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夢幻の住人  作者: 昼行灯
42/43

42:深淵

 気配察知スキルが、迷宮の入り口付近に人の気配を感知する。

 しかも複数、というか多数だ。どういう事だ?


 訓練された動きでこちらへ向かってくる者達、その中心に見覚えのある気配がある。

 ヤンとかいう奴等か。ローランの裏の仕事を担う部隊だったな。


 どうするか?


 リンのこの姿、見られて良いものか、、良く無いよな。


 と、思ったが、俺、動けないんだよな。


 リンに気を失っている間よろしくねって言われたんだが、手も足も出ない俺。情けない、情けなくて涙も出てこない。


 だって、どうしようもないし!


 一応、忠告だけはしといてやろうかな。なんていうか、アイツらリンをちょっと舐めてるとこがあるし、てか、リンの対応が優し過ぎってのもあると思うんだが。


 まあ、あれだ。それもリンの考えのうちなんだろうけど、そう考えると今の状況を見られるのはリン的に不本意ということになるのかもしれないな。


 けど、俺、今、何も出来ないし、しょうがないよね!!!





 

 次元の迷宮入り口に張り巡らされていた見えない壁が消えたとの報告を受け、部隊を引き連れて中へと入ってきたが。

 「お前は外にいるべきだと思うんだがな、なあ?」

 これで何度目か、もう一人のヤンが正論をぶつけてくる。

 「お前少しおかしいぞ、どうしたんだ?」

 自覚があるだけに頭が痛い。指揮官が前線に出るなどあってはならない事だ。


 正直に言えば、彼女の底の見えなさに惹かれているのだ。


 男女のという意味ではなく、人としてという意味で、フレデリック王に惹かれローランの暗部を指揮するようになった時と似ている。

 本人にその気が無くても、人を惹きつけてしまう能力を持った者は存在する。カリスマと呼ばれるものだ。


 フレデリック王は彼女のカリスマに気付いている。同じ匂いを感じているのだろうか?

 諸侯の反発を無視する形で一介の冒険者である彼女を王族として迎え入れた。これは、普通に考えても、超法規的な措置と考えてもあり得ない選択だ。ローランの王としての信頼問題に関わる。その天秤に掛けてさえも彼女とローランとの結び付きを濃くするという選択。


 彼女という存在に興味がある。


 だいたいにして、

 「お前こそ、勝手にリン様専属護衛隊のような立場になっているが、他のヤンから苦情が出ているのを知っているよな?」

 「お?」

 私からの思わぬ反撃に、おの口のまま言葉を失うヤン。

 彼女の事を面白いだろなどと言っている時点で、お前は既に彼女の魅力に取り込まれているのだ。

 自覚があるくせに、自分のことは棚に上げて私に対してそのような事を言えた立場ではないという事を理解すべきだ。




 進行方向の先、正面の大きな扉が開いていて、部屋の中央に何かが横たわっているのが確認できる。




 先発隊から報告が入る。

 「部屋の中央に横たわっているのはリン様です。意識が無いようですが生命に異常はないとのことです」

 ことです?

 「誰か居るのですか?」

 「はい、壁際に冒険者のフジワラがいます。フジワラ曰く危険なので部屋には入るなとのことです」

 危険?

 「危険というのは具体的になんですか?」

 「わかりません」

 わからないので判断を仰ぎに来たと。わからない事をわからないと言うのは、正しい。


 「では、行きましょうか」

 「おい、大丈夫なのか?」

 「部屋に入らなければ大丈夫とフジワラも言っています」

 「そう言う意味なのか?」

 「そういう意味です。行きましょう」


 部屋に近づき、リン様の姿を確認し、言葉を失う。

 「おい、フジワラ、一体何があったんだ?」

 ヤンがフジワラを問い詰める。

 「あー、ヤンさんだっけか。俺の口からは何も話すことはねーよ。リンが起きたら聞け」

 自分から情報を漏らすことはないと言うことか。

 「なぜリン様が、あのような姿になってしまったのかも教えてくれませんか?」

 「ああ、あんたもヤンさんなんだっけか、本人から聞きな。取り敢えずあんたらは外に出てってくれないかな。忠告はしたし」

 「忠告というのは、」


 背後から悲鳴があがる。


 「おーい、何があった?」

 フジワラが聞いてくる。

 「部下が五人、バラバラになって黒い炎に燃え尽くされました」

 「あー、」

 「どういう事ですか?」

 「あー、もしかしてそいつらリンを拘束するような、隷属の首輪とかそういう関係の持ってた?」

 フジワラがとんでもない事を、さも当然のことのように聞いてくる。

 「図星か、やっぱあんたら外に避難しといたほうがいいと思うぜ」

 「どういうことです?」

 「今のリンは優しくないって事だよ。まさかあんたら気付いてなかったとか思ってないだろ?」

 「……」

 「警告とか脅しみたいな意味合いも込めてとかもあるんだろうけどさ、自分らがどれほど危ない火遊びしてたか自覚した方がいいぜ」


 また背後で悲鳴が上がる。


 「考えただけでもダメだよ。あんたらちょっと甘く見過ぎだぜ。あー、んー、これくらいか、これ、俺の優しさだからな、全員死にたくなかったら早めに外出たほうがいいぜ。どうにかしようとか考えた時点で死ぬからな」


 背後で悲鳴が上がる。


 「言ったろ。何も考えずに外に逃げろって」


 退却の命令を出す。


 「これがリン様の本当の力ということですか?」

 フジワラに質問する。

 「ん? そんなわけないだろ、本人意識が無いんだぜ。これはただ単に自分に迫る悪意から自動的に身を守ってるだけだよ」

 「それは、」

 「まーあれだ、リンが目を覚ましたら、いつも通りになるだろうからさ、あんたらはその時によろしくしてくれ、火遊びはほどほどにな、今回のことでブチ切れやすくなったヤツがいるかもしれないし、優しさと甘さを履き違わないでくれよ、頼むぜ。あと俺が忠告したってのは内緒で頼むぜ」


 黙って退却する。


 私が覗こうとした穴には、もしかしたら底が無いのかもしれない。


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