01:最下層
大陸の南に位置するローラン王国は比較的平和な国である。そのなかでも王族の住まう王都ローランは国の最南端に位置する。
主要な都市には必ず冒険者ギルドが存在している。独自のネットワークを持ちその支配権を完全に独立した冒険者の組合。とはいってもやはりそれぞれの国に依存する部分も少なからず存在する。そこは各都市のギルド長にある程度の裁量を委ねられている。
王都ローランに存在する冒険者ギルドは王族と友好な関係にある。よって冒険者ギルドの管理する迷宮に王族が入ることも特に咎められることもなく、王族の所有する魔道具による恩恵も受けられるため積極的に助勢をしている。
管理迷宮。
王都内に存在する迷宮で、冒険者ギルドによって完全に管理された迷宮。私は今その最下層にいる。
私の名前はリン・ローラン。冒険者でありローラン王家の一員でもある。詳細は面倒なので省く。
「グレーターデーモンだ! 詠唱破棄で魔法攻撃が来るぞ、盾を持っているものは防御体勢をとれ、ランス部隊は攻撃準備、魔法が途切れたら突進系のスキルで突っ込め!」
「ハッ!」
「右前方に扉があるぞ、迂闊に近づくな、鍵開けのスキルを持っているものは解錠を試せ! ラムダ、失敗したときのため援護の準備をしろ」
「ハッ!」
「オルガ、グレーターデーモン隊の指揮をとれ」
「ハッ!」
いきなりの修羅場っぽいけど、解説を少々。
テキパキと指揮を執っているのはエリック・ローラン王子。おそらく次期国王の人。騎士団のみならずローラン軍の指揮までとって国家間の戦争とかもこなしちゃう人。
ラムダ君は英雄の称号を持つ騎士さん。英雄というのはローランの名を持つ王家の者を守るためには特殊な加護が発動してスーパーな力を発揮できるトンでも能力者さん。
オルガさんは、騎士団長さん。クロ曰く止まるんじゃねえぞの人。なんだろね。
クロは私の相棒の子猫ちゃん。今は私の着ているローブのフードの中で爆睡中。
「二体いるぞ!」
「連携している。魔法が途切れない!」
魔法を防御している騎士さん達の体力がジリジリと削られていく。
「ヒーリングフィールド!」
私を中心に魔方陣が広がり、騎士さん達の体力がモリモリと回復していく。
「リン、騎士達のところまで行けるか?」
「はい」
「オルガ、合わせろ!」
騎士さん達の所まで歩いていく。
「有難う御座います、リン様!」
「はあ」
騎士さん達に感謝される。
「行け!」
騎士団長さんの合図と共に盾の騎士さん達が途切れない魔法攻撃を防御しながら、私の回復魔方陣の届く範囲一杯まで突っ込んでいく。
「威圧!」
おっと、騎士団長さんの威圧スキルが発動する。グレーターデーモン達の動きが一瞬止まる。相手が格下ならば動きを完全に止められるのだけど同格かそれ以上だと一瞬が限界。それでも十分魔法は途切れる。
「ピアッシングランス!」
ランス部隊が突進系の槍スキルを発動してグレーターデーモンに攻撃する。
二体いるグレーターデーモンの近い方に三人いるランス持ちの攻撃が集中し命中する。
「ゴガァァァ!」
ランスは、刺さってはいるが貫けてはいない。致命傷にはほど遠い。騎乗してこそ真価を発揮する武器だ、このような迷宮の戦闘には元々向いていない。グレーターデーモンの反撃を盾を持った騎士のスキル【庇う】が発動し防ぐ。
「押し込め!」
騎士団長さんの指示に、三本の刺さったランスでグレーターデーモンの巨体を持ち上げもう一体へと無理矢理ぶつけにいく。
「完成しました。下がってください」
全体指揮を執っているエリック王子の後方から声が響く。騎士達が一斉にグレーターデーモンから距離を取ると。
「ストーンジャベリン!」
力在る言葉と共にグレーターデーモンの居る地面に魔方陣が浮かび上がり、無数の石の槍が出現しその頑丈な体を貫いていく。
「隊列を組み直せ、ラムダそちらはどうだ?」
「大丈夫です。先手を取れたので問題なく魔物は処理しました。宝箱が出現した、冒険者ギルドの方頼む」
「ハイ」
「こちらのグレーターデーモンも迷宮が吸収する前に処理を頼む」
「ハイ」
騎士達の苦手とする解錠や魔物の素材回収を冒険者ギルドから派遣された冒険者が代わりに行う。
その後も幾度かの戦闘を繰り返し最下層のボス部屋へと到着する。
「リン様が居てくださると、怪我人が出なく進攻が捗りますな」
と、騎士団長さん。
「確かに戦力の疲弊がないと安定するな」
エリック王子。
「はあ、どーも」
適当に相槌をうちラムダ君をみる。
「グヌヌ」
ぐぬぬと言っている。私がローランの名を頂く前のただの冒険者だった昔なら、エリック王子と騎士団長に向かってなんだその口の聞き方は、とか言われてたところだからね。
そういえば、先程のストーンジャベリンは通常よりも威力が増していた気がする。術者であるヨランさんに聞いておこうかな。ちなみに彼は宮廷魔術師長の職にあり現在ローランにおける魔法の第一人者だ。
「ヨランさん、さっきの呪文って何か特別なことしたんですか?」
「はい、それはまあしましたけど。私としてはリン様のヒーリングフィールドの効果範囲についてお話を聞かせてほしいのですが」
「え、取り敢えずそれは置いといて、何したんですか?」
「置いといてほしくないのですが、通常術者の周囲二人分程の範囲しか展開できない呪文がどうしてあんな膨大な範囲になるのですか?」
「たまたまですよ、それで何をしたんですか?」
「リン様、ハァァァァァアア、はい、これです。この魔石でブーストをかけました」
盛大なため息と共に種明かしをしてくれる。魔石でブーストってどういうことかな? ってそうか、消費魔力を増やしただけか。けど、たしかさっきこれ発動媒体の杖に取り付けていた魔石だよね。
「えーと、それって、魔法を発動する媒介の杖の方に取り付けるんですか?」
「何でそこまでわかるんですか」
「さっきちらっと見えたんで」
「……ハァ、そうです。今までは術者本人の魔力補助のために魔力を貯めた魔石を身に付けていましたが、発動媒体である杖に付けたところ特別な効果が確認されたので現在様々な魔石で実験しているところです。これは魔法威力の増加が確認された魔石です」
ほうほう、魔石によって効果がマチマチなんだ。それは結構、……鑑定。
魔石:威力増強
間違って神眼を発動しないように注意しながら鑑定スキルで魔石を鑑定したらそのままの結果が出た。魔石の効果に威力増強と付いている。
「ふーむ。ふむふむ。これって鑑定してみました?」
「はい、鑑定持ちの冒険者に依頼したところただの魔石でした」
「んー、使い捨ての巻物での鑑定は?」
「いえ、試していません」
「ちょっと試してみましょうか」
魔法の鞄から取り出す振りをしてアイテムボックスから鑑定の巻物を取り出す。これは一回使うと消えてなくなってしまう使い捨ての巻物、それの鑑定バージョン、買うとそれなりの値段がしたと思う。
「いいですか?」
「はい、是非お願いします」
未知の可能性にヨランさんもノリノリになってきた。こういうところが宮廷魔術師たる所以なんだろうね。
魔石に鑑定の巻物を使用する。
魔石:特殊効果有り
「うーん、これは」
「オオ、これは」
「もしかして、もう一回鑑定が必要とかかな?」
「そうですね、その可能性もありますね」
「リン、ヨラン、盛り上がっているところ悪いのだが、」
しびれを切らしたエリック王子に声をかけられる。
「リン様、なぜ冒険者の鑑定スキルではこの結果が出なかったのでしょうか?」
「んー、おそらくそれ、鑑定に失敗したんじゃないかな?」
「ああ、だからただの魔石という結果だったのですか」
「うん、多分何回か鑑定させたらこの結果が出たかもしれないね」
「そうか、その想定はしていなかった。それならば、」
「おーい、打ち首にするぞ」
エリック王子から剣呑な言葉が発せられる。
魔石の鑑定についてはヨランさんの持ち帰りとなった。結果は教えてくれるということだ。まあ、結果はわかっているんだけどね、しかし魔石にこんな特殊効果があったとはなかなかに奥が深い。
魔石の完全版、魔玉にも特殊効果が付いているのかな? というか確実についていそうだなあ、今度手持ちの魔玉を鑑定してみようかな。