12:無駄話
噴水前に着く。
盗み聞きされないように、空間魔法で結界を張ってもいいが、そうすると外との繋がりが絶たれてしまうので、噴水の周りに静寂の魔法を張り音声を遮断するだけにとどめる。
「で、誰なのよ?」
「うむ、知らん」
「え、」
「小僧の会った相手など我が知る佳しも無し」
「そっちも会ったんだろ?」
「うむ」
「同じだろ?」
「ふっ、浅いな小僧。同じ時期に異形のモノと会ったからといって、それを同じと決めつけるのは愚か者の浅はかさ!」
「お、おう。確かに」
「だが我は同じものだと断言するがな!」
「お、おう。殺していいか?」
「だめ」
「で、誰なのよ?」
「うむ、聞いて驚け!」
「お、おう」
「ヤツこそは、天草四郎!」
「な、なんだってぇぇえ!」
「島原の乱では死にきれずこの世界に転生してきたのだ!」
「魔界じゃなくて異世界転生かっ!」
「然り!」
「確かにあの妖艶で死を纏ったような出で立ち、納得だぜ!」
「うむ! じゃ、我はこれで!」
「お、おう。ありがとな!」
「うむ、気にするな我と小僧の仲ではないか、じゃ、我はこれで!」
そそくさと退散しようとするネコ。アヤシイ。
「あ、そうだ。この前旨い肉料理を出す店を発見してさ」
「なぬ!」
「旨かった料理をテイクアウトしてアイテムボックスに入れてあるんだが」
「じゅるり!」
「本当に天草四郎?」
「森蘭丸」
「は?」
「ヤツの名は森蘭丸。本能寺で死にきれず異世界に転生してきたのだ!」
「は? まじ?」
「まじ、肉料理くれくれ!」
「いやいやいや、糞ネコ、お前平気で嘘ついてたの?」
「うむ、気にするな。我は気にしない」
「お、おう。ブッ殺していいか?」
「だめ」
肉料理を噴水の縁の上に置いて、ネコと一緒に食う。
「ネコ、俺に対する態度どんどん酷くなってね?」
「がつがつがつ、小僧は自分のスキルの危うさを自覚しろ、我的にはリンに危険を及ぼす要素は徹底的に排除なのだ」
「お、おう。そうだよな、」
納得できてしまう。もし立場が逆だったら一緒にいることなど許さないだろう。いつ後ろから刺されてもおかしくないのだ。俺がこれを手に入れた相手などまさに喜んでそれをしてくるようなやつ、そこまで人間としての理性が崩壊している男だった。
リンに会ったとき、今までと変わらない態度に安心し、気が緩んだのかもしれない、俺はこのスキルについてもっと真剣に向きあうべきだ。
ということは置いといて。
「やっぱり信長もいるのか?」
「がつがつがつ、もれなくセットだろ?」
「だよな、やばくね?」
「うむ、リンは逃げるつもりのようだが」
「いいね!」
「小僧はもう無理だろ。目的はギルバートで、その弟子が小僧と教えたやつがいるようだぞ」
「は? 誰それ」
「それ以前に小僧、既に喧嘩売ってるだろ、お前は既に死んでいるのだ」
「いやいや、ガン飛ばしただけだし!」
「ぬるいな! 我なら即殺! 各個撃破こそ戦いの基本」
「ムウ! 確かにあの場で殺しておくべきだったか、けど勝てる気しなかったんだけど」
「貧弱ぅぅ!」
何時でも戦う覚悟はしていたが、死の雰囲気は別として話した相手にその気がなかった。気が削がれたというか、それさえも手の内だったとしたら、勝てたかどうかも怪しい。笑いながら刃を突き立ててくるのが日常だった相手、勝負になるかさえも怪しいが、負けるわけにもいかない。
「逃げるのが最善だよな」
「逃げなかったヤツがなにを今さらなのだ」
「だよな、バカだよなあ」
「バカだな」
信長に会ってみたい。戦ってみたいと思う俺がいる。ほんとバカだよなあ。
「てかさ、信長、美少女だったりして」
「小僧、頭膿んでるのか?」
「いやいや、転生したら美少女でしたとか」
「なら簡単に殺せそうだな」
「まじで!? 恋愛に発展したりしてラブラブな展開もありそうじゃね」
「キモい、小僧マジキモい。リンに報告しとく」
「エ、ヤメテ!」
馬鹿話をしていると、一羽の鶴が舞い降りてくる。




