出会ったものに対する方法
R15注意!(念のため)
ふんわりとした薄茶色の体毛に、丸い尻尾。
意外に太く力強い後ろ足と、爪の生えた前足。
愛らしいつぶらな瞳と黒い鼻。
うさぎである。
うさぎであるが、二つほど鋼の知るうさぎとは異なる点があった。
「大きいですね」
「通称、タテガミウサギですねぇ」
まずそのサイズが1メートルくらいあった。2匹積んだら鋼より大きい。
さらに、頭頂部から背中にかけて、なぜか真っ赤なたてがみが生えている。
「モヒカンウサギですか?」
「いいえ、タテガミウサギですぅ」
なるほど、タテガミウサギらしい。
鋼の知識からすれば、どうみても真っ赤なモヒカンに見えるのだが。鋼が初めてノしたしゃっ……追っ手があんな頭髪をしていたのだが。
それでも、タテガミウサギらしい。
「雑食でそれほど攻撃的ではないらしいですがぁ、お肉がおいし―――」
「肉!」
ユニカの説明は、最後までいらなかった。
肉。
肉である。
今では毎日(主にユニカが)仕事をしているし、ギルニャオの好意とミルニャのごり押しにより領主の館で三食付きの生活だ。
それでも、狩ってよい、食ってよい肉が目の前にある。
肉が、目の前にあるのだ!
―――どんっ、と音がした。
その音がなんなのか、ユニカには分からなかったけれど。
「ふふふ、うふふふふ。
ああお肉、何年ぶりのお肉でしょうか。今日は人生最良の一日ですよ……!」
気づけば頭の無いうさぎの後ろ足を掴み、高々と掲げて流れ落ちる血を見ながら鋼が怪しい笑みを浮かべていた。
もう片手には、おそらくそれでうさぎの首を刎ねたのだろう、こちらも真っ赤な血を滴らせている長剣が握られている。
傍らの地面には、まだつぶらな瞳で綺麗な毛並みのうさぎの生首が、きょとんとした風にこちらを見ている。何が起きたのか、自分が死んだことも分からぬ風で。
動いたことも、剣を抜いたことも、うさぎを掴んで掲げたことも気づかなかった。
恐るべし、肉パワー。否、肉を求める貧乏人パワー。
そんな鋼の凶行に怯えを滲ませつつ、それでもユニカは斜め後ろから鋼を揺さぶる。
必死な顔で、必死な様子で、恐怖や不安を堪えて必死に訴える。
「お、お兄様ぁ、お兄様正気に戻って、戻ってぇ!」
「ユニ、今夜は伝説の晩餐、ステーキですよ!」
揺り動かすに任せ、手にしたうさぎがぶらぶらと揺れて血がだばだばと飛び散る。
鋼の狂ったような笑顔に、セイミさえ伝説の晩餐への突っ込みもせず引いていた。
それでも、ユニカは負けない。
この程度で負けてられない、大好きなお兄様とずっと一緒に居るんだから。
浮かびそうになる涙をこらえて、ユニカは地面に置かれていた弁当箱を手にした。
「お肉ならお弁当にも入ってましたからぁ、ほらぁ!」
「むぐっ!?
もぐ、むぐ……はっ、ぼくは一体何を」
ユニカの必死の訴えが効いたのか、あるいは口に押し込まれた弁当の残りの焼肉の力か。
すぐに鋼は我を取り戻し、手にしたタテガミウサギを見つめた。
……焼肉の力だろうな。
そう思うと堪えた涙が零れ落ちてしまうユニカだったが、それには気づかず鋼が明るい笑顔を浮かべた。
「これはとても大きなうさぎですね。食べきれるか心配で、今からうきうきしてしまいますよ!」
不憫である。
本当に、不憫な娘さんである。
何も出来なかったセイミは、鋼ではなくユニカの肩に乗ると慰めるようにその頭を撫でた。
「どうやったのか知りませんが綺麗に頭が落ちてるようですし、このまま血抜きをするとしますよ」
持っていたロープでてきぱきとうさぎの足を縛り、木に吊るす。
涙を拭って、鋼がいつもの様子に戻ったことで無理やり自分を満足させ、ユニカも鋼の作業を手伝うことにした。
鋼には、生き物を殺す忌避感とか、血に対する躊躇いといったものがまるでない。
だがそれは、一般的な現代日本人に問うべきものであり、鋼に問うべきものではなかった。
死さえ覚悟した飢餓を知るものにとって、食用の肉に感謝こそすれど恐怖や嫌悪などあるはずがないのだ。
血抜きと解体を手伝うユニカもまた村育ち、野生の動物や魔物を肉として扱うことには何の抵抗もない。
ただ、鋼のトリップした様子だけは二度と見たくないものだった。
言いようのない不安や恐怖、自分の無力さ。きっとまた、泣いてしまうだろうから。
……鋼が肉を得ることに慣れるのが先か、ユニカが鋼の奇行に慣れるのが先か。
どちらとも言えないわね、と。いち早く復帰したセイミは一人こっそりとため息をつくのであった。
血抜きと解体を済ませ、肉と爪とたてがみを戦利品とし。
さらに薬草も十分な数が集まって、さてそろそろ帰りますかという頃に二匹目の魔物と遭遇した。
タテガミウサギ 2号である。
「ユニ、食肉ウサギさんがもう一度来て下さったようですよ!」
『タテガミウサギだわ、タテガミウサギだわ』
ギルニャオに対する以上の敬語で、嬉しそうな声を出す鋼。
鋼にとってのタテガミウサギは、もはや肉塊でしかない。
セイミの突っ込みの声も、すでに諦めモードだ。
心なしか怯えた様にも見えるタテガミウサギに対し、荷物を下ろし満面の笑みでにじり寄る鋼。
もはやタテガミウサギの命は風前の灯火であったが―――
「フハ、待ちたまえ!」
街から程近い森の中。
わざとらしい程に夕焼けを背負い、高々と告げる声。
ピンチを救うべく、今度は二足歩行の人影が現れたのだった。
うさぎさんは食肉!
ごく軽めのグロ注意でした。
ピンク色のR15を期待された方はごめんなさい。予定通りです。




