41:呪い
柔らかかったな、という思いとともに目を覚ます。
「ん? なんか夢を見ていたような気が、、、ま、いいか」
フジワラ、適当な男である。
「お、なんだ、スキルが変化してるぜ、魔槍技か、ラッキー!」
フジワラ、軽い男である。
ぶつかった壁にもたれたままリン達を見る。
部屋の中央に横たわるリン。
所々引き裂かれた真っ白なローブから覗く透き通るような腕や首筋、そして閉じた瞳から流れ出た血の涙の跡。
美しかった黒髪は、真っ白な白髪へと変わってしまっている。
白く輝くようなその姿は神々しくさえ見えて、まるで、この世に存在していないかのような、、ドキリと心臓が跳ねる。
生きている、よな?
視線を胸に向ければ、胸の上に丸まっているネコが規則正しく上下している。ていうか、ネコ、お前、、なんて所に、、、
………………
…………
……
なにか、
ムクムクとなにか邪な感情が、首をもたげてくる。
柔らかかったんだよな、うん。
そういやリンに触ったの初めてじゃね?
なんか、あれだ、
お姫様の眠りは、王子様のキッスで解けるっていうよな、うん、
え? 関係なくないだろ、やっぱここはさ、
うん、
よろしくねって言われたし、
うん、
ちょっとだけ、ネコも寝てるし、
うん、
本気を出すぜ!!!
日頃鍛えた隠密のスキル。ここで使わずいつ使うのか!?
気配を完全に消す。
そして、音を立てずに静かに立ちあが、ポトリ、と立ち上がろうと伸ばした手が落ちる。
「は?」
え、なになになになに? やばいやばいやばいやばい!
慌てず騒がずに、ゆっくりと元の態勢に戻る。
ゆっくりと落ちた手を掴み、切り口にくっ付け、回復魔法最大出力!
なんとか元通りにくっつく俺の腕。お帰り俺の腕。
てか、なんだこれ、もしかして、見えない糸がそこら中に張り巡らされている?
リンを見るが、完全に意識はない御様子。
「無意識下の自動防御?」
マジで? なんか容赦なく腕斬られたんですけど、ヤバくね?
意識無いよね?
……………うん、無いね。
……………
紳士な俺はここからリンとネコの回復を待つことに決めたぜ!!!
ふふ、俺は見守りの紳士。紳士フジワラだぜ!
……………………
………………
…………
……
あー、暇だ。
……
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………………
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覚悟、か。
ネコの言葉を思い出す。
戯れで、俺に聞かれてないと思って言ったのかもしれない助言。
ゴブリン城で、ネコに殺された時。消えていく意識の中、囁くようにネコが言った言葉。
「小僧、お前は既に選択しているのだ。スキル強奪を使わないという選択を、その意味を理解しろ。既に踏み出している事を理解してお前の意志で、、、」
ここで意識が途切れた。
なにを意味している言葉なのか、【スキル強奪を使わないという選択】これの意味する事は何か、
リンが来るのが予定より早かったとも言っていたな。
ネコがゴブリン城で俺にやらせようとしていた事。それに、スキル強奪を発動しないという事。いや、、、スキルを発動しないという事、なのか?
そういう事なの、か?
閃き、言葉が結び付く。しかし、
【藤原という名は、不死の原という意味なのだよ、滅びぬ一族の名さ】
誰に聞いた言葉だったか、何を言っているのかと一笑に伏した記憶が蘇る。
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………………
…………
……
なぜ俺は、フジワラと名乗ったのだろうか?
リンは、リンと自分で決めたのだろうか?
背筋に悪寒が走る。
名に縛られるなんて、まるで呪いだ。




