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嘘なく誤解させる方法

『まるっきり、詐欺師だわ』

「? 何がですか?」

「ご主人様、どうかなさいましたかぁ?」


 突然の妖精の言葉に鋼が問い、妖精の声の聞こえないユニカがさらに問いかける。

 そんな連鎖反応を見つつ、呆れたように妖精が言葉を続けた。


『あんたの演説のことだわ。

 自分の返済証明金が一番高額だとしか聞こえない言い方したじゃないの』

「柏の掟 第四条『誤解はさせても嘘はつかぬべし』

 ぼくが口にしたことは、しゃっ……金額も、条例の内容も、全部事実ですよ」


 妖精の言葉をユニカに通訳しつつ、平然と答える鋼。

 ユニカは、いまいち分からない顔をしていた。


 誤解はさせても、嘘はつかない。

 借金額は、金貨2110枚。契約したのは一昨日。条例前の契約者の期日は明日。

 金貨211枚以上の返済証明金を支払う人は、名乗り出て欲しい。


「……確かに、ご主人様が返済証明金を支払うとは、一言も言ってませんでしたねぇ」

「はい。嘘はついてませんよ」

『そういうの、詐欺師って言うんだわ』


 鋼の頭に肘を掛け、妖精は少しだけ笑顔でため息をついた。

 まあ、鋼が自らの借金を認めたのだ。妖精の目的からすれば、十分良い兆候と言えるだろう。



 鋼の言葉を聞いた人々は、一人、また一人と領主の館前を立ち去っていった。

 明確な返事はなかったが、鋼の訴えは聞き届けられたとみていいだろう。

 最後まで残っていた人間達も、衛兵より少ない人数で行動を起こすことが難しいのは分かっている。

 忌々しげに鋼を睨むと、無言で去っていった。


 群衆が居なくなった後は、門内の衛兵に会釈だけして、鋼もまたユニカと共に館を離れる。

 その道すがら、呆れたように妖精が呟いたのだった。


『で、これからどうすんのよ?』

「それでご主人様ぁ、これからどうなさいますか?」

「少し話し合いもしたいし、ちょっと座りたいですよ。

 休める場所へ行きましょうか」


 そんな鋼の言葉に連れていかれた先は、昨日と同じ川原。

 ユニカと妖精が、二人して困ったような呆れたような顔をしたのは当然であった。




 その後。鋼の考えを元に、三人で綿密な打ち合わせを行う。

 何ができるか。どうすれば確実か。結果としてどうなるか。


 この後の行動を決めた後は、三人で再びギルドへ。

 必要な情報を得て、お次は店へ。

 さらに、ギルドで受けた薬草採取ついでに森へと向かう。

 幸いこの日も魔物が出ることはなく、森での目的も果たして街へ戻った。

 そうして、再びギルド、店と回り―――


 全ての準備を終え、三人がギルニャオの館の前に戻ったのは。

 真っ赤な太陽が地平に差し掛かる、夜まで間もない時間帯であった。




「こんばんは。

 ギルニャオ様にお目通り願いたく、お取次ぎいただけないでしょうか?」

「まずは貴公の、名と要件をお教えいただきたい」


 昼に門内で鋼と対峙した衛兵が、門の外に立って鋼に問い返す。

 昼間の衛兵だと気付いたのかどうか、鋼は笑顔で答えた。


「柏 鋼。駆け出しのワーカーですよ。

 要件は、ミルニャ様の病の治療について」

「やはり知っておったのか。

 治療についてというが、治せるのか?」

「絶対とは言えませんが、可能性はあります」


 夕日の中で頷く鋼の顔は自信と力に満ち溢れ、初めて会った昼間とはまるで別人のようだった。

 たった半日でこれほど変わるものなのかと驚きつつも、衛兵は頷く。


「それでは柏殿。

 確認してくるので、しばしこちらでお待ちいただきたい」

「分かりましたよ。

 あまり時間がございませんので、急ぎでお願いします」

「心得ました」


 鋼に一礼すると、門を開け全力で館へ駆けていく衛兵。

 もう一人の衛兵と共に無言で待つこと数分。行きと同じく走って戻ってきた衛兵は、荒い息を隠さずに告げた。


「お会いできぬようです。お引き取り下さい」

「……え?

 いえ、えっと。ミルニャさんの治療、なんですよ……?」


 予想外の衛兵の言葉に困惑する鋼。頭の上では妖精も身を乗り出して衛兵を睨んでいる。


「ギルニャオ様は、ミルニャ様の部屋に居られます。

 部屋の近くで執事のナナンダ様にお伺いした所、ギルニャオ様は『誰も通すな』と命令されたようです。

 そのため、ナナンダ様から取次はできないと言われました」


 包み隠さず教えてくれる衛兵に、鋼は愕然とした。


「執事さん、ニャニャンダさんじゃなくてナナンダさんだったんですか……」

『それは今どうでもいいことだわ!』


 妖精からべしりと叩かれ、咳払い一つ。


「では、ナナンダさんへの取次でしたらいかがでしょうか?」

「部屋の前を離れられないご様子でしたので、難しいかと。

 ですが、そうですね……」


 鋼のノリには付き合わず、衛兵は真面目な顔を崩さない。

 少し考えた後、小さく頷くと。


「ナナンダ様に伺ってみるとしましょう。

 お二方を館までは案内致します、ついてきて下さい」


 先ほどは門前で待たされたが、今度はついてくるように言う衛兵。

 無言の衛兵に番を任せ、衛兵と鋼+妖精、ユニカの三~四人で館への道を進む。

 館へつくと、メイドに頭を下げられつつ応接室へ案内された。


「ナナンダ様にお伺いしたら戻りますので、申し訳ございませんがその間は応接室でお待ち願います。

 お返事を内容によってはすぐにお引き取りいただく可能性がありますが、ご容赦下さい」

「はい」

「私が席を外している間、応接室にも廊下にも誰も居ませんが。

 その間に部屋を抜け出して、ナナンダ様の居る廊下へ勝手に出歩いたりしないで下さいね?」

「了解しましたよ」

「……あー、そういえば応接室からミルニャ様の部屋まで、どういくんだったっけなぁ。

 玄関前の階段を上がると早いけれど、衛兵が立っているから外番の私が通ると声を掛けられるかもなぁ。

 遠回りだが応接室を出て、東側の階段を使った方がいいかもなぁ」


 明後日の方を向いて、そんなことを呟きながら衛兵は鋼達を残し応接室を出て行った。



『大根役者だわ』

「それでも、感謝いたしましょう。

 ぼくだって、もう引けないところまで来ているのですからね」

『そうね、突き進むしかないわね。行きましょ行きましょ!』

「はい、参りますよ」

「え? ご主人様、勝手に出歩いたら駄目ですよぉ」


 衛兵の言葉の意味を、約一名分かっていなかったが。

 そんなの些細なこととばかりに、鋼と妖精は立ち上がると応接室を出て廊下に足を踏み出した。


「え、ええ? ご主人様ぁ、ちょっとどこへ行くんですかぁ」


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