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「――失礼します。」
既にドアは開いてるがそれでもノックしてから中に入る。白い色で統一された保健室には既に先客が居た。その先客は《ボン・キュッ・ボン》と随分グラマナスな女校医の手当てを受けている。
体にぴったりな白衣が際どく体の線を浮き彫りにしているのを承知で手当てに勤しむその姿に思わず“お前確信犯だろ!”と、突っ込みを入れたくなるのはなんでだろう・・・。
「――あら、どうしたのかしら?」
こちらに気づいたのか保健の校医が手当てを中断して顔を向けてよこした。
「転んで頭をぶつけた様なんです。ベッドを借りていいですか?」
「ええ、かまわないわ。で、誰が転んだのかしら?」
「彼です。・・・懸こっち来てベッドに入ってて。いまアイスノン持ってくるから。」
おずおずとベッドに潜り込もうとした懸に近づく。
「・・上着も脱いでYシャツのボタンを2、3個外して。」
その言葉に戸惑い、顔を赤面させながらも不器用に手を動かして、言われたと通りにすると懸はベットに潜り込んだ。
「これで頭を冷やして、・・眼鏡も外して。」
懸に近づくと片手で頭を持ち上げ、枕の替わりにアイスノンを置く。その後は頭を元に戻して、その上懸の眼鏡を外す。
「・・・これ。」
「・・うん、入って・・ないよ。・・・僕・・こんな性格・・でしょ? だから・・・・」
布団で顔を隠そうとした手を静止し、愁は懸の顔を見る。
「普段からかけてるのか?」
「・・一人で・・居るときは・かけない・・・。」
「なら、俺と居るとき位はそのまま外してろ。」
意味が分らな顔をする懸に愁はひとつため息をついて続けた。
「少しくらい気を抜ける場所や友が在ったっていいだろう? 毎日の事なんだから尚更さ。」
「・・・うん・・ありがと。」
「気にすんな。俺は取りあえず教室に戻るから、HRが終わったらカバンは持って来てやる。」
“じゃあな”と手を振り、愁は保健室を後にした。そう言えば、まだ祖父ちゃんとちゃんと話してないなぁ。帰りの廊下を歩きながら愁はそんな事をふと思い出した。よし、取りあえず今日は祖父ちゃのとこに行こう。