30:疾(と)く
次の瞬間、意識が覚醒する。
瞬時に状況確認。
迷宮の中、ゴブリン城では無い。肩にネコ、俺の心臓を貫いたツメは元のまま、伸びていない。意識が無い様だが、そう思った瞬間ネコの目が開く。
「リンが死にそうだ」
いきなり俺を殺したことに文句を言おうとした瞬間、衝撃発言。
「クッ!」
文句を呑み込み。構えを取る。肩からネコが消える。
疾風…乱舞!
無数の斬撃が相手を襲う!
「ハッ!! スゲーな!」
槍を回転させながら全ての斬撃を受け切る男。
ドンッ!!!
男が吹っ飛ぶ。縮地を使ったネコの不意打ちだ。
壁にネコが攻撃態勢で、ドンッ!!!
壁が吹き飛びネコが消える。無茶苦茶だ、あんなスピードで縮地というのを使って大丈夫なのか!?
無言になった男が、槍を構えている。ヤバイ。
「ムンッ!」
気合一閃、槍を回転させながら突き出す男。
ギャンッ!
凄まじい音と共に火花が散る。
ドンッと地面が爆ぜる。男がそれに反応する、ギャンッ!
天井が爆ぜる。ギャンッ!
壁が爆ぜる。ギャンッ!
スピードが上がる。
側から見ていてもネコの動きが追い切れない。加勢をしようにも、これではどうしようも無い。
しかし、側から見ていて追い切れないものを、実際受けているものはどうなのか。
「オラアァァ!!!」
男の捨て身の攻撃、左手が吹っ飛びつつも槍の持ち手でネコに攻撃を当てる。
地面に叩きつけられるネコ。血だらけだ、やはりあの様な無茶な縮地の入り方では自身もダメージを受ける。それ程の事態ということなのか。
ヴン、童子切をアイテムボックスにしまい、大地の籠手と手裏剣を取り出す。
右手で槍を構える男に、ネコが、と、と、と、と駆け出し。縮地を発動し姿が消える。
「フゥ…」
男が目を閉じ、
手裏剣を投げる。吹き飛んだ左手では槍は握れない。つまりあの男、左半身が死角となる。
男とネコの動きが追えなくても、攻撃の流れは理解出来る。
「ここダァ、オラアアァァアア!!」
男が弱点となった左方向斜め前に渾身の一撃を放つ!
手裏剣により行動の幅を狭め、格闘術のダッシュで一気に距離を詰め、ネコと男の間に割って入る。
ガギンッ!
大地の籠手で男の一撃を受ける。今の俺に出来ることといったら盾になることくらいだ。
ザンッ!
受けれたかと思った一撃は見事に俺の腕を引き裂き、俺を貫き、俺が消える。空蝉の術だ!
一歩後ろに現れた俺を背後からネコが引き裂きながら、オイッ! 空蝉がもう一枚消え、さらに別の場所に現れた俺に意識を取られている男の腹にネコが必殺の一撃を決める!
決着。
恐ろしく強い男。俺だけでは到底勝てる相手ではない。ほぼ何も出来なかった。
手持ちのスキル、最大レベルになっている格闘術や普通では取得出来ない忍術のスキルで少しだけ役に立ったが、これが無ければ俺はただの足手まといと化していた。
この男、スキルという概念を持ち合わせていなかったのか、それとも真に強い者にとってはスキルという物自体が必要無いものなのか、ネコも縮地という特殊なスキル以外は自前の戦闘力だ。
一人でここにいたという事は、名のある武将なんだろうな、織田軍で槍使いで有名なのは、というか戦国武将は皆槍使いだな、刀使いとかはもう少し平和になって流派とかが出来てからだもんな。
「小僧、」
ネコが呼んでいる。
大きな扉。
「開かないのか?」
「うむ」
ネコの念動力で開けられないならば、おそらく俺にもどうしようも無い。
「小僧、空間魔法のアンロックを試せ」
「オゥ、そういえばそうだな。俺、空間魔法持ってるんだった」
「寝ぼけているのか?」
「いや、すまんすまん。なんか俺全然役に立ってないからさ」
「うむ、小僧はここからは手出し無用だ」
ここから先はもっと役立たずって事か、さっき迄の必死な感じのしないその物言い。なんか、ネコ、余裕出てきた?
「ムダだぜ」
その声に、腰に手をやるが童子切はアイテムボックスにしまったと気付く。
「まてまて、もう殺り合う気はねえよ」
槍を肩に担いで、五体満足でこちらに向かってくる男。
「ツエーのは良いが、殺りづれーヤツラばかりで嫌んなるな」
そう言いつつ、その無防備な体勢のまま躊躇無く間合いに踏み込んで来る男。
「そう緊張するなよ兄弟」
気安く話しかけてくる。
「いきなり兄弟とかノリが軽いな」
「命の殺り取りをしたんだ。かまわねーだろ」
「そういう問題か?」
「気にすんな兄弟。今から扉を開けるが、さっきの刀出しとけよ」
童子切の事か、あっても役に立たないと思うが、まあいい、アイテムボックスから童子切を取り出して腰に差す。
黙ってこちらを見ているネコに男が話しかける。
「お前はあのお姫様の従者か、揃いも揃って喰えねー奴等だな」
「……」
「話す気もねーか、ケッ!」
「勝手な願いにリンを巻き込んだゴミ虫どもが、さっさと開けろ」
なんかスゲーこと言ってるんだけどネコ、ワザワザ神経逆撫でする様なこと言うなよな、頼むからさ。
「……ひどくねーか兄弟」
「俺に振るなよ兄弟」
ヤレヤレという感じで肩をすくめる男。
「開けるぜ」
その言葉と共に、音も無く扉が開く。




