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夢幻の住人  作者: 昼行灯
22/43

22:冒険者ギルド

 貴族街の冒険者ギルドに似付かわしく無い者達が入って来る。

 ローラン王都には二つの冒険者ギルドが存在し、ひとつは市民街、一般的な冒険者が利用する誰にでも門徒を開いているギルドで駆け出し冒険者や信用の低い冒険者はこちらしか利用出来ない。そしてもう一つが王城を囲むように広がっている貴族街にある冒険者ギルド、たまに勘違いした冒険者が紛れ込むが、本来は由緒ある貴族の子息や信用のおけるランクの高い冒険者達が利用するギルドだ。

 そこに似付かわしく無い者達。全身黒ずくめの目つきの鋭い男、どこにでも居そうな市井の一般人、弱そうな冒険者風の男。一貫性の無い者達がギルド職員に連れられて事務所の奥へと入って行く。

 冒険者になりたての貴族の子息はその一団を(いぶか)しげな目で見送り。ベテラン冒険者は自分も参加した事のあるギルド直の依頼を受けた者達の一団であると理解しつつ、依頼の一部である偽装姿のままギルド内を歩く彼等にまた(いぶか)しげな目を向けつつその姿を見送る。


 冒険者ギルドとは武力の組織であり、その武によって独立性を保っている組織である。

 力ある冒険者を囲い、貴族の子息を手取り早く成長させるための手段として冒険者登録を許可し、ランクの高い冒険者を貴族と結びつける事でその町の権力者達と懇意にする。こうして冒険者ギルドはその国からは独立した組織でありながらその町と共存していく。当然その組織の長は実力者でなければ組織を引っ張っていく事はできない。


 ローラン王都の冒険者ギルドの長、ウィリアムはその点に於いてとても優秀である。

 冒険者ギルドを武力の組織のみとせず、政治力、権力に於いても力ある組織に作り替えた。冒険者を仲介するだけの組織ではなく、その特性や実力を理解できる組織として直接雇用する事で政治的発言力を持つ。

 それはある意味一歩間違えれば、国家の敵と認識され潰される行為であり。薄氷の上を歩く慎重さが必要な行為。

 「わざわざ薄氷の上を歩くな、ばか」

 と、盟友であり同じギルド長であった男にいつも(たし)められていたが、ストッパーであったその男は既に存在しない。



 ギルド長室で報告を受ける。



 「リン様は宿へ戻られました。部屋内部の様子はいつものごとく不明です」

 リンさんの護衛兼見張りとしてつけている冒険者からの報告だ。部屋の内部が確認できない事に関しては、おそらく迷宮のボス部屋に掛かるロックの魔法のような効果が掛けられていると推測され、リンさんが空間魔法を持っている可能性と懇意にしている魔道具屋からロックが掛けられる魔道具を手に入れているのではないかという事で解決している。リンさんの実力に関してこの者達には公然の秘密扱いとなっている。無論、ここに報告に来る立場を任されている者達だ、わざわざ確認して来るような無作法者はいない。

 「冒険者の噂だが、次元の迷宮に入れないというのがあった。後フジワラだが、今日姿を見たものはいない。奴はギルドにはほぼ顔を出さないから報告では今日も見ていないという事だったが」

 噂話を集める者の報告。噂と言っても冒険者が実体験した話が主なので情報の確度は高い。後はギルド職員との会話から得られる情報も加味されている。

 「暗部の奴等が活発に動いている。鉢合わせる頻度が尋常じゃ無い。次元の迷宮もキーらしい、途中で追跡は断念したが方向的には一致する」

 暗部と呼ばれるローランの実力行使部隊。リンさんの宿の護衛部隊はこちらも把握している、そこは目的が同じ事もあり比較的友好にやっているが、他ではそうもいかない。任務の障害と判断すれば平気で殺しに来る連中だ、下手な対立は国との関係悪化の原因にもなりかねないため、少しでも危険があればすぐに手を引くように言ってある。


 「暗部が表立って動いている状況ですか、」


 考える。


 「奴等の中に首輪使いも確認されている」

 「なんだと!」

 「どういうことだ! 彼奴らリン様に隷属の首輪をつけるつもりなのか!?」


 首輪使い。

 奴隷使い、隷属師、蔑称の類になるが隷属の首輪を扱う者のことだ。


 リンさんの立場は微妙だ。

 冒険者として我等冒険者ギルドの庇護のもとにある一方で、ローラン王家の一員でもある。

 フレデリック王がまさかあのような離れ技を使って来るのは予想外であったが、お陰で冒険者ギルドと国とが互いに権利を主張している状態となっている。リンさんの望んだ結果だったのかもしれないが、国家という魔物には冒険者には無い特殊な従属関係が存在している。そして彼等暗部はそれを実行する部隊でもある。


 今回は出遅れた。


 黙って私からの指示を待つ彼らを見る。

 そう、彼等は優秀な冒険者であり、私の部下でもある。意見は言うが決定には従う。独自の判断で勝手な行動をしたりはしない。

 実力的にも暗部の者達に引けを取るものでもない。しかし決定的な違いは存在する。私は彼等の生殺与奪の権利は持ち合わせていない。

 表ではなく裏である以上、殺せという指示は出せる。しかしその先、死ねという指示は出せない。それを出せるのは裏の先の暗闇の部分、暗部の者達だけ。


 今回手を出すならばそこを相手にせねばならない。


 「ここまでですかね。リンさんの護衛を最優先事項とします。他は情報収集のみでお願いします」


 彼等は私の決定に黙って頷く。


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