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夢幻の住人  作者: 昼行灯
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24/43

24:次元の迷宮

 マルアの宿、リンの部屋。


 ベッドに横たわったまま眼を開く。変な夢を見せられたせいで意識がまだ混濁している。


 ベッドの天蓋(てんがい)が瞳に写る。それをただボーッと見つめる。


 レースの所々にほつれがある。よく見れば天蓋を支える木の柱にもひっかき傷がある。


 そういえばクロが登ってぶら下がってたなあ、このベッドは職人さんが作った高級品だったかな。迷宮から出た装備品では無いのだからマジックアイテムでも無い。当然自己修復機能など無いのだから、直すとしたら修理か新しいものへ交換になるんだろうなあ。ここを出ていく時は修理代も払わなくちゃだねえ。


 「…………」

 いつもならここでクロが、私の胸の上に乗ってきて何も言わずにじーっと見つめるか、お腹空いたとか言い出すのだけど。


 今ここにクロは居ない。


 眼を閉じる。


 

 最善の策について考える。

 最善の策とは、最高の結果を出す為の策だ。

 最高の結果とは、数値で表せば百点満点の事だ。


 ならば、今ここに二つの策があるとしよう。

 ひとつは、百の結果が出せる策。しかしこれはごく少ない確率だが失敗したらゼロの結果になる事もある。

 ひとつは、百の結果は出ないが、良くて90、失敗しても80の結果が保証された策。

 どちらが最善の策といえるのか?


 百の結果を出した策が最善の策で、90の結果しか出せない策は次善の策と罵られるのだろうか?

 しかしそれは結果論でしか無い。そのようなものは机上の空論と笑い飛ばすべきなのか?

 ならば最悪でも80の結果が出る策が最善の策と呼べるのだろうか?


 120の結果を出せる策を最高の策とでも呼ぶのだろうか、、私は何を考えているのだろう。


 彼方(あちら)は間髪入れずに失敗しない策を打ってきたのだ。そう、時間というものも要素のひとつなのだ。


 私は策士ではなく当事者だからね、こんな所でウダウダとしていても仕様がない。


 しかし、自由でいるつもりだったけど、しがらみというものは否応無く出来ていくものなんだなあ。


 「逃げ出すも勇気、立ち向かうも勇気。質は違うけどどちらも同じだよね」


 何となく部屋を片付けてみる。これで死亡フラグというのが立っちゃったかな?


 何をしているんだか。


 んーっとひとつ伸びをする。やる事は決まっている。悩んでいても仕方ない、取り敢えず一歩を踏み出す事が肝心だ。


 「じゃあ、行こうかな。転移!」


 私を中心に次元の迷宮に記録してある転移先へと、私を転送する魔法陣が展開する。魔王のローブを漆黒のデストロイモードへ変化させ、転移の軽い浮遊感に身を任せる。





次元の迷宮:

 軽い抵抗がある。

 おっと、これは、次元の迷宮自体に特殊な結界が張ってあるようだ。

 一瞬、転移の罠に引っ掛かって石の中に飛ばされるという逸話を思いだしヒヤリとするが、弾かれる事なくそのまま通過でき迷宮の入り口内部に出現する。

 あぶないあぶない。転移の魔法は転移の罠と違いある程度融通が効くので、本当に石の中に飛ばされるという事は起きないがそれでもヒヤリとしてしまう。現状、私はツイていない、運が無い状態、、、イヤイヤイヤ何を言っているのか今の状況は運などという不確定なモノによる結果ではない。そのような事を思う時点で相手に()されているのだ。気をしっかり持たないと。


 結界の外で人が次々と倒れていく、暗部の人達かな?

 流石と言うべきかヤンさん達暗部の人は動きが早い、おそらくここ次元の迷宮は既にローランの名の元に封鎖されているのだろう、見れば結界のおかげで魔王のローブの死の波動も多少和らいでいるようだ、死ぬ事はないだろうから放置する。


 今いる場所から一歩踏み出せば次元の迷宮の転移魔法陣が発動する。


 躊躇(ためら)い無く一歩を踏み出す。


 転移魔法陣が発動する。


 さて、どこに出るのかな?






 「!!!」

 結界に感じる突然の来訪者の気配。それに驚きを隠せない。

 

 お(やかた)様が私の異変に気付き、その鋭い視線を向けてくる。

 「(くだん)の娘が参りました」

 「ほう」

 その素早い行動力にお館様も興味を持ったようだ。

 

 予定では明日、三日の猶予をもって魔人を連れ立っての来訪を記した書簡を飛ばす手筈であった。

 「一人か?」

 「はい、魔人ギルバートでしたか、そのものと(おぼ)しき気配はありません」

 「ふむ」

 お館様が考え込む。


 得体の知れない娘であったが、単独での来訪の意図が計りかねる。

 「如何致しますか?」

 既に居る者達と共に夢幻の中に取り込む事もできるが、それは意見を求められた時の話、先ずはお館様のお考えを待つ。

 「まさか、和平の申し出ではありますまいな」

 肩に担いだ十文字槍をトントンと鳴らし、呟かれた軽口にお館様が嘲笑する。

 「フッ、その様な良迷いごとを(さえず)るならば斬り捨てようぞ」


 お館様が苛烈に(わら)う。


 不可思議な技を使う娘であったが、共に居た獣は今私の夢幻の術の中。手駒を欠いた中、果たしてどの様な意図での来訪か、単独である事に意味があるのか、それとも(ただ)の無謀な賭けか、私の意識に同調までしてきた娘、生半(なまなか)な力の持ち主ではない。


 私の(おも)いに(こた)えてくれる者ではと淡い期待をしたが、果たして。


 「会おう。通せ!」

 その答えはすぐに出る様だ。


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