31:絶望
赤鬼と青鬼。
それを見た瞬間の感想だ。そして感じる強大な力、格が違う。
魔人になる前のジジイと相対した時に感じた絶望が、ぬるま湯に感じるくらいの圧倒的な絶望感。
隣に立つ男に感じた強さを遥かに凌駕するその圧倒的な暴力。
相対するは、織田信長。ひと目でわかるその存在感、その隣に槍を構える男が一人、その人相、俺の隣にいる男と似ている。
「オヤジ殿、ハハハッ」
親子か、しかし、力の差は明らか、織田信長、その力量もズバ抜けているが、鬼の発する圧倒的な暴力の前には霞んでしまう。
「じゃあな兄弟」
突然の別れの言葉と共に、男が槍を構え歩き出す。
「おい」
思わず声をかけてしまう。勝てないだろ?
「ん?」
首だけ傾け、こちらを見る男の唇は自然に笑っている。
ああ、
それだけで理解出来てしまう。
笑いながら死地へと向かう男。
「じゃあな兄弟」
贈るのはその言葉だけ。
そういえば名前も知らなかったな。と思いつつ振り返る。
ドクンッ!!!
…………最初に飛び込んできたのは、真紅に染まる壁。
…………その下に蹲る血塗れの、、
それを見た瞬間、頭の中が真っ白になる。
動かない。
引き裂かれたローブのから覗く、肩から先には腕が無い。両腕が無い!
地面に広がる血の池に顔を埋め。静かに目を閉じている。
血の池に座り込み、血塗れの顔をペロペロと舐め続けるネコ。
死。
その言葉が頭の中を渦巻く。
否定。
ネコがいる。その時点で生きている。
だが、しかし。
目の前に存在する絶望。
これが本当の絶望だ。絶対的な絶望。全てを失う絶望。受け入れることができない絶望。
アア、コレニクラベタラ、ホカノゼツボウナド、ササイナコト。
ダレガ?
目の前が怒りで黒く染まる。
ダレガヤッタ?
コロス。
コロス。
コロス。
イシキがクロクソマル。
「落ち着いて」
その声に黒く染まった視界が現実に戻される。