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鋼の借金術師 ~借金取りから逃れるための、異世界転生家族計画~  作者: 岸野 遙
第三条 世界最強の魔術師になる方法

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崩落水没から生き延びる方法

 押し殺して泣くエリアだが、悠長に感傷に浸る暇はない。

 鋼は心の中でセイミと、声に出してエリアと状況を話し合い、できることを探っていく。



 まずエリアの魔術だが、二重の意味で使用は不可能であった。


 一点は、残り魔力の問題。

 とてもではないが、三発目を放つだけの魔力は残っていなかった。

 そもそも、立て続けに二度の魔術を放ったことさえ初めてらしい。


 二点目は、詠唱時間。

 時間がないため詳しい説明は省かれたが、エリアの扱う魔術は詠唱時間を『1時間未満(ゼロ)』『1時間以上』『12時間以上』の三択しかできないらしい。

 1時間未満の詠唱では、無詠唱並の威力しか発揮されない。

 その威力では、瓦礫を一つ動かすことさえできず、現状では役に立たないとされた。


 となると頼れるのは鋼の能力だけとなるわけだが。

 鋼が扱えるのは、基本的に『鋼の発する行為の前借り』と『鋼の受ける結果の前借り』となる。

 鋼自身にこの状況を打破し、無事に脱出する力はない。



 それでも、何か手立てがあるはずだ。

 徐々に高さを増す水面というリミットが口元まで迫る中、必死に生きる道を模索する。



『へ?

 いや、流石にそれは……うーん』


『あり、なのかしら……?

 ルールだけ見れば、確かに無しとは言えないんだけど……』


『ハガネの所有物や運命共同体であれば、ハガネが行ったと言えなくもないんだわ。

 だけどそれは、さすがにちょっと無理な気もするんだけど』


『なるほど、それだったら、ユニカと同じだし、いいような気も……うーん、でもねぇ』


『え、ええ?

 全部うまくいってレベル上がったら、すり抜けおっけーなの!?


 もうっ、ハガネったらあたしが居ないと何にもできないんだからー!

 仕方ないわね、特別にこのセイミ様が許可してあげちゃうわ!』



 必死に模索した生きる道、その中程にあった『妖精の説得』という関門を抜け。

 わずかに唇に触れる水を一舐めし、次なる関門を抜けるために鋼は口を開いた。


「エリアくん。

 生き延びるために、ぼくと契約をして下さいよ」

「契約内容を言いたまえ」

「ぼくの奴隷になって下さい」

「……は、はああ!?」


 鋼の肩にしがみついたまま、驚きとともに大声をあげるエリア。

 だが鋼は真顔であり、至って真面目だ。


「そうすれば、ユニカ―――ぼくの妹と同じように、ぼくの能力のおよぶ範囲にエリアくんが含まれます」

「だっ、な、馬鹿にしてるのかねっ!

 ボクは、ラプトゥル族が蔑まれ不当に奴隷にされる(・・・・・・・・・)現状を打ち破るために魔術師となったのだぞ!

 そんな要求、いかにキミが恩人と言えども飲めぬのだぞ!」


 エリアが魔術師となった理由。世界最強の魔術師を志す理由。

 図らずもそれを知ることになった鋼は、その芯の在り方に頷いた。


「奴隷と言っても不当な扱いはしません、なんならユニカと同じように家族となっても構いません。

 エリアくんが魔術師を目指す邪魔もしないし協力しま、っ、んく、しますよ」


 揺れる水面が、鋼の言葉を一瞬遮る。

 口に入った水を噴き、あるいは飲みつつ。あえぐように上を向き、鋼が続ける。


「柏の掟 第九条『望みと誇りを共に有するべし』」


 水面から顔を出すため、必死に上を向いて首を伸ばす鋼。

 その動きに引っ張られ、腹部からまた血が水中に広がっていくがエリアは気づかない。


「なに?」

「母の教えです。

―――種族としての誇りを持ち、志を持って魔術師を極めんとするエリアくんが、すごいと思いました。

 その決意と志が本当に素晴らしいと思ったから、眩しいと思ったから、ぼくは取り込み中のきみの元へ、肉を返してもらいに(・・・・・・・・・)きました」

「……」


 鋼は、助けに来たとは言わない。

 だが、その言葉の意味は。鋼がエリアの言葉に、その志の気高さに感じた賞賛は伝わった。


 エリアの夢を聞いて、誰もが馬鹿にし、笑った。

 あるいは、所詮は頭の悪いラプトゥル族だと、子供の見る夢だと蔑んだ。


 そんな、誰も取り合わなかったエリアの夢を、鋼はすごいと言う。素晴らしい、眩しいと言う。

 少し会話しただけの自分を、命を賭けて助けに来るほどに。


 先程とは別の意味で、涙がこぼれた。

 声は、嗚咽は不思議と出なかったが。ただただ、涙が流れて止まらなかった。

 それを気づかれぬように、鋼からくしゃくしゃに泣き崩れた顔を背けた。


「奴隷契約、というから聞こえが悪かったですね。すみません。

 生き延びて、エリアくんが世界最強を目指す。その運命を共にするため、契約を結んで下さい」


 重ねて願う鋼。

 懸命に首を伸ばし上を向く鋼だったが、間もなくその顔も水に覆われるだろう。

 そうなれば、身動きの取れない鋼は―――


「―――契約をすれば、ここから脱出して生き延びられる、のだな?」

「わかりません。

 ひょっとしたら、完全に天井が崩れ落ちて、死ぬかもしれません。

―――むしろエリアくん一人であれば、ぼくの頭を踏み越え、瓦礫を越えて、今のまま脱出した方が生き延びられるかもしれません」


 鋼の身体は瓦礫に埋もれて貫かれ押し潰され、動かせるのはエリアを抱えていた左腕一本と首から上くらいだ。

 だが、エリアは違う。

 鋼に守られ抱えられていたからこそ、致命的な傷もないし動けないほどの状況にもない。

 鋼を見捨てて一人で逃げれば、生き延びられる可能性はあるのだ。


「馬鹿にするな!

 ボクは誇り高きラプトゥル王族の末裔、エリア【ウット】ハーサデンだ。

 助ける手立ても試さずに恩人を見捨てて逃げるぐらいならば、自ら舌を噛む!」


 大声で、自らの決意を、名を名乗り。


「いいだろう、キミの言葉を信じ、奴隷でも家族でもなってやるのだぞ。

 さあ契約したまえ、そして見事この窮地を脱してみたまえ!」


 エリアの夢を聞いて、誰もが馬鹿にし、笑った。

 あるいは、所詮は頭の悪いラプトゥル族だと、子供の見る夢だと蔑んだ。


 そんな、誰も取り合わなかったエリアの夢を、鋼はすごいと言う。素晴らしい、眩しいと言う。

 少し会話しただけの自分を、命を賭けて助けに来るほどに。


 先程とは別の意味で、涙がこぼれた。

 声は、嗚咽は不思議と出なかったが。ただただ、涙が流れて止まらなかった。

 それを気づかれぬように、鋼からくしゃくしゃに泣き崩れた顔を背けた。




『うわぁ、そんな顔でこっち向かれるとか、すっごい気まずいわ気まずいわ』


 エリアが顔を向けたすぐ目の前にセイミが居て、エリアに聞こえない声で(そして鋼には聞こえる声で)ぼやいていた。




「あのラプトゥル族、ハガネさみゃに抱き着いて泣(にゃ)いてるとかずる……許せみゃせんわ!」

「それもですがぁ、早く、早く契約して下さいぃ!」


 ギルニャオ宅にあるテレビもまた、エリアの顔を映しており。

 誰にも見られていないはずのエリアの泣き顔は、実は結構色んな人に見られていた。





 後日。

 それを知って、エリアは恥ずか死んだ。


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