匣
匣をもらった。
何も入っていない、空っぽの匣。
鍵もついていない、ただの匣。
常に匣はボクと一緒に在った。
少しずつ、少しずつ、匣の中を埋めていく。
ボクにとって大切なモノで満たされていく。
時が経つにつれて、匣の扱いは乱雑になっていった。
時には叩いたり、放り投げたり、整理もしないで放置した。
中身が溢れて、ふたが閉まらなくても。
それでもボクは無理やりふたをした。
匣から溢れだしても、その匣にモノを入れ続けた。
やがてボクは匣を増やした。
色も形も大きさも同じではない匣。
鍵のある匣、ない匣。
長い時間をかけて増やし続けた。
たくさんの重たい匣を捨てることもできずに。
ふと、後ろを振り返った。
もう重たい匣たちを持ち続けることができなくなった。
持てる匣は最初から一つきりだったのに。
ボクは欲張りだから。
今思い返す。
本当に大切な匣はどこに行ったのだろう。
本当は何が大切だったのだろう。
降ろしたたくさんの匣を前に頭を抱えた。
悩んで。
迷って。
触れて。
開けて。
出して。
探して。
そして見つけた。
中身を少し整理して、詰め直す。
今までの匣がいらないわけじゃない。
大切じゃないものが入っていないわけじゃない。
ただ一つだけ選ぶのなら……。
匣を選び終えたボクはそっと、目を閉じた。