カタツムリ
目の前にいる幼稚園ぐらいの女の子が僕を見て首をかしげてる。そこに女の子を見つけて走ってきた男の子が僕に気づいて、泥だらけの手からカタツムリを落とす。カシャと音を立ててカタツムリはアスファルトに打ち付けられる。その音と同時に歩道すれすれの道路を走る、真っ赤なスポーツカー。
テストで配られたときに誤って紙の端で擦り傷を手に作る痛みのように、僕ら3人は傷を負った。痛みとは言えない、でも微かな痛みが心とともに胸を巡った。
女の子は予想も出来なかった展開に、男の子は手放してしまったカタツムリへのショックに、ボクはそんな2人を困らせてしまった過ちに。何もなく走り続けた真っ赤なスポーツカーだけが、この風景に違和感を遺した。
落とされたカタツムリはヒビ割れた殻を抱えながら、まだ安全な場所へと避難しようとしていた。
第三者からしたら数秒に思われる出来事を僕たちは数分と感じた。あまりにも長いこの動揺に耐え切れなくなった女の子と男の子は、僕から遠ざかっていた。
僕は僕として居ただけなのに、子供たちも去っていった。
先ほど晴れた雨が戻ってきてほしいと願う。傘をして身を隠すということはもうしないから、思う存分濡らしてほしいと首を振りながら歩きだす。
一歩、また一歩‥
一歩、さらに一歩・・
脳内に指令を出す。止まるな、留まるな。
陽が落ちてきて影が大きくなるどころか、自分がどんどん小さくなっていく。
一歩、そう一歩。
難しいことではない。そう、なぜならほんの数秒前までは鼻歌を歌って歩いていたのだから。
一歩、さぁっ・・・
雨が一粒降った。
靴の上にちょうど降った。買ったばかりの黒いローファーが、それを証明している。
両手で証明しなくても、それだけで充分だ‥充分だと感じた。
僕が何をしたというのか。こうして聴いている貴方も僕のことを勝手に想像して、僕の望まない思考を巡らせている。僕のこの姿をこうして見て、思い巡らせ、今見ている瞬間を閉じようとしてる。
いや、閉じるだろう?
なぜなら、僕は、ここから先は、もう無いように思えるからだ・・・




