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新条例を知る方法

 人通りの多い場所の一つとして、ギルドにもまた返済証明令についての看板が立てられていた。

 入口横の看板の内容を知った者達が詰めかけるのに対し、ギルド側は一切関わりがないことを必死で説明するギルド員達。

 説明を聞いて役所に向かうもの、なおギルドに文句を言うもの、あるいは状況に絶望し立ち尽くすものなど反応は様々で。

 ギルドと直接関係のない事柄によって、ギルドは通常運営も難しいほど騒がしい状況となっていた。


「期日までの支払いさえ絶望的でするに、その上明日までに返済証明金とか無理でする」

「払えぬでゴブ。奴ら、おれっちらに死ねって言うんだゴブ」


 卓についた二人のワーカー、灰髪のオーガと弓士のゴブリンが水も飲まずに項垂れていた。

 そこに、杖を背負ったマーマンの女性も合流して口を開く。


「昨日必死で稼いだ分もあって、私は証明金とやらは払えそうだけど。

 でも借金返済と別に一割だとか、ふざけているわよね」

「領主の発行した条例に、証明金も行政の丸儲けでするか」

「ゆるせんゴブ」


 返済証明令は、ダズレニア領主 ギルニャオ【ニァード】ダズレニアの名前で発行されている。

 急な条例の施行に少なくない支払の要求、支払った額は借用額の一部とされずに行政の懐に入る。

 彼らに限らず、人々の怒りが行政と領主を向くのは自然な流れであった。


 そんな彼らに、ワーカーらしき中年の男が声を掛ける。

 自分も借金があるんだ、今回の条例はあまりにも許せない。

 このままでは奴隷だ、立ち上がるしかないと。


 ギルドの中で絶望していたもの、憤っていたもの達。

 そんな彼らに声を掛け、後がないもの達は川原へと誘導されていた。




「……大変なことになっちゃってますね、ご主人様ぁ?」

「ええ、これは大変なことですよ」


 そんなギルドの片隅で。

 昨日ワーカーに登録したばかりの新人2人組、白髪の美少女のユニカと、白服・・の一般人に見える鋼は人々の流れを眺めている。


 焦った顔や嫌そうな顔で入口から入ったワーカーが、ギルド内の状況を見る。

 借金がないのか、依頼を探そうとするものはそのまま掲示板へ向かうが、受付には返済証明令を問いただす人々で長蛇の列。

 借金があるのかうわさ好きか、急いで仕事を求めていないものはあちこちで塊となって返済証明令について口々に話す。

 やがて、その中でも目に見えて落ち込んでいたり怒っているものが、何人かのワーカーに何事か話されてギルドを出ていく。

 そんな、淀んだ人の流れが出来ていた。


「領主様って、昨日の方ですよねぇ?」

「そうですよ。

 もしかしたら、間接的にぼくに報復しようとしたのかもしれませんよ」

「そうなんですか?」

「はい。

 普通に考えれば、オークションのためにしゃっ……しゃっき……無理をしているはずですからね」

『あたしのおかげで影響はないのに、あんたも相変わらずだわね』


 額の冷や汗を拭う鋼に、少し心配そうな顔を向けるユニカ。鋼の肩の妖精も、口調こそ呆れ気味だがその表情は心配そうだ。


 困ってる人を助けて生き方を探す。そう決めた鋼だが、借金は怖い。

 借金は、とても怖い、が。それでも、目を背けたくはなかった。


「ええ、ぼくの『可能性』には無関係ですけれど。あまり見て居たい光景ではないですよ」

「そうですねぇ。みなさん、辛そうですぅ」


 ここに姿を現したワーカーの中で、いったい何割程度が借金をしているのか。二人は知らない。

 だが、思った以上に暗い顔をした人間―――亜人が多いことを見れば、想像以上に借金をしている人間は多いのだろう。


「私みたいに、無理やり借金させられた人も多いんだろうなぁ……」


 暗い表情の人々を見て、思わずといった風にユニカが呟いた。


 無理やり借金を負わされて。

 明日までに返済証明金を払えなければ、借金奴隷に落とされる。

 例え返済証明金を払えても、その後の借金が払えなければやはり結果は同じだ。

 自分の状況を思い出し、ユニカはその美しい瞳を曇らせた。


「―――大丈夫ですよ」

「え?

 ふあっ、ひゃわぁぁ」


 そんな落ち込むユニカの頭に手を乗せ、指で軽く角を撫でる。

 突然の刺激に声が漏れ、背筋を伸ばして真っ赤になってしまうユニカ。その様子に気づかず鋼は続ける。


「こんな人々も、落ち込むユニカさんも、あまり見ていたくないですよ。

 ですから、お願いをしに行くとしますよ」

「お願い、ですかぁ?」

「ええ。移動しましょう、集まっているみなさんのところへ」




 ギルドを出た人々の後を歩けば、やがて領主の館前に辿り着いた。

 そこには大勢―――大半が亜人の人々が集まっており、館に向かって声を張り上げている。


「理不尽な支払要求など、我々は認めないぞー!」

「払わなければ奴隷だなどと許さないぞー!」


 館の大きな門の前には大勢の衛兵が並び、民衆と押し合っていた。


「不当な支払など聞かないぞー!」

「貴様らになんかびた一文支払わんぞー!」


 たとえ低ランクのワーカーや一般人と言えど、押し寄せる群衆の人数は少なくない。

 たまらず衛兵が武器を抜くも、人々からの怒鳴り声は止まない。


「あんな条例、撤廃しろー!」

「強欲な金貸しを根絶しろー!」

「いいや、強欲な領主こそ不要だー!」


「貴様ら、いい加減にしろ!

 これ以上この場に留まるならば、犯罪行為として鎮圧するぞ!」


 エスカレートする過激な叫びに、衛兵が武力行使を叫ぶが


「ふざけるな強欲領主の犬め! 何が犯罪行為だ!」

「おれ達貧乏人からこれ以上絞ろうったってそうはいかねぇ、殺されるくらいならここで死んでやる!


 最初叫んでいた人間のみならず、声の大きい何人かが反発し、手に持った棒や武器を見せる。

 群衆の一部は逃げ腰だったが、それでも人数差は大きい。気が大きくなったか引けなくなったか、控えめに同意の声を上げる。


 そんな様子を、群衆の前後―――館の中と群衆の後方、それぞれから眺める者達が居た。


◎ 新条例を知る方法はあとがきを読むこと



「ご主人様ぁ、条例の意味がよくわからないんですけどぉ」

「わかりました、説明いたしますよ。

 まず、借金をしてる人は『返済証明金』として、借金額の一割を払う必要があります。払わなかったら奴隷です」

「えっと、一割だから……

 ご主人様の場合、金貨211枚ですね!」

「ぐふっ」


 鋼 は 心 に 856 のダメージを受けた !


「ぼ、ぼくのことはいいから、説明を続けますよ。

 次に、このお金を払っても、借金の残額は減りません。払った分だけ、丸ごと損ということです」

「そうするとご主人様の場合はぁ、金貨2110枚に211枚が増えて……

 合計で金貨2321枚を返済しないといけないんですねぇ」

「ごはっ」


 鋼 は 心 に 1580 のダメージを受けた !


「そっ……そうですよ。

 この返済証明金ですが、払ったお金は全て行政―――最終的には、領主の懐に入ります」

「えぇぇ、それって領主様が、そのぅ」

「はい、これだけ見ると、随分と欲深いですよ。

 ただ忘れてはいけないのは、第四項。返済証明金を払えなかった時は、借金を返済できなかった場合と同様に、貸主の奴隷となる、という点です」

「……これって、借金をするなら、普通のことですよねぇ?」

「借金に対しては、普通ですね。

 ただ返済証明金については、既に契約済みの借金の場合、明日までに返済証明金を支払う必要があります」

「つまり?」

「仮に昨日借金をした人が居たとして、いきなり明日までに借用額の一割を払えと言われている。

 そんなお金があるとは限らないし、お金があっても街を離れていたりしてこの条例を知らなかったら、それだけでアウトですよ」

「ふえぇ……怖いですねぇ」

「ええ。恐ろしいことですよ」

「なるほどぉ。

 良かったですね、ご主人様ぁ!」

「ん、何がです?」


「ご主人様の借金には関係ないから、金貨2110枚の借金分だけ返済すればいいんですもんね!」

「ぶぐふぁぁっ」


 鋼 は 心 に 59313 のダメージを受けた !!




『流石は口だけで鋼を倒した女ね。


 ユニカ……恐ろしい子っ』


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