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夢幻の住人  作者: 昼行灯
3/43

03:ボス

 私が最後でボス部屋に入る。

 違和感。それはここに通い慣れた者ならば一目でわかる違い。


 「気を付けてください。部屋の大きさがいつもの倍近くになってます」

 「それはどういうことだ、リン?」

 「おそらく、通常とは違う魔物、それも大型の魔物が出現すると思います」


 ここのボス魔物は主に、デーモン系、暗黒系、東方系の三種類が出現する。レアや激レアになったとしても部屋の大きさは変わらなかったはず。そう考えると私も初めて遭遇する魔物の可能性が高い。考えているうちに背後で扉が閉まり、それが出現する。


 通常ならば複数体出現する魔物達、しかし例外もある。途中層でも出てきていたそれは今回も一体のみ、だが明らかな違いはその大きさ、見上げるほどのその巨体は今まで見てきたどのドラゴンよりも大きく。そして威圧的だ。


 グレータードラゴン。


 アイスドラゴンやファイヤードラゴンのような属性ドラゴンと違い。単純に個体として上位クラス。その能力は鑑定すれば一目瞭然。その巨体に見合う膨大な体力と攻撃力を所持し、スキルは物理耐性、魔法耐性、再生の三つだけ。たったこれだけだが、これだけで全てをカバーしている。魔法を含めたあらゆる攻撃に耐性があり、パッシブの回復効果のなかでも最高クラスの再生でどのような傷も瞬く間に回復してしまう。


 正直な感想をいえば、こちらの攻撃力では倒せないのではないか。ジョブ的にいえば騎士三人と盗賊に魔法使いと僧侶。圧倒的な前衛の攻撃力不足に加え魔法使いの得意属性の炎はドラゴンに効きにくいという。


 (なんだ、雑魚ではないか)

 フードから上半身だけを出して、私の髪に隠れつつ魔眼で鑑定していたクロ君の感想。

 (いやー、私とクロは攻撃できないんだからね)

 (うぬ、それでは圧倒的火力不足なのだ)

 (そうなんだよね、ヨランさんの炎魔法とか多分ダメージ通らないんじゃないかと)

 (基本、対魔物に火系は相性が悪いからな、火は対人が一番効果的なのだ)

 (じゃあなんでクロは火を主に使ってるのさ?)

 (不利な属性を圧倒的な実力差で捩じ伏せて勝つのが気持ちいいのだ)

 (ひねくれてますね)

 (リンも水魔法なら使っていいのだろ?)

 (まあ一応使える設定だけど、炎魔法より効果のある水魔法とかダメだよね)

 (今さらな気もするが)

 (まあ、ね)

 長期戦になるようなら切りの良いところで水魔法で倒してしまおう。


 (だけど何でドラゴンなんだろうね、初めてじゃない?)

 (一度真のボスが倒されて迷宮がリセットされたからではないか)

 (そうなのかな、そういえばエリック王子の剣鑑定した?)

 (うむ、自分が両手剣使いたいから盾を二枚用意するような糞リーダーの見本)

 (なにそれ)

 (自慢厨)

 (けど、結構凄くないあれ)

 (うむ、時々三倍撃とか最終形態だな)

 (ん?)

 よくわからないけどいいや、エリック王子の剣、カラドボルグという剣で結構な攻撃力を持っている。おそらく神剣とか聖剣のひとつなのだろう。エリック王子が戦っているところを見たことないけどあの剣をみるとちょっと期待してしまう。



 戦闘が始まる。



 リーダーであるエリック王子が指揮をとる。

 「ラムダ、抑えられるか?」

 「ハイッ!」

 「よし、ヨラン詠唱を開始しろ」

 「ハイ、威力は?」

 「最大だ、呪文の完成に合わせて連携を仕掛ける」

 「わかりました!」

 「ブレスが来ますぞ」


 グレータードラゴンの喉が大きく膨らむ。


 ゴバアァァァ!

 大きく開かれた口から大量の炎が溢れだし全てを飲み込もうとする。

 「ロイヤルガード!」

 王国の英雄が使える特殊スキル、ロイヤルガードが炎の奔流を完全にシャットアウトする。

 

 「ヤン、短剣のウエポンスキルは使えるか?」

 「ハッ! なんなりと」

 「よし、ブレスが途切れたら仕掛けるぞ」

 「ハッ!」


 なんか凄い勢いで指示が飛び戦闘が進んでいく。

 (…………)

 (…………)

 (なんか凄いね)

 (うむ、)

 (連携ってあの連携?)

 (うむ、おそらくマジックバースト的な?)

 (レジスト無効的な?)

 (うむ、我ビックリ)

 (私もビックリ)

 それなら炎魔法もダメージが軽減されずにすむ。王子さま達、凄い戦闘慣れしてるんですね。

 (クロ先生、連携の効果は魔法耐性も貫通するんですかね?)

 (なぞ)

 (じゃあクロ先生、暇なんだから魔眼で観察しててよ)

 (やだ、めんどくさい)

 (暇でしょ?)

 (いそがしいのだ)

 言いつつ私の髪で遊び出す。



 丸盾が宙を飛びグレータードラゴンに当たる。それを宙でキャッチし振り下ろされる鋭い爪を受け止める。

 「かかってこい、トカゲ!」

 挑発スキルだ。グレータードラゴンのヘイトがラムダに集中する。

 

 パーティーから離れ、一人でグレータードラゴンの攻撃を捌くラムダ。

 がら空きの胴にエリックの攻撃がクリティカルヒットする。三倍撃も発動しドラゴンの腹が切り裂かれる。その痛みにヘイトが移動し、


 ドガッ!

 「俺を倒してからにしろ、トカゲ!」

 シールドバッシュを発動しエリックへ向かいそうになるドラゴンのヘイトを自分に戻すラムダ。


 「完成しました!」

 ヨランの声が響く。

 「よしいくぞ!」


 「ウォォォ! 敵対心向上発動、ウエポンバッシュ、シールドバッシュ、フラッシュ、ロイヤルパンチ、ロイヤルキック、ロイヤル頭突き……」

 ラムダがヘイトを最大限稼ぎ、ドラゴンの攻撃をガッチリ固定する。


 ヤンがウエポンスキルを発動する。

 「エヴィサレーション!」

 目にも留まらぬ五連撃がドラゴンの腹を内臓まで切り裂く!

 「サベッジブレード!」

 オルガの剣がその傷をさらに広げ。

 「グランドストライク!」

 エリックのカラドボルグが再生スキルが間に合わないほどのダメージを与える。


 「全てを燃やし尽くせ、インフェルノアロー!」

 連携の効果により魔法ダメージ増加状態のドラゴンに、ヨランの放った地獄の炎が命中し内側から燃やす。


 ギジャアアアアアア!

 グレータードラゴンが怒りの咆哮を放つ!

 

 あ、ちょっとダメージが足りないね。

 「ホーリーレイ」

 再生スキルにより回復しはじめようとしていたドラゴンの首を光の光線が跳ねる。


 「……」

 「……」

 「……」

 「……」

 「……」

 無言でじとーっと睨まれる。ふふふ、しかし残念。既に言い訳は考慮済みなのです。今回の連携は何段階かあるうちの最高位の光と闇の連携、そのうちの光連携、これは炎魔法もそうだけど光魔法もダメージアップの効果があるのです。

 「光連携だったから炎魔法も光魔法も効果抜群でしたね!」

 「リン様、連携の魔法ダメージ増加の効果時間は五秒程度です。その短い間に命中した魔法攻撃だけが効果の対象です」

 と、ヨランさんから鋭いツッコミが入る。

 「ぎりぎり間に合いましたね!」

 「間に合ってませんよ……」

 「リン、僕の感覚だとリンの魔法は一分以上経ってたと思うけどね」

 と、エリック王子。

 「細かいことを気にすると禿げますよ?」

 エリック王子とヨランさんがジト目で睨んでくる。


 「そんなことより、宝箱どうすんです?」

 と、ヤンさんが話題を変えに来る。素晴らしいです!

 「む、そうだな。解錠スキルはあるか?」

 「残念ながら」

 と、エリック王子に聞かれ首を振るヤンさん。

 「ならば諦めるか」


 「あのー、ラムダ君に開けてもらうのはどうでしょう?」

 「あ? フザケ、ないでくださいませリン様」

 途中で気づき言葉遣いを改めるラムダ君。

 「リン、ラムダは解錠スキルも器用さも高くないし運もそれほどよくないぞ」

 エリック王子に運まで否定される憐れなラムダ氏。

 「罠発動しても王族二人いるロイヤルガード張れば耐えられるんじゃないかなーと」

 「テレポートだったらどうするんですかねリン様」

 「え、私達は離れてれば」

 「どういう意味ですかねリン様」

 ラムダ君が熱い視線で、私に詰め寄ってくる。

 「えーと、鑑定の巻物で罠の鑑定します?」

 「どういう意味ですかねリン様」

 さらに詰め寄ってくる。

 「ちょ、近づかないで」

 「俺だけ石の中に飛ばされろってことですかねリン様」

 「確かに、特別なボスだっただけに宝箱の中身は興味があるな」

 ラムダ君を抑えながらエリック王子が言う。


 「ローラン王都で鑑定の巻物が品薄なのはリン様が買い占めているからでしょうか?」

 ヨランさんがジト目のままで聞いてくる。

 なになに? なんか全部私のせいになる流れになってないこれ。

 「えーと、私鑑定の巻物買ったことないです」

 「え?」

 「買い占めてるのは別の人だと思いますよ」

 「そうなんですか」

 「そうなんです」

 (犯人はフジワラ)

 クロ探偵が犯人を言い当てる。確かにそんな気がするね!


 鑑定の結果、罠は毒針でした。

 「アウチッ!」

 「爆発の罠じゃなくてよかったですね」

 「そうだな、爆発の罠だと中身ごと消し飛んでしまうからな」

 エリック王子と宝箱の中を覗きつつ戦利品を確認する。

 「お話し中すみませんリン様、毒が回ってきたんですが、死にそうなんですが」

 「キュアポイズン」

 毒針に刺さったラムダ君を治療する。

 「リン様わざとやってますよね?」

 「ちょ、こないで、」

 ラムダ君に詰められる。


 【?ぶき】

 【?剣】


 おっと、宝箱の中には未鑑定品が二つ。

 「これは、どうなのだ?」

 エリック王子が聞いてくる。

 「さあ?」

 私から説明するつもりはない。そうなんでも知ってると思われても困るからね。

 「一般的に、未鑑定品で当たりが出るのはぶき表記といわれています。しかし今回の魔物はレア以上のボスだったこともありますので、剣も相当な業物ではないかと」

 と、ヨランさんが解説してくれる。


 (ドラゴンスレイヤーなきがするのだ)

 クロが予想してくる。

 (鑑定しちゃダメだからね)

 (うむ)

 未鑑定品がいきなり鑑定済みになったりしたら大問題。


 「ラムダ君が装備してみればいいんじゃないんですか?」

 「は?」

 「呪われ装備だったら私が解呪しますよ?」

 「はぁ?」

 ラムダ君が詰め寄ってくる。

 「ちょ、こないでよ」

 「うん、それはいい案かもしれないな」

 エリック王子も乗ってくる。

 「は? あ、いえ」

 さすがにエリック王子には詰め寄れないみたい。


 渋々(しぶしぶ)と【?ぶき】を手に持ち、両端を引っ張るラムダ君。すると古びた棒状だったものが剣へと変わり刀身が(あらわ)になる。


 ブロードソード+4


 「うーん、ハズレ?」

 「外れだな、強化値は高いが元の武器がこれではな」

 「やはり【?ぶき】は当たり外れの差が激しいですね」

 「しかし、+4ともなると追加攻撃力も相当なものではないですか?」

 と、騎士団長さん。確かに元の剣の攻撃力が低くても強化値が増えるごとに追加される攻撃力は飛躍的に高くなっていく。

 「他の装備への強化素材としてならば有効かもしれません」

 自身の宮廷魔術師のなかに付与魔法師がいるのか、ヨランさんが乗り気だ。というか欲しそうだ。

 「そうだな、これはヨランに預けよう。有効に使ってくれ」

 「有難うございます」


 (リン、報酬の分配の取り決めはどうなってるのだ?)

 (さあ、聞いてないけど)

 (ま、まさか報酬無し!?)

 (え、別にそれでもいいけど)

 (な、なんだってぇぇ! 冒険者としての埃はどこにいってしまったんだぁ!)

 (いや、誇りだから。まあローランの名前が報酬と考えれば安いものでしょ。戦争とかには参加しないって明言してるし、たまの迷宮探索くらいなら、ね)


 次は【?剣】の番。こちらは形状が剣なので腰に装備してスラリと抜けばそれで判明する。


 ドラゴンスレイヤー


 「オオッ!」

 「これは!」

 「当たりですね、良かったですね」

 「これは凄いな、よし。ラムダ、今回の探索はそれをそのまま装備して使用しろ。丁度片手剣だ、いま持っている剣よりも数倍の威力がでるだろう」

 「ハッ! 有り難き幸せ」

 嬉しそうだ。これはおそらく今後正式にラムダ君の武器になるだろう。ドラゴンスレイヤーを持つ英雄。良い宣伝になるね。



 ボスを倒し宝箱を開けたことで、部屋の奥に脱出用の転送魔方陣が現れ、入ってきた扉が開く。

 「では戻ろう」

 この後もボスを狩るので、再度ボスが湧くまで結界を張ってある子部屋で待機することとなる。

 ボス部屋を出ると、一瞬、ほんの一瞬だけ空気が張り詰めるのを感じる。


 ん?

 (リンー、なんだいまのわー)

 (んー、なんだろね)

 (怪しすぎるのだ! 特にあいつとあいつ、それにあいつは隷属の首輪を持っているぞー、皆殺しなのだー!)

 フードの中でクロが荒ぶっている。

 (あー、クロ。念入りに鑑定してたと思ったらそういうことなのね)

 (当たり前なのだ! こんな状況飛んで火に入るなんとかなのだ)

 (まあね、けど、これエリック王子とかは承知してないっぽいよね)

 (むーん、例のヤンってやつだけか)

 (フレデリック王の命令なんじゃない?)

 (ここはやはり国盗りしか!)

 (いやあ、別にこれ位ならいいじゃん)

 (リン、これ以上最悪な状況など、そうそう存在しないのだ!)

 (いやいや、これ一瞬空気が張り詰めたのウィリアムさんが派遣した冒険者達が居るからだよ)

 (む、味方?)

 (うん、おそらく)



 例えばの話。



 治療師が少ないこの状況が作為的なものだったとする。そして、私が一人で何人分もの働きをして、ボス戦までこなし疲労困憊になって部屋から出てきたとする。私の実力が未知数といっても逃げ場もない迷宮の最下層でいきなり襲われたら、しかも味方だと思ってた人達に。

 ローランの名を戴いた女冒険者はある日突然迷宮探索で姿を消し、代わりにいつのまにか絶対服従の奴隷勇者がローランの傘下に入るという話。


 そして、そういうシナリオもあると踏んだギルド長のウィリアムさんが、同行要員としてローランから依頼された戦闘能力の低いスカウト能力だけの冒険者を額面通りに派遣するのではなく、密かに私の護衛要員も紛れ込ませておいたと。そしてその両者の放つ思考が一瞬だけ微妙な空気を作り出したと。


 (なんか、狐と狸の化かし合いみたいね)

 (リンはこんな状況に腹が立たんのか?)

 (別に、私を直接狙ってくる分にはいいかなーってね)

 (むーん)

 (エリック王子が承知してないということは、おそらくチャンスがあればやれ程度のフレデリック王かあちらのヤンさんの計画っぽいし、それならまだね、ってところかなあ)

 (やっぱりリンはあまあまなのだ!)


 こちらのヤンさんも微妙な空気に気付いたらしく、神妙な顔をして考え込んでいる。


 うーん、権力者側になるとなんか色々と、メンドクサイヨネ。


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