第二話 転生、そして転性
…………起きろ………
どこからか声が聞こえる。
俺は……そうか、死んだのか、じゃあここは天国だな。
少し寝させてくれ…流石に無茶しすぎた。
……起きろ……
あの親からようやく離れたんだ、少し休みたい。
起きろ!授業中だぞ!
その言葉で跳ね起きてしまった。
周りの目線が痛い、笑ってる人も見える。
ここは教室の中か、俺は死んだ筈だ、何故こんなところに?
「ほんといつも寝てるのね、いい加減にしなさいよ」
隣の女子が耳打ちしてくる、
この隣は俺の記憶にはない。
いわゆる転生ってやつか?確信は無い、もしかしたら今までの記憶が消えていて、ここは俺の居た教室なのかもしれない。
そこでチャイムが鳴る。
「ほら、号令するよ、早く立って」
とりあえず考えるのは後でもいい、今は立とう。
その瞬間、心臓が大きく脈打った。
心臓が痛む、体も熱い。
「…お………どうし……………しっかり………」
声も良く聞こえない、心臓が縮むように痛む。
その内視界が真っ暗になった。
ここはどこだ?天井が白い、病院か?
左を見ると、点滴が左腕に繋がれている、病院のようだ。
とりあえずナースコールしなければ、ナースコールのボタンを探していると、押す前に看護師さんが病室に入ってきた。
「あら、起きたのね、すぐにお医者さんを呼んできます」
そう言ってすぐに戻った。
しばらくすると別の大人の女性が来た。
「あら、起きたの!よかった……」
「えっと……どなたですか?」
見覚えが全くない顔だ。
……?若干声が高いような、元々高いからどのくらい高くなってるかはわからないが、すくなくとも前の声では無い。
「私の顔を覚えてないの?貴方のお母さんよ!」
よく知らない、俺の親だった奴とは全く違う。
どうやら、俺が知らない、つまり俺の意識がこの体に入るまでの親が彼女なのだろう。
「おや、親御さんも一緒ですか、おっと君はまだ体調が万全じゃないから横になってなさい」
ベッドに横になり、医者から話を聞く。
「落ち着いて聞きなさい、君は女性に変わっている、原因はわからない……だが、必ず治してみせる、それまで君は女性として生きてくれ、すまない、それまで君は辛い思いをするかもしれない」
……え?女性?なんで?
隣にいた看護師が鏡を取り出し、顔の前に持ってきた。
……あまり変わってない…元々女顔だから実感がわかないだけかもしれないが。
そういえばさっきから股の間がおかしうと思ったわけだ。
「もう退院しても大丈夫です、お大事に」
かなり投げやりに言われた、もう考えるのはやめたらしい、こんな空間にいると健康衛生上よろしくないと思い、親が持ってきた服を着て車に乗った。
車で自分たち以外の車が無い幹線道を走る。
終始無言だったが、一つだけ気になったことがあった。
助手席から母親と思われる女性に声をかける。
「ねえ、母さんは俺をどう思ってるの?」
「俺じゃなくて私でしょう?もう女の子なんだから……当たり前でしょう?私の子供なんだから…どうしちゃったのよ急に」
「いや、変な夢見たからさ……」
「大丈夫、私はいつでもあなたの隣にいて応援してあげるわ」
その言葉を聞いて少しだけほっとした。
今までの親は俺を道具だと思っている節があった。自衛隊に入れて、自分たちが金で残りの人生を謳歌するためだ。
冗談じゃない。
一方で俺の次の親は子供を大切にしている。
……俺もこんな家庭に生まれたかった。
普通に朝起きて、家族に挨拶して、朝ごはんを賑やかに食べて、急いで学校の支度をした後、父親と兄弟と共に家を出る。
今思えばそんなの望みすぎたと感じていた時もあった。
だが、それもこの家族とならできる、そんな気がした。
その時だった。
突然横から黒色の車が衝突する、シートベルトのお陰で車から弾き飛ばされることはなかったが、車のバランスが崩れて片輪走行状態になる。
「クッ!この野郎、いきなり何よ?!」
そのまま通常に戻した。
……あの状態から元に戻すのはプロしかできない筈だが。
「健一!名前考える暇はなさそうね、しっかり捕まってなさい!」
急にエンジンをふかし、スピードを上げて振り切ろうとする。
「ダメ、どこまでも追ってくる!」
すぐに黒色の車がぶつかってくる。
体当たりして倒す気か?
車体の軽い軽自動車は2回の体当たりでいとも簡単に転がってしまった。
「ッテテテ……大丈夫健一?」
「一応大丈夫」
頭に血が上るような感覚がする、どうやら車は横転して逆さまの状態らしい。
「とにかく、車から出ないと……」
グローブボックスからハサミを取り出してシートベルトを切り離す。
車の窓は抜け落ちている。そこから出る。
出た瞬間、何者かに頭を蹴られる。
目から星が飛び出て視界が明るくなったり暗くなったりを繰り返す。
「逃げて!健一!」
車から同じように出た母親も黒服に捕まる、俺が母親の方を向き、手を伸ばす、その次の瞬間に、
黒服はスーツから黒い拳銃を取り出し、母親の頭に当て、そのまま引き金を引いた。
母親の頭から血が飛び出て、顔にかかる。
俺の目の前で親が死んだ。
それを考える暇もなく注射器を打たれ、意識を失った。
俺はそれから何処かへ連れ去られ、拘束された。
壁や天井はコンクリート剥き出しで若干きたない。
中では白衣を着た中国人系の顔をした男性がうろついている。
『新しい研究体はすごいな、強い薬剤耐性と治癒力が強い』
そして毎日のように薬を投与され、電撃、銃撃、刃物による傷害、火あぶり、水没……
この世の人を殺す【実験】を受け続けた。
その度に悲鳴を上げて抵抗するが、腕と足に付けられた拘束具は頑丈に俺を固定する。
いつしか俺から感情は消え、全ての【実験】に悲鳴を上げなくなった。
俺の体はどうやら女になってしまってから人間ではなくなった様だ。恐ろしい回復力のせいで傷は数分もすれば完全に治ってしまう。
そして私はいつの間にか男の精神から女の精神に変わっていた。