表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR

身内ネタ小説

切れ痔仙人

作者: 黒瀬雷牙
掲載日:2026/05/23

 男は俗世を捨てた。


 すべてに疲れ果てた男は、ある日ふらりと山へ消えた。


 そして数年後、人々は彼をこう呼ぶ。


 切れ痔仙人、と。


ーーーー


 霊峰・痔羅山。


 岩肌剥き出しの断崖に、一人の男が座していた。


 ボサついた黒髪、無精髭、死んだような目。

 黒ジャージ。


 そして尻の下には、年季の入った円座クッション。仙人は缶コーヒーを啜りながら、虚空を見つめていた。


「……人生ってなんなんだろうな」


 その背には、達観と諦めが同居していた。


「師匠ー!」


 山道を駆け上がってきたのは、弟子のテルだった。その後ろから、小柄な少女ヒヨも息を切らしてついてくる。


「はぁっ……はぁっ……またこんな崖で配信してたんですか!?」


「映えるからな」


「死ぬて!!」


 仙人はスマホを置き、ゆっくり立ち上がった。


 その瞬間。


「ッッッ……!!」


 尻を押さえてうずくまる。


「師匠!?」


「騒ぐな……古傷が疼いただけだ……」


「完全に切れてるやつじゃないですか」


 ヒヨは呆れたように言った。


 沈黙。


 テルが真顔で尋ねる。


「師匠、なんでそんなボロボロなのに、生きてるんですか」


 仙人は空を見上げた。

 夕焼けが滲んでいる。


「……死ぬほど辛い時ってな、人は終わらせる理由ばっか探す」


 テルとヒヨは黙って聞いていた。


「でもな、本当に必要なのは、今日を越える理由なんだ」


 風が吹いた。仙人は続ける。


「大したもんじゃなくていい。コンビニのコーヒーが飲みたいでもいい。配信したいでもいい。誰かと笑いたいでもいい」


 仙人は少し笑った。


「人間、案外それだけで次の日まで生きれる」


 ヒヨが小さく呟く。


「……師匠って、たまに良いこと言いますよね」


「たまにってなんだ」


「普段パチンコと痔の話しかしてないじゃないですか」


「それは人生に必要な学問だ」


「絶対違う」


 その時だった。


 ぐぅぅぅ……


 仙人の腹が鳴る。


「師匠、また激辛食ったんですか」


「蒙古系は修行になる」


「なんの修行だよ!!」


 仙人は遠い目をした。


「人はな、テル」


「はい」


「同じ過ちを繰り返す」


「学んでください」


 ヒヨはため息をついた。


 どうしようもない男だ。

 だらしない。金もない。

 生活力も終わってる。

 なのに、なぜか放っておけない。


 テルが笑った。


「……でもまぁ、師匠がいると退屈しないっす」


 ヒヨも肩をすくめる。


「そのうち本当に山で死にそうだから見張ってないとですし」


 仙人はニヤリと笑った。


「よし。今日はお前らに奥義を授けよう」


「帰ります」


「帰るな弟子ィ!!」


 夕陽の中、三人の声が山に響いた。


 霊峰・痔羅山。


 今日もそこには、人生に敗北しかけながら、それでも笑う仙人が住んでいる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
てる、ひよ、仲良いんだろーなー続きが読みたくなります!面白かったです!!
仙人として特別な力があるわけではなく、ただダメな人で辛党な切れ痔仙人。 しかし、どこか愛らしく、応援したくなってしまいますね。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ