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Moon Shadow  作者: 七条雫
第一章 夢見る少女と怪盗見習い
3/11

ティファは少年を上手く引き止めたと思った。だが、少年は彼女に笑い返した。


「悪いね。僕は逃げるよ」


「え?」


ティファの手を振りほどいて少年は窓から飛び降りた。


「え!」


ティファは驚いて窓に駆け寄った。


彼はムーンシャドウではない。飛び降りたりしたら無事ではいられないと思ったのだ。


「甘いね、ティファ」


頭上から声がして、ティファは上を向いた。すると、屋根の上に少年がいたのだ。


「言っただろ?僕はムーンシャドウの弟子だって。大体僕は窓から入ってきたじゃないか」


「……そうだったわね」


彼が無事なのを見て、ティファは安堵する。しかし、すぐに表情を厳しいものへと変えた。


「ムーンシャドウに関わりがあるなら、なおのこと私を連れていってよ」


「危険だからね。そんなところに女の子を巻き込みたくないんだよ」


「連れて行ってくれるなら、あなたに名前をあげるわ」


ティファのその言葉に、少年は初めて余裕たっぷりの表情を崩した。


「名前?」


「ええ」


「そうか……確かに君以上に名付け親にふさわしい人物はいないよなぁ」


「あなたにとって、悪くないんじゃないかしら」


ティファは再び不敵に微笑んだ。少年は少し考えると、するりとティファの真横に滑り込み、耳元でささやいた。


「……明日また来るよ」


「えっ」


ティファは少し顔を赤らめる。その反応に満足したらしく、少年は楽しそうに微笑んだ。


「じゃあね。おやすみ、良い夢を!」


そう言うと少年は屋根からも飛び降り、夜の闇に消えた。


ティファはしばらく少年が消えていったところを見ていた。ふと、部屋で何かが光ったような気がして振り返った。


「あら?」


静かになった部屋には、豪華そうな指輪が落ちていた。


「彼のかしら?」


ティファはその指輪を枕元に置いて、ベッドに横たわった。


「怪盗、見習い……」


夢のようだった。ずっと、抜け出せる日を願っていた。


「ようやく巡ってきたチャンスなのよ。絶対、逃がさないわ」


そう呟くとそっと目を閉じた。





「ティファ、早く起きなさい」


日常に引き戻される声。だが、枕元には指輪があった。


夢なんかじゃなかった。彼は昨日やって来たのだ。


「おはようございます、おば様」


「学校でしょう?早く行きなさい!」


「はい」


私にとってつまらないのはこの人たち。こんなところにはいたくない。


巡ってきたチャンスが嬉しくて、なんとなく指輪も持って出かけた。


学校もティファにとってはつまらないもの。分厚い本だけを抱えて、廊下を歩く。


「あら、ティファ。そんな格好でどこへ行くのかしら?」


派手な服をまとった女の子の集団がティファに声をかけた。


「どうせまた図書館に決まってますわ」


「彼女には本しか友達がいませんもの」


そう言ってかん高い声で笑う彼女たち。だが、ティファは彼女たちに見向きもせずに通り過ぎた。


「つまらないものに興味はないわ」


ティファの言葉を聞いて動揺している彼女たちの声を背に、鼻で笑った。


ティファは学校の女子に嫌われていた。気高い雰囲気が気に入らないようだった。だが、ティファも彼女たちに興味がなかった。


「エレクトリア!」


今度は男子生徒に声をかけられ、ため息をつき、表情を険しくしながら振り返る。


「何か用かしら?」


ティファが振り返って少年を見つめると、少年はたちまち顔を赤らめた。ティファは女子から嫌われていたが、美しい容姿から男子には人気があった。


「なんだ、ラウルだったの」


「え?」


声をかけてきた人物を見て、ティファは表情を和らげた。その対応に少年は顔を赤らめ、緑色の瞳を必死にそらした。ティファは今まで関わった両親以外の人の中で、このラウルという少年には心を許していた。


気取ってなく、嫌味ったらしくもなく、純粋な少年。彼の黒い髪もティファは気に入っていた。ラウルの好意に気付いてはいたが、彼とは友達になれると思っていた。


「あ、ええっと……」


「何かしら?」


「そうだ!十年振りに怪盗が現れたんだって!」


「え?」


「ええっと確か盗まれたのは……指輪、だったかな?」


その言葉にティファはビクリ、と体を震わせた。


「どうしたの?」


「なんでもないわ。良い情報をありがとう」


そう言ってティファはまた歩き始めた。ラウルは何か悪いことを言ったのか?と首をかしげた。


「指輪……」


持ち歩いている指輪を思い、背筋を凍らせた。

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