎー。


 「取りあえず、フジワラ君の敗けで」

 クロを膝の上に乗せて、ちょうど隙間が空いているので、フジワラ君のほうに向き直る。


 「で、フジワラ君、昨日何かあった?」

 単刀直入に聞く。

 「え、べ、別に、な、何もなかったけど」

 解りやすくキョドっている。

 「じゃあ、詳しく話して」

 「え、いや、だから、べつにー」

 「そういうのいいから、アレに会ったんでしょ?」

 フジワラ君の顔付きが変わる。

 「リンも会ったのか?」

 「うん。その時フジワラ君の名前を楽しそうに呼んでた」

 「うへ、マジかよ」

 「何があったの?」

 「じつは、、」


 フジワラ君が話し出す。


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