第二話 灯台をめぐるひかり
灯台に星の声が降りる。
そんな話が村に広まりはじめてからというもの、子どもたちは毎晩、丘へと通うようになりました。
最初は、ただの遊びのようなものでした。
けれど、ある晩、ひとりの少女、ミナといいましたが、こんなことを言い出したのです。
「星が、言ってたの。みんなで歌をうたえば、もっと声がよく聞こえるって」
ミナは歌が好きな子でしたが、人前で声を出すことはありませんでした。
けれどその夜、灯台のまわりでそっと歌をうたうと、風がふいにやさしくなり、灯台のてっぺんがかすかに光ったように見えました。
「ほんとうに、星が喜んでる…」
子どもたちは目をみはりました。
それからというもの、子どもたちは夜な夜な灯台を囲み、歌をうたうようになりました。
歌といっても、きちんとしたものではありません。
思いついたことばを並べた、たどたどしい節まわしの歌です。
それでも、歌がはじまると、風はそよぎ、海は静まり、灯台のてっぺんには淡い光がまたたくのでした。
大人たちも、しだいにそのようすに気づきはじめました。
広場で顔をしかめていた者たちが、ふと夜の丘に耳をすませる。
若者たちは「灯台の歌」を口ずさみながら働くようになり、年寄りたちは、「こんなに子どもが笑ってるのは、何年ぶりかねえ」とつぶやきました。
ところが、それを苦々しく思っていた者が、ひとりおりました。
村の役人をつとめる男、サエキといいました。
サエキは、秩序をなにより重んじる男で、子どもたちの言う「星の声」や「灯台のひかり」などという話を、まるで害虫のように感じていたのです。
「でたらめを広めて村を乱すとは何事だ。幻想に踊らされて、子どもまでおかしくなっている!」
そう言って、ある夜、サエキは灯台の丘へとあがっていきました。
ランプを片手に、ふうふう言いながら、階段をのぼりつめると、そこには、確かに子どもたちの輪がありました。
灯台を囲み、小さな声で歌う彼らの目は、どこか遠くを見つめていました。
そして、その歌のなかに、サエキはふいに、自分の幼いころの歌を思い出したのです。
まだ世の中のことなど知らなかったころ、母の背中で聞いた、子守歌のような、やさしい歌。
だが、サエキはそれを頭を振って追い払い、怒鳴りました。
「おまえたちは、幻を見ている! 星が声を出すものか! そんな光は錯覚だ!」
子どもたちは、一瞬おどろきました。
けれど、トオルが立ちあがり、言いました。
「たしかに、そうかもしれない。でも、ぼくらはこの歌が好きなんだ。この歌をうたっていると、なぜか、やさしくなれるから」
サエキは、そのことばに、しばらく口をつぐんで立ち尽くしていました。
そのとき、灯台のてっぺんに、またふわりと淡い光がともりました。
風がやみ、海が静まり、空の一角から、ひとすじの星が顔をのぞかせました。
サエキは、それを見たあと、なにも言わずに丘をおりていきました。
けれどその背中は、来たときよりも少しだけ、やわらかくなっていたように思えました。