そのとき彼が私を呼んだ
彼が後ろで私の名を呼ぶ。
だが、私は決して振り返らない。
追ってきた彼の手を振り切って、私はどんどん行ってしまう。
目にいっぱい涙を溜めた引き下がれない私がそこにいた。
本当は彼に、今の私を止めてもらいたかった。
だが彼は、もう二度と私を追ってくることはなかった。
「もう終わりなんだな…。」
私は妙に落ち着いて、そんな独り言を呟く。
周りの人たちは私を避けてすれ違って行く…。
きっと私が、よっぽど凄い顔をしていたに違いない。
顔をくしゃくしゃにして…。
自分で決めたことなのに、なぜこんなにも涙がぼろぼろと溢れるんだろう?
でも今は、そんなことを考えたくもなかった。
その理由を考えるのが面倒くさかったのだ。
私は深く考えることがキライだ。
私の悪いところなのだが、そもそもそんな自分が嫌で、とにかく逃げ出したかったのかも知れない…。