15:郷愁
静寂。
仄暗い闇の中、小さなため息がひとつ。
「どうしたお蘭」
人間無骨を手にした兄上が聞いてくる。
「逃げられてしまいました。何やら空間を操る能力が干渉したみたいです」
「難しいことはよくわからんが、几帳面なお蘭が失敗するとは珍しいな」
兄上が楽しそうに笑う。
「お恥ずかしい」
「宴の呼び水なのだろう?」
新たな魔人を誘い出すための餌と言う意味だ。
「いえ、もしかしたら彼の娘こそが主賓となるのかもしれません」
「強いのか!?」
兄上が嬉しそうに笑う。
「どうでしょう、私にも計りかねます」
「なんだそれは?」
「稀にいるのです。強さが計れない相手と言うのが、そうですね、兄上にも解りやすく言えば忍の技を極めた者逹のような」
「ああ、喰えない相手か」
兄上が嫌そうに笑う。
クスッ。
「笑ったな!」
「いえ、笑ってませんよ」
「嘘をつけ」
ああ、懐かしき日々よ。
お館様が現れる。
「その娘に我が茶でも点てるか?」
「茶会ですか」
兄上が嫌そうな顔をする。
「それも一興よ」
お館様が笑う。
「それでは本当に宴になってしまいます」
兄上はどうしても戦いたいらしい。
「変わらず、長可は戦好きよ、ハハハッ」
お館様が腰に下げた髑髏を撫でる。
「お館様、娘の首を我が槍で切り落とし、そこから流れ出る血をそれに捧げましょう」
髑髏を盃の代わりにするなど悪趣味にもほどがある。それは、お館様を貶めようとした者逹の作り出した流言、戯れ言にしても肯定するような発言、承服いたしかねます。
「兄上、趣味が悪う御座います」
「お蘭、それこそが血の宴ぞ!」
「で、あるか!」
お館様も兄上の戯れ言に笑いながら同調してくる。
「お館様、で、ではありません。ご自重ください」
ワハハハッ、ハッハッハ。
お館様と兄上の笑い声が、闇に木霊する。
その姿を、
嬉しそうに、
悲しそうに、
蘭丸は、ただ見つめる。




