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兄妹の検討(2)

「さて、次は②だが…これもちょっと考えられん」

 小夜乃(さよの)が目で理由を問うてくる。

(しずか)が意図的にメモを無視して8本も多く牛乳を購入したのだとしたら、目的は観月(みつき)への嫌がらせということになるのだろう?」

 その他にそんなことをしなければならない理由は、今の処ちょっと思いつかない。しかも店に戻ってもそれを説明せず「メモのとおり買った!」と言い張っているとなれば、尚更だ。

「だとしたらこの行動は、静の損が大きすぎる」

 指示よりも8本も多く1リットル牛乳を購入し、買い物バッグの重さは約8キロも増えた。それを息を切らせながら30分近くも徒歩で運び、腕はつりそうになるし、おまけに予算オーバーした分の代金は自分持ち…結果をみればこの件で最も負荷を被ったのは静だろう。観月の方はといえば実家が余計な牛乳在庫を抱えただけ。使わず余ったら捨てればいいし、強いて言えば預けた予算が尽きたことが痛手といえば痛手だが、本来3500円弱で済んだ買い物に4000円丸々費やした程度、差額は500円と少しでしかない。それとても店の予算の内であり、観月の私財が被害を受けたとはいえないのだ。

「どうせ嫌がらせをするなら、逆に牛乳なり何なり、指示された品を買わなければよかったんだ。忘れたなり、「メモに書いてなかった、観月が書き忘れたんだろう」と主張するなりしてな。店は混乱するだろうし観月の印象も悪くなる。ひょっとしたら静が戻った後「やはり慣れた人間がいかなければ無理だ」となって観月本人が業務用スーパーまで走らされるかもしれない。その方が心身ともによっぽどダメージを与えられるだろうよ」

 他者の行動を推測するついでとはいえ、こうもポンポン嫌がらせの手段を挙げてみると、我ながら段々性格が悪くなっていく気がする…

「或いは静はこう考えたかもしれない。「牛乳を余計に買って、それは観月がメモにそう書いたせいだということにしよう。観月が嫌がらせで自分に重い荷物を運ばせたとなれば、信用を失墜させ前日の意趣返しをすることができる」…」

 俺の言葉を聞き終え、小夜乃は眉をしかめた。友人がそこまでやったとは考えたくないのだろう。

「安心しろ、この考え方も無理筋だ。もし本当にそう企んだとしたら"メモをなくした"という言い訳が苦しすぎる。怪しんでくださいと言っているようなものだ」

「メモの文面を見られないための、苦肉の策だったということは?」

「それだったらもっといい方法がある。買い物を終えて購入品を詰め込む時、スーパーにはそれ用にサッカー台が置いてあるものだろう?台の上は平たい、そこにでも観月のメモを置いて数字を書き換えてしまえばよかったんだ」

 あ、と小夜乃が声をあげた。

「静はスーパーに向かう時、エプロンだけ外して制服姿のまま出ていった。もちろん普段通り、胸ポケットに黒ペンを差し込んだまま。従業員に支給されるボールペンはすべて同じ種類、つまり観月がメモを書くのに使用したものと同じペンを静は胸に差していたことになる。だったらそのペンでメモ横の数字を潰して書き換えても、静の仕業だとはバレない。"2"を消して"10"に直すとしたら縦棒と丸を書くだけだ、専門的な鑑定でもしない限り筆跡の問題も生じないだろう」

 仮に訂正を加えたそのメモを持ち帰って、その場にいる人間に見せたらどうだろう。観月以外、静の作為を疑ったろうか。

「まず、観月が不利な立場になったろうな。静は買い出しに行く前に歩み寄りの態度を示していたのに、観月の方で拗ねていた形だった。観月の作為が疑われ、静の企みが成功した見込みが高い」

「確かに…そうなったら私も、静さんが書き換えた可能性すら思いつかなかったかもしれません」

「周りの心象は、最悪半々くらいにはなったかもしれんが…それでも分の悪い賭けではない。少なくとも「メモをなくした」なんて言い訳よりも遥かにマシだ」

 更に穿った見方をすれば、"静はメモに細工してそれを持ち帰ろうとした、しかし途中でその細工済メモ自体が風に飛ばされるかどうかして紛失してしまった"という可能性もあり得ないことではない。だがこの場合は、静は8本余計な牛乳をわざわざローズマリー&タイムまで運んだりせず、どこかに隠すなり遺棄するなりしてくればいいのだ。"牛乳を余計に買った"という事実自体、なかったことにしてしまうわけである。そして本来依頼された分だけの品をバッグに入れて戻り、「レシートをなくした」と主張する。ニワノ商会は観月の家では勝手知ったるスーパーのようだし、頼んだ分の買い物をすれば大体どれくらいの金額になるかはすぐに算出できたはずだ。後は静が4000円からその算出した額を引いた分だけおつりとして渡せば、大した問題にはならず話はそこで終わっただろう。もちろん牛乳8本分の出費は自腹となるが、メモがなければ牛乳を10本持って帰った処で自分が不利な立場になることは目に見えている。わざわざ約8キロも余計な重さを抱えて帰路を歩くのは徒労以外の何物でもない。

 しかし実際の静はここで挙げたどの行動も取らず、8本余分な牛乳を携えて戻ってきて「メモは無くした」と訴えた。結果、観月に糾弾の機会を与えてしまった…自分から企んだのだとすれば、お粗末かつ不合理なこと甚だしいではないか。

 以上諸々を考慮して、やはり牛乳本数の超過が静の嫌がらせだったと考えるのは無理があるだろう。②に斜線を引いても問題あるまい。

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