セバスチャンの優雅な日常
いち:セバスチャン、自分に浸る
僕の名前はセバスチャン。ただの魔法が使えるブタだ。
僕は、クラース・ウナ・マロデアという名の博士に飼われている。
彼はちまたでは、『発明家』と言われていて、また、『超スーパー天才化学者(自称)』らしい・・・。
クラース博士は、とっても頭がいい・・・と、彼の弟子の透璃くんとルルナさんもよく言っている。
僕は彼に飼われて、もう2年になる。
今、僕は一番成長する時期だ。毎日、毎日、窓ガラスに映る自分を見て、常々思う。
ああ・・・、僕ってなんて可憐で、美しいのだろう・・・。ああ、僕ってなんてナイスガイなんだろう・・・と。
僕はいつも特にすることがないので、博士のラボや彼の経営するお店にいることが多い。なので、僕は最近、お店のマスコットになっている。
いやぁ、モテる男ってつらいなぁ・・・。
そんな僕も今、熱い恋をしている。
相手の女性は、いつもお店の外や中で美しくダンスを踊っているジュリエッタちゃん。(注:セバスチャンの目には人型に見えていますが、実体は歌って踊れる銀色ボディの鉄人形です)
ああ、なんて彼女は美しいのだろう・・・。
あの艶やかな体を見ていると、とてもクラクラしてくる。
彼女が繰り広げるダンスに魅了された人達は数知れす。今や、このお店に来る客の半数以上の人が彼女に首っ丈である。
そんなお店の人気アイドル、ジュリエッタちゃんといつかデェトというものをしたい。
これが今の僕の夢なんだ。
に:ジュリエッタとで・え・と♪
とある日。僕はいつものようにお店でお客さんに愛嬌を振りまいていた。
と、そんな時・・・。
「・・・スチャン・・・っ! セバスチャーンっ!! どこにいるんだーいっ!! ちょっと、こっちへ来ておくれーっ!!!」
クラース博士の声が地下から聞こえてきた。
博士が呼んでいるので、お客さんには申し訳ないけど、僕は『何の用だろう・・・?』と思いながら、博士のもとへ足を運んだ。
そして、博士の側まで行き、声をかけた。
「ぶぅい」
「・・・ん? ああ、セバスチャンっ!! どこにいたんだい? 探したんだよ、君のこと」
博士は僕の姿を見ると、嬉しそうにそう言った。
急にしゃがみ込んだかと思うと、彼は上着のポケットから青い紐のようなものを取り出し、僕の首に巻き、結びつけた。
満足げに微笑んだ後、彼はにこやかにこう言った。
「セバスチャン、君に頼みがあるんだ。これから、ジュリエッタと二人で一緒にお店の宣伝に行って来ておくれ」
と・・・。
それを聞いたとき、僕は夢でも見ているのかと思った。
さらにこうも思った。
『ああ、それは本当? ありがとう、クラース博士っ!! 博士、あなたは僕がジュリエッタとデェトをしたいと思っていたことを知っていて、僕たちのデェトを計画してくれたんだね!』
と・・・・・・。
どうやら、僕の夢は意外に早く叶いそうだ・・・。
「いいかい、セバスチャン。お前はジュリエッタの後について行けばいいんだからね。くれぐれも一人で変なところに行っちゃダメだよ」
「ぶぅい」
博士にそう注意され、僕はわかったと返事を返す。
――ジュリエッタとデェトできる!
そう思うだけで僕の心は躍り出す。
「それじゃあ、二人とも。気をつけて行ってらっしゃい」
博士に見送られて、僕たちはデェトへ出かけた。
庭でのんびりと眠っているロザンナ(牛)や他の仲間達に挨拶をして、僕たちは博士の研究所をあとにした。
今日もジュリエッタは、美しい声で歌を歌い、それに合わせるように華麗なダンスを踊っている。
――とっても素敵だよ、ジュリエッタ・・・v
ああ、なんだか今日はとってもすばらしい日になりそうだ。
僕たちが研究所(家)を出てから、30分くらいたった。
僕とジュリエッタは今、家から少し離れた市街地を歩いている。
ジュリエッタの美声に、周りの人達が僕たちの方を振り返る。そんなみんなの姿を見てふと思う。
僕たちは、人気者なんだなぁと・・・。
しばらく歩いていると、小さな教会が見えてきた。その教会のすぐ裏には、どうやら病院があるらしい。
僕たちはその病院の中に入ってみた。
病院内には、老人がたくさんいた。他に、子供も数人いる。
そのまま、病院内でウロウロしていると、一人の女性が来た。彼女に案内されて、僕たちはさらに奥の部屋に連れられた。
その部屋では、ここの先生と思われるクラース博士よりも若干若い青銀の髪の男性が、僕たちを待っていた。
彼は無言で僕たちを見つめ、そして何を思ったか、怪訝そうな顔をしつつ、ジュリエッタの体に白い何かを張り付けた。
そして、その後も僕たちは、色々な所をまわった。
どんな所をまわったかというと、小さな公園に大きなデパート(入り口前)、さらに遊園地(やっぱり入り口前)などといった所だ。
それらをまわった後、ふと気がつくと、僕の美しいジュリエッタのボディーに、小さな白い物体がビッシリと張り付けられていた。
そして、家を出たときにはまだ東の方にあった太陽がちょうど真南へ来た頃、僕らは家に帰ってきた。
さん:博士と注文書
僕たちが家の中に入り、博士のいると思われる地下へ行くと、クラース博士は笑顔で僕たちを迎えてくれた。
「やぁ、おかえりセバスチャン。ジュリ・・・エッタ・・・?」
博士はジュリエッタの美しいボディーを見たとたん、怪訝そうな顔をした。
なんで、そんな顔をするんだいクラース博士っ!? ジュリエッタの何がそんなに不満だとっ!?
まったく、病院の若先生といい博士といい・・・。みんなジュリエッタの素晴らしさを理解していないよっ!!
「・・・な、なんでジュリエッタの体にこんなに注文書が張り付けてあるんだ・・・?」
僕が憤慨していると、クラース博士が何事かを呟きながら、ジュリエッタの美しいボディーに張ってある紙をビリビリ剥がし始めた。
「ああー、もうこんな所にまで・・・。一体誰がこんな事を・・・・・・ってこんな事するのはカイ先生ぐらいしかいないか」
クラース博士はブツブツと文句を言いながら、一枚一枚丁寧に紙を剥がしていった。そんな博士の顔が、僕には心なしか嬉しそうに見えた。
それから数分後。
無事にジュリエッタの体から全ての紙を剥がし終えたクラース博士は、その紙を一枚ずつ眺めだした。
しばらくすると、博士は突然大声を上げ叫びだした。
「な、なんじゃこりゃ─────────── っっ!!!」
長い三つ編みにした深緑の髪を振り乱しながら叫ぶ博士の姿に、僕は思わず仰け反った。あっけに取られた僕には目もくれず、博士はひたすら叫び続けている。
「いつからうちは雑貨屋になったんだーっ!! ビーカー、フラスコ、その他の電気器具とかはわかる。だけど、饅頭って何っ!? ソバって何っ!? 某アイドルのポスターって何っ!? 誰だ、こんなの貼ったのはぁ───────っっ!!!」
ひとしきり叫び終えると、クラース博士は落ち着いたようだ。はぁはぁと息をしつつ、そこら中に散らばった紙を回収し始めた。
「・・・まったくもう、なんでこんなに食べ物の注文が多いんだ・・・。うちは飲食店かっつーの。みんな、絶対うちのこと誤解してるよ・・・」
ブツブツと何かを言いながら、博士は回収し終わった紙を近くのテーブルの上でトントンと綺麗にまとめる。そして、五秒ほど沈黙したあと、何を思ったのか博士は突然お店に向かって声をあげた。
「おぉーい!透璃くんかルルナちゃん、どっちでもいいから手が空いていたらちょっとこっちに来てくれーっっ!!」
「はぁーい、今行きまぁーすっ!」
博士の呼びかけに反応して、すぐにお店から女の子の声が響いてきた。そしてすぐに、ドタドタという音と共に先ほどの声の主・ルルナさんが駆け下りてきた。
「どーしたんですか、クラース博士?」
彼女はオレンジのウェーブがかったセミロングの髪を指でいじくりながら、クラース博士に尋ねる。
「ルルナちゃん・・・。何も言わずにそこの紙に書かれているものを全て作ってくれる?」
「は?」
ルルナさんは博士の指さす方を見て、目を点にして絶句した。
そこには、僕の愛しのジュリエッタの美しいボディーに貼られていた、たくさんの紙が山積みにされていた。
「・・・クラース博士、何ですコレは?」
山積みになった紙を何枚か読みながら、ルルナさんはクラース博士に問いかけた。その声は、心なしかさっきより低くなっている。
「僕にもよくわからないんだよ。ジュリエッタが体に張り付けて来たんだけど・・・。まったく困ったものだよ・・・」
はぁ・・・と溜息をつきながら、クラース博士は呟いた。そして博士は僕の頭を撫で撫でしつつ、ルルナさんに話しかけた。
「それでね、僕はこれからカイ先生の所に遠心分離器を取りに行ってこなくちゃならないから。後は頼んだよ、ルルナちゃーんっ!!」
「えっ!? ちょっと博士っ!? 待って下さいっ!!!」
「頼んだよーっっ!!」
言うが早いか、博士はルルナさんの制止を振り切って、どたどたと駆けだして行ってしまった。
「に、逃げられた・・・っ!!」
ルルナさんはドアの方を向いたまま、しばらく呆然としていた。
よん:セバスチャン、酢豚を食す
クラース博士が遠心なんとか、というものを取りにカイ先生という人の所へ行ってから、随分と時間が経った。
ルルナさんはブツブツと何事かを言いながら、博士に頼まれたものを作り、それらを届けに出かけていった。
透璃君はお店を閉めて、今、キッチンで晩ご飯を作ってくれている。
ジュージューと何かを炒める音がして、香ばしい匂いが伝わってくる。
「もう少しで出来るからね、セバスチャン。それにしても・・・博士もルルナさんも遅いなぁ・・・・・・」
と、透璃君が呟いたのと同時に、すぐ傍の入り口が開く音がした。
博士が帰ってきたのかな?
「ただいまー! もう、やんなっちゃうっ。博士ってば面倒くさいことは全部こっちに押しつけるんだから・・・・・・あ、いいにおーい。透璃君、何作ってるの?」
何だ、帰ってきたのはルルナさんだ。
彼女は興味津々で透璃君の方を見た後、手を洗ってくると言ってバタバタと奥へと駆けていく。
程なくして戻ってきたルルナさんの話(と言うよりほぼ愚痴)によると、博士から渡された紙に書いてあったものを全て作り、それぞれの家に届けるのに2時間半くらいかかったそうだ。
お陰ですっかり足が棒になってしまったらしい・・・。
「はい、セバスチャンご飯できたよ。・・・クラース博士、まだ帰ってこないから僕たちだけで先に食べちゃおう」
透璃君がそう言いながら、僕のお皿に今日の夕食を入れてくれた。
あ、この匂いはさっき作っていたものだ。
「今日は酢豚だよ。残さず食べてね」
「・・・ねぇ、透璃君。酢豚って、それじゃあセバスチャン、共食いする事になるんじゃあ・・・・・・」
後方から、ルルナさんのそう言う声が聞こえた気がした。
その声に透璃君は一瞬、え、と顔を引きつらせたけれど、すぐに魔法生物だからきっと共食いにはなりませんよ、と言って何事もなかったかのようにテーブルに付いてしまった。
「・・・・・・ま、いっか。お腹空いたし、早く食べましょ」
「そうですね」
頂きます、と声を合わせてそう言うと、ルルナさんと透璃君は和やかに夕食を食べ始めた。
「ぶぅい(いただきます)」
僕も彼らに習ってそう言うと、お皿に盛られた酢豚、と言う物を食べ始めた。
酢豚、というのは初めて食べたけれど、食べるたびに口の中に香ばしい香りと味は何とも言えず絶妙で、とても美味しい。
夢中で食べる内にあっという間にお皿は空になってしまい、もう無くなったしまった事が少し名残惜しかった。
空になったお皿の隣に置いてある水皿の水を少し飲んでいると、「「ご馳走様でした」」
透璃君とルルナさんがほぼ同時にそう言った。
「透璃君、後お願いできる? 私、もう疲れたから先にお風呂は入らせて貰ってもいい?」
食べ終わった食器を片づけ始めた透璃君に、ルルナさんはうーんと腕を伸ばしながら聞いた。
「いいですよ。後は僕がやっておきますから」
「そう? じゃあ、お言葉に甘えてお風呂はいっちゃおーっと♪」
透璃君の言葉に嬉しそうにそう言って、ルルナさんは2階へと上がっていった。
それを見送った後、僕はすっかり空になった食事用のお皿を銜えて、洗いものをする透璃君の所へ持っていった。
「ありがとう、セバスチャン。酢豚、美味しかった?」
「ぶぅい、ぶぅい」
「そう、なら良かった。じゃあ、また作ってあげるね」
パタパタと尻尾を振りながら美味しかったと返事を返すと、透璃君は嬉しそうに微笑んだ。
その時だった。
ガチャッとドアが開く音がして、「た、ただいまぁ〜」と言う博士の力無い声が聞こえてきた。
ご:帰ってきたクラース博士
「ぶぅい(博士、お帰りなさい)」
帰ってきたクラース博士を出迎えるために、僕は玄関の方へ駆けていった。
玄関へ着くと、博士はカイ先生という人から預かってきたらしい遠心なんとかという器械を床に置いてへたり込んでいた。
「やぁ・・・、ただいまセバスチャン・・・・・・」
僕の姿を認めると、弱々しく微笑む博士。
それに応えるように、僕もそんな博士の顔をじぃぃっと見つめていると、とたとたと透璃君がキッチンから駆けてきた。
「お帰りなさい、クラース博士。随分と遅かったですね?」
「ただいま、透璃君・・・。・・・いや、まぁ、色々とあってね・・・・・・。所で、ルルナちゃんは?」
透璃君を見た後、ルルナちゃんの姿が無いことに気が付いた博士はそう彼に聞いた。
「ルルナさんなら今、お風呂に入ってますよ」
その台詞の後、博士のお腹が突然くぅーっと鳴った。
今のは何の音だろう・・・。
一瞬沈黙した後、再びきゅるるるる〜という音が博士のお腹から聞こえてきた。
「は、博士・・・?」
「・・・・・・お、お腹空いた・・・。透璃君、悪いんだけど何か作ってくれる・・・?」
床に置いた遠心なんとかに寄りかかりながら、博士は呟くように言った。
「は、はい! すぐに作りますから待っててくださいっ!」
そう言うと、透璃君は慌ててバタバタとキッチンへと戻っていった。
その姿を見送った後、僕は博士の白衣を銜えて、彼をキッチンまで連れて行ってあげようと試みてみた。
でも、博士は思ったより重くて僕の力ではちっとも動かなかった。
何せ、僕はか弱いブタだから・・・・・・。
あれから、博士は何とか自力で遠心なんとかを地下の研究室へと運び込み、その後キッチンで透璃君が作ってくれた焼きそばという料理を食べた。
「ご馳走様でした。いやーカイ先生の所で夕食ご馳走になっては来たんだけど、彼の病院から家に戻ってくるまでの間に消化しちゃったみたいでねー。いや、まいったまいった」
空になったお皿を傍で待っていた透璃君に渡しながら、はっはっは、と博士は実に朗らかに笑い飛ばした。
「ふぅ・・・いいお湯だったわぁー。・・・あれ、クラース博士帰ってたんですか? お帰りなさい」
博士の笑い声と重なって、バタンという扉が開く音がしたかと思うと、お風呂から出てきたらしいルルナさんがいつもよりラフな格好でキッチンに現れた。
ルルナさんは博士に挨拶をした後、パタパタとスリッパを鳴らしながら僕の横(ちなみに僕は扉のすぐ右側にいる)を通り過ぎて、冷蔵庫と言う白い大きな箱の前へ移動した。
そして、ルルナさんはその箱を開けて、中から瓶牛乳を取りだして飲みだした。
「あ、ルルナちゃんいいなぁ。悪いけど、僕にも一本取ってくれる?」
その様子を見ていた博士は、自分も飲みたくなったらしく、ルルナさんにそう言った。
・・・実は僕も牛乳が飲みたいんだけどなぁ・・・・・・。
博士に瓶牛乳を渡すルルナさんに、愛らしいつぶらな瞳を向けて、じぃぃっと見つめて訴える。
「はい、博士どうぞ。・・・ん、何? セバスチャンも牛乳飲みたいの?」
ぶぅい、と声を出してそう答えると、「しょうがないなぁ」と言いながら、ルルナさんは僕のために僕の用のお皿に牛乳を入れてくれた。
「あー、美味しかった。・・・それじゃあ、僕はこれからカイ先生から預かってきた遠心分離器を直しにラボに行くから。何か用があったら下に来てね」
牛乳を全て飲み干した博士は、遠心・・・分離器、と言うものを直すためにじゃーねー、と手を振りながらバタバタとキッチンから去っていった。
「やっぱりお風呂上がりの牛乳は止められないわねー。さて、と。そろそろ私も部屋に戻ろうっと」
おやすみー。
そう言うと、ルルナさんも空になった牛乳瓶をテーブルの上に置いてキッチンから出ていってしまった。
「もう・・・。クラース博士もルルナさんも牛乳瓶くらい片づけてくれれば良いのに・・・・・・」
透璃君はそう言ってテーブルの上に置き去りにされた牛乳瓶をケースの方へと移すと、ま牛乳を飲んでいる僕の頭を優しく撫でてくれた。
「じゃあ、僕ももうお風呂に入って寝るから。セバスチャンも牛乳を飲んだらもう寝るんだよ」
おやすみ、と優しく僕にそう声を掛けて、透璃君もキッチンから出ていった。
誰も居なくなるとやっぱり何となく寂しい。
シンとしたキッチンで、漸く牛乳を飲み終えた僕は寝るためにベッドのある部屋へと移動していった。
そして、ふかふかのベッドに入ると、僕はそのまま目を閉じた。
ろく:夢の中でランデブー
『・・・・・・タ・・・。ジュリ・・・タ・・・。ジュリエッター! 僕の可愛いジュリエッター!! 待っておくれよー!!』
ふと気が付くと、辺り一面綺麗な花畑が広がっていて、僕はその色とりどりの花畑の中をジュリエッタと共に走り回っていた。
『ウフフフフ・・・コッチヨ、セバスチャン! ワタシヲツカマエテゴランナサーイ』
『あはははは! こいつぅー、待て待てーっ!』
軽やかな足取りで走り去るジュリエッタ。
そして、そんな彼女を追いかける僕。
ああ、何て幸せなんだろう。
この状態がずぅっと続けばいいのに。
そんな事を思いながら、僕はジュリエッタと追いかけっこを続けている。
ジュリエッタはか弱そうな見た目に反して、以外と足が速くて僕は必死に追いかけるけれど、捕まえられそうで捕まえられない。
そんな状態がかれこれ1時間以上も続いた頃だった。
『つーかまえた!! はぁはぁ・・・、随分と手こずらせてくれたね! もう、逃がさないぞー!!』
僕は漸くジュリエッタの身体を捕らえることが出来た。
ジュリエッタを捕まえようと必死になって、勢いよく彼女に抱きついたものだから、上手く止まることが出来なくて、僕たちはそのままその場に倒れ込んでしまった。
『キャッ! ツカマッチャッタ! ウフフフフ』
『あはははは! ジュリエッタ、君って結構、足が速いんだね!!』
『ウフフフフ、セバスチャンッタラ。アナタモ、アシガハヤイジャナイ!!』
『あはははは』
『ウフフフフ』
花畑に倒れ込んだまま、僕たちは二人で笑いあう。
程なくして日が暮れて辺りが暗くなってきたけれど、僕たちはそれに構うこともなく、ただただひたすら笑い合っていた。
そして・・・・・・。
ハッと気が付くと辺りはすっかり明るくなっていて、すがすがしい朝を迎えていた。
なな:そして、今日も一日が始まる
僕の部屋はダイニングルームの窓の傍に有るので、直接、太陽の光を見ることが出来る。
窓の外を見ると、もうすっかり日が昇っていて、とても明るくなっていた。
僕はベッドから出ると、軽く伸びをして朝ご飯を食べるためにキッチンへと歩いていく。
何だかいい匂いがしてくるなぁ・・・・・・。
そんな事を思いながら、少しだけ開いていた扉を鼻で開けて、キッチンへと入った。
「あ、おはようセバスチャン」
すると、すぐに僕の姿を見つけてくれた透璃君が挨拶をしてくれた。
ルルナさんは朝食を作っていて、僕のことにはまだ気づいていないようだ。
そして、クラース博士はまだ寝ているようで、此処に彼の姿はなかった。
「はい、セバスチャン、朝ご飯だよ」
ご飯用のお皿の方へ移動すると、透璃君が博士特製の少し固めのフレークを僕の前のお皿に沢山入れてくれる。
それにありがとう、とお礼を言って僕は早速朝ご飯を食べ始める。
程なくして、朝ご飯が出来たらしくルルナさんに呼ばれて透璃君がテーブルへ移動していった。
「クラース博士、まだ起きてこないから先に食べちゃいましょう」
「そうですね」
いただきます、と声を揃えて言うと、二人もまた朝ご飯を食べ始めた。
それから少し経った頃、カチャリ、と控えめにキッチンのドアが開いた。
「・・・やぁ、みんな。おはよぉー・・・」
ヨロヨロと眠たそうな顔で、パジャマ姿のまま、クラース博士がキッチンへと現れた。
「「おはようございます、クラース博士」」
博士の姿を認めると、透璃君とルルナさんが声を合わせてそう言った。
「博士、朝ご飯食べますか? 食べるならすぐ用意しますけど・・・」
椅子から立ち上がってルルナさんがそう聞くと、博士は小さくんーと唸るような声を上げて彼女の方を見る。
「ありがと・・・でも、まだ朝食は良いや。ちょっと二人に頼みがあって来ただけだから・・・・・・」
「頼み・・・ですか?」
「何ですか、一体・・・?」
「・・・あのね、僕、これからまた寝るんだけど、9時半までに起きないようだったら、透璃君かルルナちゃんに僕の代わりに修理した遠心分離器をカイ先生の所まで届けて欲しいんだ」
ふぁぁぁぁ、と眠たそうに欠伸をしながら、博士は二人にそう言った。
それを聞いた二人は一瞬、顔を見合わせた後、再び博士の方に向き直り、
「はい、分かりました」
「お店の方も私たちでやってますから、博士はゆっくり休んでください」
にっこりと博士を安心させるように笑いながらそう言った。
「有り難う。・・・じゃあ、僕もう少し寝るから・・・・・・あと、宜しくね」
二人の頼もしい言葉に満足そうに微笑んだ博士は、おやすみーと言いながら再び自分の部屋へと戻っていった。
博士を見送った後、僕たちは再びご飯を食べ始めた。
朝ご飯を食べ終わった後、僕は少し暇になったので、博士の部屋を覗いてみた。
すると博士はベッドの中でとても幸せそうに眠っていた。
僕は博士を起こしてしまわないように注意して、彼の部屋から出ていくと、愛しのジュリエッタに会うために地下の研究室へと移動した。
研究室の扉を鼻で開けて中に入ると、ジュリエッタは部屋の中央にある台の上で眠っていた。
僕は眠るジュリエッタの顔をよく見たくて、近くの椅子を利用して台の上へと上がった。
あぁ、ジュリエッタ・・・。
君は寝顔も可愛いんだね・・・・・・。
うっとりと静かに眠るジュリエッタを眺めていると、トントンと誰かが階段を下りてくる音が部屋の外から聞こえてきた。
「あれ、セバスチャン? 姿が見えないと思ったら、こんな所にいたんだね」
言いながら、研究室へ入ってきたのは透璃君だった。
透璃君は真っ直ぐにジュリエッタの元へと歩いてきたかと思うと、おもむろに彼女の身体を抱き上げた。
「よいっしょ・・・っと。相変わらず、ジュリエッタは重たいなぁ・・・」
む、透璃君、レディに対して何て失礼な事を言うんだい。
抗議するように一声鳴いてみたが、透璃君はちょっと待ってね、と言うだけで、僕の方には見向きもしない。
それどころか、ジュリエッタを床に下ろすと、そのまま彼女の美しいボディーを何やら弄くり始めた。
背中の辺りを執拗に触っていたかと思うと、程なくしてジュリエッタがガガ・・・と小さな声を上げて目を覚ました。
ほら、ジュリエッタも怒っているじゃないか!
どうしてくれるんだい透璃君!!
「うん、今日も異常なし。さ、ジュリエッタ行こうか」
そう言って、透璃君はジュリエッタに謝る様子もなく、そのまま研究室を出ていく。
それに反応して、透璃君を追いかけるようにジュリエッタも動き始めた。
「ぶぅいぶぅい」
待っておくれよ、ジュリエッタ。
僕を置いていかないでくれ。
急いで台の上から降りて、僕は彼女の後を追う。
すると、クスクス笑いながら透璃君が外から声を掛けてきた。
「ほら、おいでセバスチャン。今日も二人には頑張って貰わなくっちゃ。・・・今日は何処に行って貰おうかなぁ」
透璃君の言葉に僕の胸は自然と高鳴る。
だって、それは今日もまたジュリエッタとデェトが出来る、と言うことだから。
こうして僕はまたジュリエッタとの楽しい一時を過ごすのだ。