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Moon Shadow  作者: 七条雫
第一章 夢見る少女と怪盗見習い
2/11

今日も少女はあの日を夢に見る。


「はぁ……」


ティファはため息をつきながら時計塔を見つめた。十年前から変わらないのは、この習慣だけ。


エレクトリア家。この国で一番有名な、大きな家系。十年前までは、あの火事の日までは、それがティファの家だった。


火事で全てを失い、親戚に引き取られてからはあまり良い生活をしていなかった。


「ティファ、いつまで起きてるんですか。早く寝なさい」


「はい」


ベッドと机だけがある屋根裏部屋。ティファはいつもそこにいた。


しかし、ティファはこの部屋を気に入っていた。


「やっぱり、ここから見るのが一番あの時に近いわ」


窓を開け、時計塔を眺める。この部屋から見るのが、十年前にあの大怪盗を見た時に一番近い風景なのだ。


「どうして、やめてしまったのかしら」


世界を揺らがした大怪盗。ティファが名付けたムーンシャドウ。しかし彼は五年前から突然世界から消えたのだ。


「ティファ!早く寝なさいと言ったでしょう!?」


「はい、すみません」


叔母が去ると、ティファは鼻で笑った。


「つまらない人ね」


ティファにとって、現実の世界はつまらないものにしか映らない。だからティファは、本を読むのが好きだった。


こんな日常を変えたいと、あの日からずっと望んでいた。


もう寝ようと思い、窓に手をかけた。その時だった。


「え?」


声が聞こえたような気がして、手を止める。そして、声のほうを見た。発信源は、時計塔。


時計塔から影が飛び出して宙を舞った。ティファは思わず窓から身を乗り出した。


「ちょっと君、下がって!」


「えっ」


慌てて窓から離れる。影、もとい人は窓枠に着地した。


「ねぇ、中に入ってもいい?」


「え、ええ」


「ありがと」


中に入ってきたのは、自分と同じくらいの年の少年だった。


「君が、ティファ・エレクトリアかい?」


「どうして、知ってるの?」


「師匠から聞いてるのさ。火事のあとの君の行方も、師匠が調べてたんだ。だから僕はここに飛んできたんだ。君なら、時計塔を見てると思ってね」


突然の来訪者にティファは混乱していた。


「あなた、誰なの?」


ティファの問いかけに、少年は微笑む。


「名前はないんだ。全部忘れちゃったからね」


「そう、なの」


「君は賢そうだから、僕の正体に察しはついてると思うんだけどね」


ティファは、少年をジッと見つめる。思い出すのは、怪盗に名前を与えたあの日。


金髪の、月の影という名の大怪盗。


「あなた、ムーンシャドウの何なの?」


「弟子って言ったらいいのかな」


「弟子?」


「僕は怪盗見習いさ。この町には、師匠に名を与えた女の子を見に来たんだ」


「私を?」


「うん」


ティファは動揺していた。今起きていることは、間違いなくティファが望む日常を変えるチャンスだ。


「それじゃ、僕は行くよ。お元気で」


「待って」


窓に足をかけた少年の腕をティファが掴んだ。予想外の行動に、ピーターは少女を振り返る。


「ティファ、どうしたんだい?」


「怪盗見習いと名乗った人を行かせるわけにはいかないわ。このままあなたを不審者として引き渡す」


「え!?」


少年は驚いてティファを見る。ティファの表情は真剣そのものだった。


「どうしても行きたいのなら、条件があるわ」


「な、何だい?」


「私を連れてって」


「は?」


「飲めないなら、逃がさないわよ」


ティファは不敵に微笑んだ。

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