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借金取りから逃れる唯一の方法は異世界へ行くこと

「一つ。あなたの治療を行えるだけの可能性を持った人のそばに送り込むこと」

「今現在でその能力がある人って条件だと、一流や高額な人ばかりでしょうから。可能性、に留めて考えるべきですよね」


 青年を復活させるための借金(可能性)の支払には、強力な癒しの力を必要とする。

 当然であるが、一流の癒し手となれば、引く手数多で職にも立場にもお金にも困ることはない。

 そんな人に継続して治療をしてもらうなど、どれだけの財力や幸運が必要となるのか?

 なので女神と相談した結果、すでに条件を満たしている人ではなく、今後条件を満たせる人と引き合わせてもらうようお願いした。

 これも一つの可能性の力の応用なので、そういう事ならあまり制約を受けずに女神が手を貸せるらしい。



「一つ。あなたが能力を使うためのサポートをつける。能力の使用や条件を判断する上で色々役に立つはずよ」

「可能性の妖精、みたいな存在であると」


 自分の得る可能性を予め扱う。後から、行使した可能性を支払う。

 説明が難しく、また借り受けるものと返済の状況や条件によって、影響範囲は千差万別となる。

 それらを判断し『可能性行使証』を用意して可能性を振るう契約を結ぶ。

 そんな流れをサポートする存在が、他者から見えぬ形で、青年の傍らについてくることとなった。


 端的に言えば、借金額と返済期限、利率や返済方法を決定するジャッジマンである。妖精だけど。

 借りるものが金銭のみであれば話は単純だが、今回の『回復』や、今後食事等を借りる場合を考えると、条件を確認する存在は不可欠。


 ちなみに妖精のサポート範囲や見え方は、青年が可能性の力を伸ばすことで変化する可能性もありえる。

 ありえるのだが、それを聞いた青年は、ふーんという顔をしているだけであった。どうやら全く興味を引かれなかったらしい。

 この辺り、女神がアンケートを取った百人の大多数とは根本的に何かがずれていると言える。



「一つ。あなたが能力を使う上で、一回だけ、返済の条件や上限を自由に変えられる権利を与える」

「自由に条件を決められるのが金の行使証。ぼくの命を救った証書が無期限の銀色で、普段が普通の白い紙なんですよね」


 青年が一度に契約を結べる行使証の枚数は、今のところ2枚まで。

 そのうち1枚が自分の命を救うために使用されているため、自分で使用できる枚数は1枚だけだ。

 1枚使ったら、行使した可能性を支払うまで、次の能力は使えない。

 借りた借金を返済するまで、次の借用書は使えない。そう捉えていただけば、理解しやすいだろう。


 能力は、大量に返済をすることで成長する。そして能力の成長により、使用可能枚数も増加する。

 最初から1枚しかない行使証を金にしてしまうと、ささいな可能性に対しても金の証書を利用するしかなくなる。

 そのため、一回だけ金色を使える、という権利が与えられたのだ。

 この辺も、サポート妖精がいるからこそ可能な芸当であるらしい。



「最後に、確約はできないけれど。

 あなたの妹さんが幸せになれるように、できる範囲で努力するわ」


 目の前に座った女神の言葉に、青年は静かに頷いた。



 生き返らずに成仏すると宣言した青年が、なぜ条件次第で考えなくもないと言ったのか?


 女神の約束や契約、『次』の人員、あるいはやり直しとか発狂とかいう不穏な単語の数々。

 記憶にはない、もしかしたらあったかもしれない『一回目』と、あるかもしれない『三回目』への不安や危険性。

 そんな負の理由とは真逆な、生きてきて楽しかった思い出。もしも借金がなかったらという微かな何か(・・)


 そんな風に細かい理由は多々あれど、成仏を諦めた一番大きな理由は妹の健康や幸せであった。

 女神自身は、地球の神ではないため地球で力を振るうのは難しい。

 だが、お願いなり交渉なり、地球で力を振るえる存在に対し働きかけることはできる。

 だから、できる範囲で努力する、という条件が今の女神にとっての精一杯であるそうだ。

 神々にとってのできる範囲というやつがどの程度なのかは分からないが、悪いことにはならないと判断してのことであった。



「代わりにぼくは、可能性の力を受け取って、借金取りから逃れて異世界で生きる」

「ええ。特に目的や依頼はないけど……能力を駆使して、長生きして欲しいところね?」

「わかりました。

 長生きできるように、できる範囲で努力しますよ」

「ふふ、約束よ」


 できる範囲で。お互いの約束を交わし、最後にどちらからともなく握手。


「あなたが能力を育ててくれれば、また言葉を交わす機会もきっとあるわ」

「わかりました。それでは、またそのうちお会いしましょう。

―――妹のこと、よろしくお願いしますよ」

「任されたわ」


 一歩、離れて。微かに笑顔で、頷く。


「では。行ってきます」

「ええ、行ってらっしゃい。またね」


 そのまま白い平原の上で、靄に溶けるように景色が揺らいでいき。

 青年は、異世界へ―――



「―――あっ」



 女神の漏らした声の向き先を問う事もなく、異世界へ旅立つこととなった。




「そういえば、異世界の事とか言葉の事とか情報与えるの忘れてた!」


 常識、文化、魔術の使い方、魔物、その他諸々。

 何一つ、異世界についての情報を与えていない。カットしたまんま、与え忘れたから。


「今からどうにか、せめて言語だけは与えないと。言語言語、えいっ」


 白い平原に立つ女神の手から、乱雑に虚空へと小さな光の粒が放たれる。

 その光が姿を消した青年を追うように消えるのを見届け、女神は小さく息をついた。


「なんとかこれで、一仕事終了ね。言葉さえ通じれば、あとは追々現地で教えればいいわよね。

 一時はどうなることかと思ったけど、無事に済んで良かったわー」


 安心したように呟くと、女神は椅子に腰かける。

 目の前のテーブルには、一瞬で各種酒瓶やジョッキとつまみが所狭しと並んだ。


「いやー、これでようやく私も飲めるわ!

 絶対、二度と禁酒の約束なんかしないんだからね!」


 くぅー、この一杯の為に生きている!と呟きながら、口元を泡まみれにして微笑む女神。

 それでも美人は絵になるのが理不尽だったが、幸いにも、今の女神の姿を見る人間は居ない。


「これで後は、あの子が借金しまくって、返済もちゃんとして、能力を育ててくれれば万々歳ね。

 そうすれば私も含めて、4人ともWin-Win-Win-Winだわ!」


 言葉にあわせて酒瓶をういんういん振り回し、口をつけてラッパ飲み。


「ぷはーっ!

 そうよ、うぃんうぃんうぃんうぃんなのよ! あははははー!」


 白い平原で、女神の酒宴は続く。


 時にひん剥かれ、時に八つ当たりされ、いつも無茶ぶりされる部下達が仕事をしている中で。


 久しぶりのアルコールに、たった一人でひたすら上機嫌に。



 いつまでも、いつまでも酒宴は続くのだった―――


                       ~ Fin ~







 嘘です。

 ここからが物語の始まりです。


 オークションも女神も予定外に予想通りに長引いてしまいました。

 次回は異世界到着後、再びオークション会場から再開でございます。


 本日は23時にもう1回、明日も一日3回更新。

 よろしければ、是非今後もまったりとお楽しみ下さいませ。





【★ ネタバレ次回予告 ★】



 鋼が……



(タメ)



 借金をします!


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