第十四話 ありふれた日常
言いたいことは痛いほどわかります、投稿間隔が遅いでしょう?
本当に申し訳ございません。orz
少女は扉に手をかけ廊下へでた。
彼女の手に持っているのは紙の束だ。
扉の上には【特殊能力試験室】と書かれている。
少女の名前はアルマ、彼女は先日の訓練に参加した後、上層部より特殊能力判別試験と呼ばれる、簡単なテストを受けることになった。
テストは簡単で、言われた通りに機械に力を入れたり脱力したり、3キロウォーキングしたりと様々だった。
その結果が今日出たので、射撃訓練とロードワークの間を利用して受け取りに来た。
「よう、アルマ、お前も取りに来たのか」
彼は三善琢磨、彼もアルマの後からこの試験室にやってきた。
「ほんと、わけわかんねぇな能力ってのは、全く自覚無いのに俺には【作り出す程度の能力】だそうだ、程度、ってなんなんだよ、お前はどうだった?」
能力は使い手次第でどんなことにも応用できるため、程度と名がつく。
「…私は重力を操る程度の能力」
重力という物は、地球上にある物全てにかかる。
それを一部かからなくすることで普通の環境でも無重力に似たような環境を作り出すことができる。
琢磨は心底驚いた表情で、
「そうか、すごいな、「それに、まだあるの」えっ?!」
アルマは被せ気味にこういった。
「妖怪、だって、私の身体」
妖怪はこの世界で力のある種族だ、人間よりもパワーはあるし、精神力もある。
「……そうか、絵美里はなんでも見通す程度の能力らしいぞ、匠は無いらしいが」
気を遣ってか、琢磨はすぐに話を変えようとした、その心遣いは今は嬉しかった。
「それよりも、だ、訓練、辛くないか?隣だと600mのランニングと300mのジョギングのインターバルトレーニングなのに、こっちは武装したままランニング1,200m3回とか殺す気かよ」
その他にも各種筋トレを50回5セット、射撃訓練、精神安定検査を一週間に二回。
戦術や連携訓練を一週間に一回。
「それは多分、私たちがブルーイーグル隊にあってるかどうかの検査なんでしょう?」
ブルーイーグル隊。
正式名称は第一独立緊急対応部隊だそうだ。独立部隊はこの隊が最初で、結成されてから3年間、ずっと表舞台へは姿を晒していなかったらしい。
彼らは前の大戦……第三次月面戦争の時、開戦から終戦まで戦い、多くの戦績を残した彼ら。
その彼らは、また、この地で戦争が起こることをどう思っているのだろう。
《総合司令部より連絡、第一大隊第一中隊第十三小隊の所属隊員は、作戦ブリーフィングをおこなうので、第三ブリーフィングルームへ集合せよ繰り返す……》
第十三小隊は存在しない部隊番号。つまり、独立部隊である私たちが呼ばれている。
「こんな日でも出撃か、精が出るねぇ」
琢磨は気づいていない様だ。
ボケっとしている琢磨を置いて先に進む。
「ん?おい、アルマどうしたんだそんなに急いで……おい、置いて行くな、教えてくれよ!」
鈍いとドンドン置いていかれるぞ、少年、私は少女だから問題無い。
第三ブリーフィングルーム。
そこは第一、第二と違い小隊以下の部隊が作戦会議を行う部屋だ。
部屋の扉を4回ノックする。ブルーイーグル隊ではノックの数も統一する。何でも他の部隊との区別をするためだそうだ。
ノックしてから少し扉を離れると、扉の上のわずかな隙間から赤いレーザーが出る。
これで身体チェックと、メーティスのIDを読み取る。
見た目と触り心地は普通の鉄の軽い扉だが、中身は大きな金庫に使われるような鉄鋼で作られており、破壊するのは容易ではない。
そのため、扉が開くのが遅いが、アルマが少し引っ張ってやると、普通の速度で開いた。
これは、彼女が無意識の内に妖怪としての力を使っているからである。
琢磨も後になって来たが、この部屋に入るには同じ手順を踏まなければならない。
しかも扉の開く速度は非常に遅い。
「アルマか、その後ろにいるのは琢磨だな、……よし、二人とも入っていいぞ!」
ただし、中に人が居る場合は別である。
「アルマ、教えてくれたっていいだろ?なんで一人で行くんだよ」
琢磨がブツクサと文句をたれ流す。
「琢磨、私たちの存在は秘匿されている、表で言うべきことじゃない」
特殊部隊は、存在は公表しても、隊員は秘匿する。
自分や家族、その友人に危害が加わらないようにする為だ。
「私はあの時にそう指摘して、あなたが恨まれることを避けたかっただけ」
アルマは顔を少し逸らし、頬を少し赤らめて言った。
琢磨は少し、驚いた様子を見せると。
「……お前が言っても形にならんな、その、最も大きくないとなんか、幼稚園児が幼馴染に向かって『将来結婚しようね』って言ってるようなもんだあべバッ」
この日、アルマは意識して妖怪の力を使用した。
その結果、琢磨の顔には大きな大きなモミジが二ヶ月ほど消えなくなった。
しばらく待っていると、真以外のメンバーも続々と入ってきた。
「よし、全員集まったな……一人無事じゃないが」
そう真が言うと、全員が琢磨の顔にデカデカと残る赤いアザに注目した。
アルマは少しムスッとした表情を浮かべ、そっぽを向いた。
「総司令より作戦が入った。これより我々ブルーイーグル隊は作戦のためのブリーフィングを開始する」
そう真が仕切りなおすと、彼は手に持つ端末を操作し、部屋の電気を落とした。
すると、机の上に空間投影された幻想郷の立体地図が映し出される。
「南の人里は完全に敵に奪われた、かろうじて住民の避難にはギリギリ間に合ったが、そこには置いてきたものが沢山ある」
立体地図の南側の大きな街に赤い四角の立体が現れ、その周囲に写真が映る。これが置いてきたものだろう。
それぞれ発電所、基地、大型ビル、駅……数え出せばキリがない。
「それらは今の所、すぐに必要って訳でもないものがほとんどだが、その駐屯所、特に武器庫だけは早急に対処しなければならない、ここまでは、わかるな?」
武器庫が奪われたとなると、敵は必ずその武器庫の武器を使う。弾薬や食料をそこで調達できる為、補給路を断たれても活動が行える。
「ここにある武器が大したものでなければ別に早急、って訳でもないのだが……置いてあるものがちょっと奪われるとまずいものしか
なくてな、そういう訳で、今回の作戦が発令された」
武器庫の写真の一部が拡大されて表示される。この間真が腕に固定して使用していたスナイパーキャノンもある。最高機密扱いらしい。
「作戦は簡単だ、この内部に侵入し、指定武器を回収、もしくは破壊し、敵の手に渡るのを阻止するぞ」
「仕事の内容は単純。トラックに乗り、この駐屯所に接近、車両を停めて基地内部の格納庫に潜入、対象をバラして袋詰めし、乗ってきたトラックに積めるだけ詰め込んで脱出する」
「バラすのは誰が?」
絵美里が手を上げて質問する。
「俺がやる、一応工兵過程も取っているからそれぐらいの機械くらいならいけるだろう」
それに健吾が答えた。
「車の運転は誰が」
アルマは抑揚を抑えた声で発言した。
その声は会議室に冷たく響いた。
が。
「お前、そんな子供みたいな声を出せるのか、姿に似合わず大人みたいな発言しかしないから、少し心配だったんだが、女の子らしい振る舞いもできるじゃないか」
真は真面目な顔をしてそう言った。
どうやら本人は抑揚を抑えた声のつもりだったが、子供っぽい舌ったらずな声に聞こえたらしい。
それを聞いてアルマはさらに頬を膨らませ、そっぽを向いてしまった。
「まあ、運転は匠、お前がやれ、実際に潜入するのは俺と、アルマ、シャムロック、それに桜で行こう、それ以外は車両付近で万が一の事態に備えて待機だ、シャムロック、装備の説明を」
そう切り上げ、地図を一旦消し、シャムロックに操作端末を投げ渡した。
「それじゃあ、試験用に支給された新しい装備について説明していくよ」
シャムロックが端末を操作すると、机の上にホログラムが表示される。
「1つ目は光学迷彩、これは本当につい最近量産化のメドが立ったものだね、これを起動すれば、周囲の風景を映して擬似的に透明になる装置だよ。
ただしこれをつけている間は激しい動きは避けること、そうじゃないと、周囲の風景を認識する装置の処理が追いつかなくなって透明化が解けちゃうからね」
ホログラムでは実際に訓練場で使用している映像が流れる。
腕についた端末を操作すると、足元から風景に溶け込むように消えたしゃがみながら歩いたり、立って軽く走るだけなら解除されないが、全力で走ると消えてしまった。
「解除されても大丈夫、しばらくじっとしていればすぐにまた透明になるからね」
映像でも、走って解除された光学迷彩が、立ったままじっとしていると、すぐにまた透明に戻った。
「2つ目はX-Rayゴーグル、X線を利用して、壁の向こう側にある金属を発見できるよ、視界の悪い夜間戦闘などで、ナイトビジョンに変わるゴーグルとして期待されているよ!」
ホログラムにはゴーグルをつけた時の視界が表示される。
「ただし、金属以外の、例えば布とか……X線を通しやすい物の視野性はあまり良くないよ……テントとかにぶつからないようにしてね」
背景は黒で、金属は白ないし水色で表示されているが、それ以外はダークブルーのために見づらい。さすがに改良が必要なのだろう。
「あとはモーションセンサー、これはみんな前に使ってるからわかるよね、じゃあこれで試験用装備の解説は終わり、真、後をお願い」
そう言ってホログラムを消した後、操作用リモコンを真に投げ渡す。
「今回の任務はいつもと変わらず極秘任務だ、行動は深夜に行う、それと今回は支給してある私服を着てこい、市民のゲリラ活動に見せかける、プレートキャリアはその下に着ろ」
この間の訓練では、迷彩服を着たが、今回はあの少し着づらかった服を着ていくようだ。
「トラックは一番外側に近いフェンスから25メートルは離す、目標をバラして回収するまではステルスで行く、銃には必ずサイレンサーを付けておけ、以上、解散、集合は2345にここだ、弾薬はここで配給する」
そう言って部屋の電気が点いて、それぞれが外へ出る。
アルマも外に出ようとした時、真に呼び止められた。
「おい、夕飯後に俺の部屋にこい、部屋は3階の一番向こう側だ」
そう言って外に出た。
さあ、その時間までは射撃場で練習していよう。




