29:激震ゴブリン城
王の間。
ゴブリン王のいる部屋の前。
急にネコがキョロキョロと周りを見回す。
「どうしたネコ」
「リンが、、近くに居るのだ、、」
「どういう事だ?」
「むぅ、」
黙り込むネコ。
キョロキョロしながら、おそらく二人だけの会話、念話をしているのか、少し不安げな表情をしているネコを黙って見守る。
「ここではダメなのだ。空間が遮断されている、外に出ないと」
「なんだ? どういう事だ?」
「リンとの念話が通じないのだ」
「いや、それより、近くにいるってどういう事だよ。俺達が居るのは敵地だよな?」
「そうだ、リンが来るには早すぎるのだ」
「なんだよ、どうなってるんだよ。まさか、リンも捕まったのか?」
「むぅ」
黙り込み、考え込むネコ。
俺の視線に視線で応える事なく、考えながら俺に言う。
「小僧、気付いているよな?」
「何をよ?」
「ここの間違いをだ」
「宝箱が出てないとか、妙にこちらの希望通りになるって所か?」
この迷宮、ボスを倒しても宝箱がポップしないし、見取り図があれば良いなと思ったらソレが存在したり。おかしな所が散見する。
出来の悪い夢の中にいる様な、夢を夢だと認識してしまったかの様な不思議な感覚。
「おそらく、我等は敵の術の中にいる」
「おう」
ま、そうだよな。
「打開策は?」
ネコが聞いてくる。
「そうだな、取り敢えずこの迷宮をクリアするってのが案のひとつだな」
「うむ、そうだな。今試すのはそこか、小僧急いでクリアしれ」
「おう、わかった」
クリアしてもダメだったらどうする気だ。と言う質問を呑み込む。
どうにもネコが悩んでいる様な焦っている様な、おそらく今の状況は何時も幾つもの手を準備しているリンの手の内に無い、ネコがいた時点で立てていたリン達の計画にない事態が起きていると言う事だけは理解できる。俺たちが捕まっている間に何か事態が動いたのだろう。
「じゃあ、いくぞ」
言いつつ、王の間へ入る。
背後で扉が閉まり、フロアの奥に玉座とゴブリンキングが出現する。
ゴブリンキングの雄叫びと共に、ゴブリンの戦士達が何十体と部屋に出現する。
「ふむ」
ゴブリンキングを鑑定の巻物で鑑定しておくか、
「目ぼしいスキルは【援軍】だけだ。特にマイナスなスキルは持っていない、全力で強奪してみろ」
「ムムム? どう言う事だネコ」
今の状況でワザワザ嘘を言う意味はないよな、という事は普通に鑑定して結果を教えてくれているということになる。
「小僧はここでまだ一度もスキル強奪できていないだろ」
「そうだな」
「なぜだ?」
「運が悪いから、とか」
「そうだな」
「そうなのか」
「どうでもいい、時間が無い。とっとと片付けろ」
ネコ。アレだよな。語尾の【のだ】っての忘れてるよな、それほど切羽詰まっているのか?
まあいい。【援軍】スキル。非常に興味がそそられる。おそらく雄叫びと共に出現したゴブリン達は援軍スキルによって呼び出されたと見て間違いない。
もし俺が援軍スキルを強奪できた場合、俺の援軍は何が出てくるのか、人間の戦士とかそんなのが出てくるのか、そんなんあり得るのかとか想像しつつ童子切を抜く。
援軍で呼び出されたゴブリン達はまだ戦闘態勢に入っていない。
トンっと、地を蹴り「月下……」
ゴブリン達の中心に着地し「…満月!」
俺を中心に、魔力の乗った蒼白い剣撃が真円に広がる。
ドンッと魔力の爆発と共に地を蹴り宙に躍り出て「新月!」
地上ではゴブリン達が二つに切り裂かれ地に倒れる中、こちらを見上げるゴブリンキングに見えない斬撃が襲い掛かる。
ガギンッと手に持つ大剣で斬撃を受けるゴブリンキング。無能と言うわけではないな。
俺はそれを見つつ天井にぶつかる瞬間クルリと半回転し天井に着地する。ドンッと再度天井を足場に魔力を爆発させ、一直線にゴブリンキングへと進路を取る。
大剣を構え迎え撃つゴブリンキング。俺は鞘に収まった童子切を握り、月下の型最強の斬撃。
「三日月!」
大剣ごとゴブリンキングを二つに斬る。
スキル強奪改発動…………成功!
【援軍】スキルを手に入れた。
え、マジ?
「ネコ、援軍スキル取れちゃったんだけど」
「……」
無言のネコを見れば、小さく丸まり毛を逆立てている。なんだ?
こんなの初めて見るぞ。
魔法陣が出現する。
「ネコ、魔法陣が出たぞ」
「うむ、行こう」
促され、魔法陣に入る。
ゴブリン城の入り口に出る。
「ループしてるっぽいな」
「……時間が無い」
「ん?」
体の中に、いきなり冷たいものが差し込まれる感覚。
「な、」
言葉の代わりに血を吐く。不意打ちにもほどがある。
ネコが何か喋っている。
意識が遠のく、




