表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
夢幻の住人  作者: 昼行灯
39/43

39:策謀

 酒呑童子が倒れる。

 絶命している。

 あっけなく。

 首を斬られて、腕を斬られただけなのに。

 まるで、その辺りにいるただの人間の様に、あっけなく絶命する。



 再生されない切断。

 斬ることに慣れてくると、相手に切断されたことも気づかぬくらいの斬り方が出来る様になる。

 腕が上がった事に喜ぶべきなのだが、オークの様な再生力の強い魔物に対しては逆効果になってしまう事が多い。

 切断面が綺麗すぎてそのまま細胞が再生し、くっついてしまうのだ。対処法として刀に火属性の魔法を付与し切断面を焼いてしまうという事がある。


 その類なのか、しかしその程度ならば、鬼神の再生力の前には無意味だろう。

 あれは、何か根本的なところから切断されているかの様な。生命の根絶。もしかしたら、いや、まさか、


 リンとネコが笑っている。

 あの様な、血だらけの姿で楽しそうに笑っている。

 人は死の前に、泣くことと笑うことのどちらかを選択するという。

 死を覚悟したのだろうか?


 違う。

 そんなことはわかっている。

 俺と同じ。ネコはそうだろうと思っていたが、まさかリンまでこちら側の人間だったとは、意外というか、ある意味納得というか。

 笑いながら死ねる人種。死を受け入れている人間。おそらく信長も蘭丸も、鬼に死の概念があるかはわからないが酒呑童子も茨木童子も恐れというその部分のみを分類するならば同じ。

 つまりここにいる全てのものがそういう者達ということ、いや、俺は恐れたな。底の見えない沼を覗き込み一瞬だが恐れた。

 俺だけが覚悟が足りていないということか。情けない。




 今回のあれは、いわば不意打ち。

 本当の戦いはこれから。リンが右手を振り、光の糸を放つ。その相手は茨木童子。

 しかし、糸が相手に届くより速く地を伸びてくる茨木童子の二本の(つの)の影、速さが違う。


 糸がまだ両者の中間位置に達するとき、既に影は地を伸びきり背後の壁にまで達している。


 絶体絶命!

 逃れる術が無い!


 茨木童子の角に青い稲妻が、、ここでおかしな事が起きる。

 何の前触れもなく、茨木童子の二本の角がポトリと地に落ちる。何の攻撃もされていない、第一攻撃の届く範囲にさえ糸が達していないのに、角が鋭利な斬り口をのこしてポトリと地面に落ちたのだ。


 斬り口には光の線さえ無く、いや! 違う!

 ある! 確かにその角には光の糸で斬られたとおぼしき光の線が入っている。しかし、それは、光の糸に斬られたのは地に伸びる影の角。


 そして更に、何ということか! 光の糸が地に写る茨木童子の首を切断する!


 ポトリ、と地に落ちる茨木童子の首!

 そんなことがあり得るのか?

 まさか!

 まさか、茨木童子の本体は目に見えているソレでは無く、地に写っている影が本体だったのか!?


 ドウッと地に倒れる茨木童子。

 …………見る限り、本体は今地面に倒れている地上にあった身体の様だが、、影を斬ることで本体を斬ったということなのか?

 そんなこと、そんなこと、ありえるの、か?


 そんな、まるで、その技は、、いや、それよりも何よりも、これで酒呑童子と茨木童子がリンに倒されたという事になる。


 人の身で、鬼神、神にも等しい二体の鬼を倒す。


 こんな結末が、あるのか?


 結末?

 いや、何が終わったんだ?

 何も終わってなくないか?


 目の前には、織田信長と森蘭丸。

 振り出しに戻っただけでは?

 どういうことだ?


 倒す順番が違うんじゃ無いか?

 え、訳がわからん、いやいやいや、落ち着け。


 俺が出来る事を考える。

 無い?

 いや有る。俺は一体何をしていたんだ?

 これではただ、傍観者を決め込んでいただけでは無いか。


 アイテムボックスからありったけの魔玉を取り出し、リン達の方へと投げまくる。

 そして、回復魔法。そうだよな、俺が二人の回復を担当すればネコは魔玉を割ることだけに専念できる。それだけでも負担が減る。何してたんだ俺、バカすぎだろ。


 そして、、俺から狙えよ。


 今更ってのも恥ずかしいが、加勢する事自体が頭に無かったのだから仕方か無い。

 こうしていれば、最初に一発だけだが弾除けくらいにはなるだろ。なあ?


 信長が俺を見る。

 こええ、その眼光に金玉がキュッとなる。ちびりそうだぜ。


 信長がニヤリと笑う。

 なんだよ?

 ああ、そうか、笑っているのか、、俺も。


 俺から視線をはずし、リンを見る信長。

 その口元が苦虫を噛み潰したように歪む。

 そして最後に森蘭丸を見る信長。


 森蘭丸が嬉しそうに頷く。

 「フンッ!」

 忌々しそうに息を吐く信長。


 左手に天魔の(つるぎ)を持ちかえ、右手を天に伸ばす。


 その手が掴むは、天魔の火筒(ひづつ)


 唾を飲み込む。

 なんだよそれ、ヤバそうな武器じゃねーかよ!

 やるのか、本気でやるのか!

 覚悟を決める。いや、既に決まっている。




 ザンッ!

 と、左手の天魔の剣を地面に突き刺し。


 ドンッ!

 と、右手の天魔の火筒を地面に突き刺す。



 「リンであったな、褒美ぞ、好きな方を選べ」



 そう言いつつ踵を返す織田信長。

 向かう先の玉座に転移魔法陣が出現する。


 え?


 森蘭丸が深々と御辞儀をする。


 「行くぞ蘭丸!」

 「はい! 信長さま」


 魔法陣の中に消えてゆく二人。


 え、なに?

 何が起きてんの?


 もしかして、リンと森蘭丸の間に何か取り引きがあったの?

 え、そんな時間なくね?


 どゆこと?


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ