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灯台  作者: コバヤシ
2/5

第二話 灯台をめぐるひかり

 灯台に星の声が降りる。

 そんな話が村に広まりはじめてからというもの、子どもたちは毎晩、丘へと通うようになりました。


 最初は、ただの遊びのようなものでした。

 けれど、ある晩、ひとりの少女、ミナといいましたが、こんなことを言い出したのです。


「星が、言ってたの。みんなで歌をうたえば、もっと声がよく聞こえるって」


 ミナは歌が好きな子でしたが、人前で声を出すことはありませんでした。

 けれどその夜、灯台のまわりでそっと歌をうたうと、風がふいにやさしくなり、灯台のてっぺんがかすかに光ったように見えました。


「ほんとうに、星が喜んでる…」

 子どもたちは目をみはりました。


 それからというもの、子どもたちは夜な夜な灯台を囲み、歌をうたうようになりました。

 歌といっても、きちんとしたものではありません。

 思いついたことばを並べた、たどたどしい節まわしの歌です。


 それでも、歌がはじまると、風はそよぎ、海は静まり、灯台のてっぺんには淡い光がまたたくのでした。


 大人たちも、しだいにそのようすに気づきはじめました。

 広場で顔をしかめていた者たちが、ふと夜の丘に耳をすませる。

 若者たちは「灯台の歌」を口ずさみながら働くようになり、年寄りたちは、「こんなに子どもが笑ってるのは、何年ぶりかねえ」とつぶやきました。


 ところが、それを苦々しく思っていた者が、ひとりおりました。

 村の役人をつとめる男、サエキといいました。


 サエキは、秩序をなにより重んじる男で、子どもたちの言う「星の声」や「灯台のひかり」などという話を、まるで害虫のように感じていたのです。


「でたらめを広めて村を乱すとは何事だ。幻想に踊らされて、子どもまでおかしくなっている!」


 そう言って、ある夜、サエキは灯台の丘へとあがっていきました。

 ランプを片手に、ふうふう言いながら、階段をのぼりつめると、そこには、確かに子どもたちの輪がありました。


 灯台を囲み、小さな声で歌う彼らの目は、どこか遠くを見つめていました。

 そして、その歌のなかに、サエキはふいに、自分の幼いころの歌を思い出したのです。


 まだ世の中のことなど知らなかったころ、母の背中で聞いた、子守歌のような、やさしい歌。


 だが、サエキはそれを頭を振って追い払い、怒鳴りました。


「おまえたちは、幻を見ている! 星が声を出すものか! そんな光は錯覚だ!」


 子どもたちは、一瞬おどろきました。

 けれど、トオルが立ちあがり、言いました。


「たしかに、そうかもしれない。でも、ぼくらはこの歌が好きなんだ。この歌をうたっていると、なぜか、やさしくなれるから」


 サエキは、そのことばに、しばらく口をつぐんで立ち尽くしていました。


 そのとき、灯台のてっぺんに、またふわりと淡い光がともりました。

 風がやみ、海が静まり、空の一角から、ひとすじの星が顔をのぞかせました。


 サエキは、それを見たあと、なにも言わずに丘をおりていきました。

 けれどその背中は、来たときよりも少しだけ、やわらかくなっていたように思えました。

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