16:迷宮の罠
ドサッ!
と音を立てて地面に落ちる。
「いってぇ、痛てえ! ネコ爪立てるな!」
「だが断る!」
「痛てえ! マジやめろ、服が破けるだろ」
「ゆるす!」
「許さねえ! テメエザケンナ!」
糞ネコを掴んで引き剥がそうとしたが、跳んで逃げられ目の前の地面に器用に着地する。
「お前さ、」
「リンと連絡とるので、小僧は黙れ」
「ウググッ」
確かに最優先事項で、反論できないので大人しく黙る。
ネコ、目を閉じて集中している。念話中か?
前足を曲げ、その上に顎をのせ、念話が長くなるのか?
静かに待つ。
待つ。
待つ。
…………
……
コイツ、寝てね?
「オイ、」
ネコの小さな額にデコピンする。
「はっ!」
「はっ、じゃねえ! テメエ寝てたろ?」
「ねてない」
「嘘つけ」
「ねたふり」
「なんで寝た振りしたんだよ?」
「なんとなく?」
「今なら止める奴誰も居ないし、殴っていい?」
「だめ」
ネコ曰く、念話が通じなかったらしい。
「我、もう帰りたいのだ!」
念話が通じないのがわかったとたん帰りたがるネコ。
「俺もだけど、どうやって帰るのネコ」
まあ、俺もこんなわけのわからんところに長居するつもりはないし、とっとと戻りたいところなんだが。
「小僧、空間魔法あるだろ、転移しれ」
「あるけど、その前に状況確認しといたほうがよくないか? ネコ魔眼で今いる場所鑑定しれ」
「フジワラのクセに我に指図するな、生意気な!」
「うっせ、ネコもそのつもりでついてきたんだろうが」
あの罠を発動させたのは俺だから、コイツは発動範囲外に逃げれたはずなんだ、それをワザワザ残って一緒に飛ばされたのには理由がある。飛ばされる寸前リンとアイコンタクト取ってたし、俺になくてネコにあるものと考えれば、念話と魔眼。おそらく敵の目的を確認するためにあえて罠に嵌まったというところ。
本来ならば罠自体を防げれば良かったのだが、それは失敗したためにとった次善の策。抜け目がないと言うか、それだけ慎重になってるとも取れるか。
「次元の迷宮:風雲ゴブリン城」
「なんだそれ」
「次元の迷宮:風雲ゴブリン城。大事なことなので二回言ったのだ!」
「なんだそれ。大事なことじゃないけど二回言ったぜ!」
「小僧ムカつく」
「やったぜ!」
ゴブリン城という迷宮らしい。風雲はなんとなく付けたとネコが白状した。
「どうやら、俺の張った結界が次元の迷宮まで飛ぶのは阻止できなかったが、目的地だけは変更するのに成功したらしいな」
「どうやら、我の張らせた結界が次元の迷宮まで飛ぶのは阻止できなかったが、目的地だけは変更するのに成功したらしいのだ」
「……真似すんなよ」
「……真似すんななのだ」
「……なんなのネコ」
「……なんなの小僧」
「……」
「……」
「……」
「……」
「ガキじゃねーんだからさ」
「我、ネコだし」
「……」
「……」
「……」
「……」
「謝ればいいの?」
「うむ」
「ごめんなさい」
「ゆるす」
「お、おぅ」
「えっへん!」
ネコ、めんどくさくね?
リンって、毎回こんなことしてるの?
スゴくね?
当面、危機は差し迫っていない。ここは焦らず腰を落ち着けていこう。
「ひとつづつ解決していこうか」
「うむ?」
「ここは次元の迷宮なんだよな?」
「うむ、風雲ゴブリン城」
「それは置いといて、空間魔法の転移だが、確かに転移先はローラン王都から少し離れた人気のない場所に設定してあるが、それ以前に転移魔法は迷宮内では使えない。先に迷宮脱出魔法を使うことになる」
「おおう、使うと頭をぶつけちゃうみたいな?」
「まあイメージ的にはそうだな例のアレみたいな感じだ。で、迷宮脱出魔法はボスを倒したときに出る転移魔方陣と同じで、迷宮の入り口に転移する」
「うむ、危険だな」
「だな、織田軍も馬鹿じゃない、俺たちが次元の迷宮に転移してきたことは気づいているはず。何か仕掛けをしていると見て間違いない」
「うむ、織田軍か、ならばこちらはクロ軍だな!」
「そこか? フジワラ軍じゃね。後は念話だな、リンに何かあったという可能性はあるのか?」
「ない。あれば我に必ずわかる」
「そうか、あれだ、聞きにくいんだが、リンが死んだらネコも消えるのか?」
「うむ、当然」
「……そうか、当然か、」
「その様な時は我からだ」
胸を張ってネコが宣言する。
さも当然の事のように、先に死ぬのは自分からだと、覚悟は出来ていると宣言するネコ。なんだよ、格好いいじゃねーか。