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夢幻の住人  作者: 昼行灯
15/43

15:郷愁

 静寂。


 仄暗(ほのぐら)い闇の中、小さなため息がひとつ。


 「どうしたお(らん)

 人間無骨(にんげんむこつ)を手にした兄上が聞いてくる。

 「逃げられてしまいました。何やら空間を操る能力が干渉したみたいです」

 「難しいことはよくわからんが、几帳面なお蘭が失敗するとは珍しいな」

 兄上が楽しそうに笑う。

 「お恥ずかしい」

 「(うたげ)の呼び水なのだろう?」

 新たな魔人を誘い出すための餌と言う意味だ。

 「いえ、もしかしたら()(むすめ)こそが主賓となるのかもしれません」

 「強いのか!?」

 兄上が嬉しそうに笑う。

 「どうでしょう、私にも計りかねます」

 「なんだそれは?」

 「稀にいるのです。強さが計れない相手と言うのが、そうですね、兄上にも解りやすく言えば忍の技を極めた者逹のような」

 「ああ、喰えない相手か」

 兄上が嫌そうに笑う。


 クスッ。


 「笑ったな!」

 「いえ、笑ってませんよ」

 「嘘をつけ」


 ああ、懐かしき日々よ。


 お(やかた)様が現れる。

 「その娘に(われ)が茶でも()てるか?」

 「茶会ですか」

 兄上が嫌そうな顔をする。

 「それも一興よ」

 お(やかた)様が笑う。

 「それでは本当に宴になってしまいます」

 兄上はどうしても戦いたいらしい。


 「変わらず、長可(ながよし)は戦好きよ、ハハハッ」

 お(やかた)様が腰に下げた髑髏(されこうべ)を撫でる。

 「お(やかた)様、娘の首を我が槍で切り落とし、そこから流れ出る血をそれに捧げましょう」

 髑髏(されこうべ)を盃の代わりにするなど悪趣味にもほどがある。それは、お館様を(おとし)めようとした者逹の作り出した流言(りゅうげん)、戯れ言にしても肯定するような発言、承服(しょうふく)いたしかねます。

 「兄上、趣味が(わる)う御座います」

 「お蘭、それこそが血の宴ぞ!」

 「で、あるか!」

 お館様も兄上の戯れ言に笑いながら同調してくる。

 「お館様、で、ではありません。ご自重ください」


 ワハハハッ、ハッハッハ。

 お(やかた)様と兄上の笑い声が、闇に木霊(こだま)する。


 その姿を、


 嬉しそうに、


 悲しそうに、


 蘭丸は、ただ見つめる。


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