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夢幻の住人  作者: 昼行灯
38/43

38:無茶

 マルアの宿。深夜。

 召喚用の御札を作っている。

 月の障り。神事には不浄とされるその血で御札を作っている。

 本来、神事において血自体が禁忌なのだ。血という供物により清浄な神が荒ぶる神となってしまう。

 端的に言えば、悪魔を呼び出す時に人を生贄にするのと同じ様な事。

 コレで呼び出すのは悪魔ではないのだけど、沢山の死に(まみ)れたコレを好む者ではある。


 「リン、それは鬼を呼び出す札か?」

 天蓋に爪だけでプラプラとぶら下がって遊んでいたクロが、私の隣にぽてっと落ちてくる。

 「うん」

 一度だけ、不完全な形だったけどこの札を使った事がある。

 「今まで何度も作り直しているが、何か意味があるのか?」

 「うん、呼び出す者の強さというか練度みたいなものも関係してくるからね」

 「ふむ。じゃあ最強のが出てくるのか?」

 「まあね」

 「おぉ! スゴイのだ!」

 「んー、まあね」

 最強を呼び出すとなると、私の身体の一部を対価として捧げないとだけどね。

 「我より強いのか?」

 「最強状態だと、私でも勝てないかなあ」

 「むむむ」

 「大丈夫、使う予定は今のところないから」

 「むむむむ」

 「念の為、だよ」

 「しかし、勝てない相手を呼び出すのは如何なものかと苦言を呈する我」

 「えー、じゃあ勝てる算段の考察でもする?」

 「うむ、かっこいい方法希望なのだ!」

 「希望じゃなくって、クロも考えてよ?」

 「気合で!」

 「気合で?」

 「なんとかするのだ!」

 「無理だと思うけど」

 「じゃあ使用禁止で!」

 「まあ、使うつもりは無いけどね」


 神眼を手に入れて、勝てる算段が出てくる。

 「使ってる最中ずっと我が割り続けるのは?」

 「んー、それだと魔玉の数が足りないんじゃない?」

 「むぅ、」

 「一応、神眼発動しているだけなら私が糸で割るだけで何とかなりそうだけど、魔王のローブの回復効果前提だけどね」

 「むーん、だが発動だけでは意味ないのだろう?」

 「まあね、んー、クロが私を魔眼で見つつ随時割っていくっていうのはどうかな?」

 「念動力で?」

 「魔玉と一緒にクロもいれば直接割っても良いんじゃないかな」

 「リンは神眼発動中の攻撃は受けれるのか?」

 「神眼発動してれば攻撃される前に対処出来ると思うけど」

 「ふむ」


 結局、最後は気合で!

 という曖昧な結論となった。


 元々私という存在がソレに対して、(えにし)が、因果(いんが)が深いが故に呼び出せる人外の力。

 私の力が上がると共にその存在の顕現率が上がっていく。追いつくことのない鬼ごっこ。もし私が制御できる程の力を手に入れたならば、ソレ自体が必要なくなったということになる。


 しかし、運命という呪いの様な存在は、突然扉を叩いてくる。

 その様な御札を作ったから運命が動き出したのかと絶望はしない、埒外(らちがい)の存在の影響力が運命を動かしたのか、兎にも角にも動き出した以上流れに身を任せるしかない。上手く立ち回り、横合いから最高の一撃を加える。持ちたる者達の奢りを上手く利用する。上手くいったとしても不意をつけるのは最初の一撃のみ、後は強い者のみが生き残るという単純な数式となる。


 そう、結局は気合で! ということだ。





 両腕も再生した。

 魔力もフル回復。

 引き裂かれた魔王のローブはまだそのままだけど、真っ白にする事での回復機能は失われていないので問題無い。

 「クロ」

 私の頬に頭をぐりぐりと押し付けているクロ。ここに来るまで無茶をしたのだろう、いつもはふさふさの毛が気持ち良いけど、今はその毛も血で固まり本当にぐりぐりと少し痛いくらいの感覚だ。

 「そろそろ始めるよ」

 こちらを見つめるクロの目はいつもの自信に満ちている。

 「うむ、皆殺しなのだ」

 皆殺しする気満々のクロ。気合十分だ。まあ、皆殺しはキツいけどね。

 今回はイレギュラーな要素が多く、クロには心配ばかりをかけてしまった。

 クロがいないことで私も心細かったし、クロも調子が出ず無理を通したところもあるのだろう。


 けど、私とクロが一緒なら大丈夫。何も怖くない。


 無様に地に這いつくばる姿勢をやめ、二本の足で地に立ち見上げる。

 「……何してるのかと思ってたけど、まともに攻撃を受け合ってるのね」

 男の人にしてみれば、熱い展開とかなんだろうけど。あんな攻撃一度でも食らったら存在自体が消し飛びそうな私にしてみれば、熱くもなんともない、そんな事を始めた方も受けて立った方にも一ミリも共感出来ない。クロはこういう展開好きそうだけど。

 「愚かだな」

 「えっ、男の意地とかじゃ無いの?」

 「しらん、ゴミに意地とかあるのか?」

 うーん。クロ君相当ご立腹なのね。


 アイテムボックスから魔玉を取り出していく。

 クロの念動力で宙に浮かせている魔玉ひとつひとつに糸を巻き付けていく。クロを信用しているけど保険は掛ける。

 

 見る限り力は拮抗している。

 無尽蔵に見える体力も、魔眼で見れば確実に減っていっている。

 決着がついてからでは意味がない。鬼神を観察する。


 主軸は酒呑童子かな。


 「酒呑童子から()るね」

 「うむ」


 緊張する。神眼を本気で発動するのは初めてだ。そして神気を通した糸、命が抜けていく様な背筋が凍る様な感覚。正直気持ちが悪い。


 「リン?」

 「うん、じゃあ始めようか」

 運命を断ち切る戦いを。

 「うむ」

 クロが私の肩に乗り、私ごとふよふよと無数の魔玉を背後に並べ宙へと浮く。


 …………

 ……


 「どうしたのだリン」

 「なんでもない」

 楽しんでいる。死ぬかもしれないのに、失敗するかもしれないのに、それを楽しんでいる自分がいる。


 まいったなぁ。

 コレじゃあ人の事言えないね。


 神眼を発動する。

 こちらに気付くこともなく、無防備な背中を見せている酒呑童子。

 ダメだなあ、そんな、ねぇ。


 パキ、最初の魔玉が割れる。ここからはもう止まれない。

 神眼で酒呑童子の命を見る。神気の糸をその命を断つ様に、放つ!

 一気に魔力が枯渇する。クロの回復魔法が私を包む、魔玉が割れる。回復した魔力がすぐに枯渇する。飛びそうになる意識を無理矢理覚醒させる。コレはキツい。冗談抜きでおそらく死ぬよりキツい。肩のクロが念動力だけでは間に合わないと瞬時に判断し、縮地を発動しながら念動力で魔玉を割りはじめる。無茶をする。がそれを止める余裕も時間も無い。何より魔玉の回復が間に合わなかったら私の魔力どころか体力も一瞬で無くなり死んでしまう程の負荷が神眼と神気の糸で私にかかっている。


 私を認識された、ここからは完全に敵として認識される。神眼で個をみるのではなく空間を見るようにする。負荷が更に増える。

 目が熱い、手が痛い。クロも血だらけだ。大丈夫なの? なんで嬉しそうに笑っているの?

 え、私も笑っているの? ホントに?


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