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夢幻の住人  作者: 昼行灯
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08:表と裏

 エリック王子のお誘いを華麗に断り。流石に王子様の誘いを断った私を誘おうとする不敬者は騎士団にはいないので、そのまま堂々と管理迷宮の建物を出る。


 (どうしようか、なんだかんだで疲れたし、このまま宿に戻ってゴハン食べて寝る?)

 (外食希望)

 (体に悪いよ?)

 (なんだかんだで疲れたので外食希望)

 (クロ、寝てただけじゃん)

 (ちがーう! 我、瞑想してたの)

 (ふーん、スゴいね)

 (すごいのだ、エッヘン!)

 (悟りは開けたの?)

 (那由多(なゆた)の向こう)

 (意味不明なんだけど、寝てたってことでいいのね?)

 (だめ)

 (はいはい、それじゃあ夜も遅いし、軽い食事か甘いものかどちらかにしようか)

 (重い食事の後にホールのケーキで)

 (ダメでーす)


 夜も遅くなってきてたので、お食事処はお酒を提供する場になっていて、ケーキ屋さんはもう閉まっていたため、クロの食べたいお肉料理をテイクアウトで作ってもらいケーキは手持ちのどれかを食べることにして宿に戻ることにする。


 夜空を見上げると綺麗な月が出ていて、少し感傷的になる。

 「近いし、カーサのとこ寄っていこうか」

 「うむ、連絡来たのか?」

 「ううん、来てない」

 「音信不通長いな、帰ってこないんじゃないか?」

 「うーん、そうなのかな」

 別れと言うのは突然にやって来るものだ。すぐ戻ると言っていたがカーサもあれでハイエルフ、一族にとっても重要な地位にいるはず。そうそう自由がきくものでもない。

 カーサの家、魔道具屋の前に着く。


 店の中に人の気配はない。埃の積もり具合を見る限り人の出入りも無いようだ。

 「居ないね」

 「うむ、困った奴なのだ」

 「何かあったのかな?」

 「わからんな、心配なら開けて中を調べるか? リンならこの程度の結界開けられるだろう」

 「んー、」

 そこまで踏み込んでいいものか迷う。


 と、いきなり今まで鞘の中に収まっていた刀が抜き放たれたかのように、抜き身の刃物のような鋭い気配が膨れ上がる。

 「なにこれ?」

 「戦闘の予感!」

 こんな気配、普通の人がまともに浴びたら死んでしまうのではないか、というかこちらに向かってきている。

 「え、どうしよう?」

 「奇襲希望」

 「え、戦闘前提?」

 「うむ、これヤバいのだ、普通に向き合う奴がいるならそいつはただのバカなのだ!」

 「え、え、どうしよ!」

 取りあえず糸に乗り、上に逃げる。魔王のローブの色を月の白と同じに変え月の光に溶け込む。

 (リン、相手が月をみながら歩いてたらアウトなのだ)

 (えー、大丈夫だよ、ほら、気付いてないし)


 考え事をしているのか、突然クスリと笑い。ある言葉を呟く。


 「たしか、フジワラでしたか」


 その瞬間、音もなく地に降りる。


 (リン、小僧こいつに殺されたのか?)

 (さあ、ね)

 (殺す?)

 (殺れるかな?)


 目が合う。って、クロなにしてるの?


 (ちょっとクロ、なに魔眼使ってるのさ)

 (リン、ヤバい。こいつヤバい)

 (それよりクロ、魔眼バレちゃったらダメじゃん。口封じするしかないじゃん)

 (心配しなくていいのだ。バレても問題ないのだ)

 (なにそれ)


 取りあえず魔王のローブをクロの言うところのデストロイモードにしてみるが、ローブから発せられる死の波動を全く意に介さず無言でこちらを見ている。

 「こんばんは」

 話し出しそうにないし年上っぽいし気まずいので、こちらから挨拶する。


 「こんばんは、()い月夜ですね」

 首に巻こうと放った糸を払われる。え、見えてるの?


 「そうですね」

 クロが突撃しそうなので強引に押さえつける。


 「月夜の晩にお散歩ですか?」

 「ええ、友達の家に」

 「留守のようですね」

 「ええ、残念です」

 なんか、心に刺さる。本人は無意識で言っているんだろうけど、寂しさが心に刺さる。


 切なくて、月を見上げる。

 「綺麗ですね」

 「そうですね」

 なんか、危険な気配は放っているのに、本人そんなに危険じゃないみたい。変な人。


 (帰ろっか)

 (小僧の事聞かんのか?)

 (うん、知り合いだってバレる方がよくない気がするから)

 (むーん、とりあえず殺したいのだが?)

 (取りあえず殺すというのはダメです)

 殺る気満々のクロに気づいたのか。

 「嫌われてますね」

 (とりあえず殺したいのだー!)

 「困ったものです」

 クロのシッポを握りながら、ほんの少しだけ意気投合してしまう。



 無事、宿に着く。

 「リーンー、なぜ止めたのだー!」

 「いやいや、関わりたくないから」

 「む、リンも気づいてたの?」

 「森さんでしょ。本物かどうか知らないけど、関わったら第六天魔王さんが出てきそうじゃん、やだよ」

 「ヤツとは同じ魔王を名乗る者同士いずれ決着をつけなくてはならないのだ!」

 「勘弁してよ、本当に関わりたくないんだけど!」

 「小僧の名が出てた時点でムダなのだ!」

 「えー、本当に嫌なんだけど!!」

 あの後、苦労して追跡用に巻き付けた糸も簡単に外された。あれは駄目だ。もしあんなモノがまだ他にもいるなら勝てない。


 「ね、クロ君。取りあえず、どっかに旅に出ようか」

 「はんたーい!」

 「却下で!」

 「ぶーぶー!」


 取りあえず、平和な夜は更けていく。


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