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後編


短編と同じ内容はここまでです。

文末の↓を進むと続編への導入となります。

単純なざまぁが好き!って方は途中までで。


 ヒューバートには目の前の女が知らない者に見えた。

 頭は良いが生意気で自分を敬う事をしない可愛げのない女、それが彼の知るローズリンデという女性、のはずたった。

 だが、今目の前に立つ彼女は何だ。


 恐怖―――いや、有り得ない。

 

 ヒューバートは己の内に感じる得体のしれないものを振り払うように、頭を振って叫ぶ。



「次の証言者は前に!!」



 なかなか進みでない者達に苛立ったのか、ベルダ子息が彼らの背を押した。

 反動でヨロヨロと前に歩み出たのはヒューバートやローズリンデ達、貴族の子息子女が通う学園の生徒である。

 戸惑う彼らに、証言を急かすよう睨みつけるヒューバート。

 ようやく、あの、と、震えた声で一人の少女が話し出した。

 


「わ、私は階段でローズリンデ様がレナさんを突き飛ばすところを見ました…!」



 集団心理というべきか、一人が実行すれば皆追随するように同じ行動をとる。皆で〇〇すれば怖くない、というやつだろう。



「私も、ローズリンデ様が2階の窓からレナさんに植木鉢を落とす所を見ました!!」


「俺…いや、私もローズリンデ様がレナさんにバケツで水をかける所を見ました」



 だが、数が多ければ正しい、強い訳では無い。

 彼らはこの後いやというほど身をもって知る事になる。



「それは見間違いや勘違いではありませんか?」


「いいえ!はっきりとこの目で見ました!」

「私も!」

「俺も!」



 どこからくるのかわからない自信に満ちた顔を向ける彼らに、ローズリンデは溜息を一つ吐く。



「仕方ないですわね……では、スキル―――真実の口」


「えっ」

「な、なに!」

「いやっ、なんなのこれぇ!」



 悲鳴じみた絶叫が会場に響く。

 手首を押さえる彼らの腕、左手首から先が見えなくなっていた。

 まるで手首から下を斬られたように見える腕に、泣き叫び、助けを求める彼らだが、誰一人として手を差し伸べる者はいない。治癒の力を持つ聖女でさえも。

 手を出せば次は自分だ、と。

 無関係を装う人々を見て、あらあら、とローズリンデは笑う。



「大丈夫ですのよ、皆様。これは私のスキルが発動した事で彼らの手首から先が見えなくなっているだけで、無くした(・・・・)訳ではありません。今は痛くも痒くもないでしょう?」



 そう言われた三名は、その言葉に徐々に落ち着きを取り戻していく。実際、見えないが指先の感覚もあり、痛みもない。

 ただ。



「それは本当か?」


「は、はい殿下。ただあの、痛みは、ないのですが……手首が何か、挟まれているような……まるで何かの口に入れられているような、そんな違和感が」



 ヒューバートが恐る恐るローズリンデを見れば、彼女はニヤリと笑った。



「っっ!!」



 今まで浮かべていた貴族らしい笑みではなく、底冷えのする悪意をもった笑み。彼女らしくないその微笑みは、だが、よく知る人物―――己の母がふと見せる笑みと同じだった。



「ふふっ、正解です!このスキルは『真実の口』というもので、簡単に言うと、嘘を見抜くスキルです」


「…嘘をつけばどうなるんだ?」


「今、見えなくなってる部分が食べられて無くなりますね」


「なっ…!そんな非人道的な方法で示さなくても!」


「お言葉ですが、殿下。わたくしを一方的に断罪し、ろくな証拠も無しに牢に入れようとした貴方に非難する資格が?わたくしは自身の潔白を証明する為に、このスキルを使ったまでです。この方々は先程宣言されました。見間違いや勘違いではない、と。ですから、それを証明して頂くだけです。さあ、皆さん。存分に証言なさって?」



 一人の少女がヒュッと喉を鳴らす。

 他の二人も顔面蒼白で、歯をカチカチ鳴らし、緊張が極限状態だ。

 なんて人に刃を向けてしまったのか。

 後悔したところで誰も自分達を救ってくれる者はいない。

 王子も、証言を命じたベルダ子息も、聖女レナも。

 見捨てられた、そう悟った三人はポツリ、ポツリと話し出す。先程とは真逆の証言を。



「……私、ホントは見てなんかいません。学園でローズリンデ様をお見かけするのは学校行事だけで、私達の一般クラスと特別クラスでは普段校舎も違うので、そもそも同じ建物にいる訳無いんです」

「私も、ローズリンデ様を見ておりません」

「俺も同じです…俺達はそう言うように命令されただけです」


「なっ、お前達!何を!」



 焦ったのはベルダ子息である。

 射殺しそうな形相で三人を睨みつけていたが、ふっ、と表情を崩すとローズリンデに向かって下卑(げひ)た笑みを浮かべ、こう言った。



「フ…そんなハッタリで脅して証言を意のままに変えさせても、それが真実とは証明できないのでは?信用なりませんね。こんな脅迫に我々は屈しない!そうでしょう、皆さん!」



 なんの演説だ、と賢き人々は思う。

 この若造の口車にウッカリ乗って、取り返しがつかなくなったらどうするつもりか。いや、どうにもできない。

 と、心中セルフツッコミの嵐である。


 一方、そう返されたローズリンデは笑みを崩く事なく『そうですわねぇ…』と可愛らしく小首を傾げた。



「では、ご自身の口から出た言葉なら信用できますか?」


「私は脅しに屈しない。私の口から出る言葉だけが真実だ」


「なるほど。ではその口で語っていただきましょう」



 そう。どんな脅しだとて、真実を言葉にしなければなんの証拠にもならない。証拠となるような()()()()()()は残していないのだから。ベルダ子息の笑みは崩れない。

 だが、そんな彼の思惑を知ってか知らずか、ローズリンデの次の行動は彼の予測を超えてきた。



「一人だけでは整合性が取れないので、皆様平等に致します。では皆様―――本音で語り合いましょうか」


「え?」

「きゃあっ!」

「わああっ!!」

「なんだコレ、どうなってる!」



 閉じられた会場はあっという間に悲鳴と叫び声の恐怖の空間となった。皆の手首は先程の偽証言者達と同じ様に先が見えなくなっている。

 ショックで失神する者もいる中、ローズリンデはそれらの者に構うことなく視線を王へと向けた。



「陛下―――それでは始めさせて頂きますわ」



 にっこりと貴族女性らしい笑みを浮かべてローズリンデは言った。王は自分だけにはその()を外されている事にホッとし、壊れた玩具のようにコクコクと頷く。



「では、ベルダ家次男のジェラルド様。貴方がわたくしになさろうとしている事をお話し下さい」


「―――このままローズリンデ嬢が王太子妃になればヒューバートを傀儡の王として我が家が実権を握れない、そう判断した父が、ローズリンデ嬢に罪を着せ(・・・・)、頭も尻も軽いそこの聖女を正妃にして側妃に我が家門の令嬢をつければいいとした―――ってぇっっ!なん、だ!これは!こんな事はう、ぐ、真実だ!」



 ジェラルドは自身の口から出た発言に顔色を青くし、必死に取り繕おうとするがデタラメだとも嘘だとも言えずに、焦りから喉を掻きむしる。言いたくもない言葉が己の口から勝手に溢れるのは純粋な恐怖。

 まるで自白剤だ―――と、周囲の人間に戦慄が走った。 




「―――と、このように彼は語っておりますが、真実か判定し難いとおっしゃる方が出ないよう、別の方にも協力していただきます。では、財務大臣ランベルト・ヒューマン侯爵様とその奥方様」


「なっ、なんだ!」



 突如指名された財務大臣の周囲からザザッと波が引くように人が離れていく。巻き込まれたくないという皆の意思である。



「私は不正などしておらんぞ!そこまで落ちぶれておらん!」


「いえ、お仕事の話ではなく大臣のその髪……偽物(かつら)ですよね?」


「んなっ…!」

「「「!!」」」



 そう。

 大臣の被っている鬘は、どう見ても地毛には見えない。

 元々の髪色と違うのだから―――周囲の人間も皆気づいていたが、面と向かって『あなたそのカツラ色が合っていませんよ?』と言える訳もなく―――温かな目でスルーしていたのだ。



「奥様もご存知でしょう?大臣の鬘のサイズが合っていないことを」



 気にしてるのそっちなの?!

 と、ハラハラしながら見守るギャラリー達は思った。

 


「……はい。夫は、確かに鬘ですが……ですが、こんな、何もこんな大勢の前で恥をかかせなくても…!!」



 夫人は涙をためて叫ぶ。

 政略結婚の多い貴族の中、彼らは確かに愛し合っているのだろう。周りは何となく感動ムードにあった。



「いえ、わたくしが聞きたいのは『何故、鬘を着けなくてはならない程髪にダメージを受けたのか』です。数年前は大臣の髪、フサフサでしたよね?ご病気か、それとも―――心労、か」



 ピリッと空気に亀裂が入ったかのように静まり返る。

 扇で口元を隠すローズリンデの表情は見えない。

 笑っているのか、それとも。



「国の税金の使い道―――頭を悩ますような、ストレスで髪が抜けてしまうほどに貴方を疲弊させた理由は何ですの?」


「あっ、あ…ぐ……正妃様の私的な公金流用と、第二王子の軍への横流しがあっ!あああっ!いや、そうじゃな、そうだ!あの二人のせいで私は、私は!目を瞑らなければ妻の実家に圧力をかけて潰すと…!だから、私は従うしか無かった…!」


「あなた…!ごめんなさい、私の為に…!」



 縋って泣く妻を抱きしめる大臣。辺りはじんわり感動ムーブに包まれる。

 そんな中、感動の渦に感情移入出来ない者もいた。

 王は隣に座る青褪めた顔の正妃と先程立太子したばかりの息子―――ヒューバートを見る。自分が無能だとはいえ、まさかそれほど勝手に動かれて気付けなかったとは。

 王は頭上の王冠を床に投げ捨ててこの場を去りたかったが、物理的に塞がれている退路にそうはいかず、この終わりどころの読めないローズリンデ劇場を観覧するしかなかった。



「聖女様の癒やしの力で治して差し上げては?貴女のそのドレスも宝石も国庫から無断で使用したお金で購入されたのですし」


「知らないわよ!ヒューバートが『未来の婚約者に』ってくれたんだもの!私は関係ない!それに、そんなハゲなんて治せるわけ無いでしょう!私の力はお花を少し早く成長させるだけでそんな治癒の力なんてないんだか………い、やちがっわない!だめえ!言っちゃだめ本当のこ、あああっ!」


「聖女の力なんて真っ赤な嘘、ということですね?」


「だ、だって私、花売りで、この力でお花を売ってただけで悪い事してなかった!なのに、教会の偉い人がきて、私が聖女だって!私は悪くない!ローズリンデ様に虐められたフリをして彼女を婚約者から引きずり下ろせば、もっといい暮らしが出来るからって、そう言えってジェラルドも!」



 うわーん、と大声で泣き始めた聖女、いや、花売りの少女レナ。悪女と呼ぶには小物すぎて、皆困惑顔だ。



「―――だそうですよ?ヒューバート第二王子殿下。貴方もご存知で?」



 まるで死刑宣告のような問い。

 真実を強制的に言わされるのだ、罪に自覚のある者なら断頭台に上がるかのような恐怖。



「あ、わ、私は、し、しら、知っている!全て母上と伯父上が企んだ事!上手くやればエマーソン家の領地も金も手に入るからと…!だから!」


「……だから、わたくしを陥れようとなさった、と?」


「そうだ!なのに、俺はお前を側妃にしたかったが母上が駄目だと言うから…だから牢に入れ、それから死んだ事にして監禁し、俺無しではいられないようにする予定だったのに…!!」


「絶対お断りですわ」

「ヒューバート、あたしだけって言ったくせに!このクズ男!」



 ローズリンデは勿論、愛しのレナにまで否定されヒューバートはぐうっと喉を詰まらせた。



「殿下はわたくしを疎ましく思ってるとばかり……閉じ込めたい程愛されていたとは驚きましたわ。ですが、もはや穏便に事を済ませられない状況です」


「なんの話だ!」


「王族の血を引かぬ者を王太子に据えるわけにはいかないのです。そうですよね―――王妃様」



 美しい淑女の笑みを王妃に向ける。

 隣の王は信じられないような顔を向け、ワナワナと震えた。



「お、前……あの日、孕んだ子だと言って私を謀ってきたのか……アレは一体、誰の子だ…?」



 王妃は必死に口を塞ぐ。

 その行動が真実を物語っていた。ヒューバートが王の血を引いていない事を。

 元々第一王子の母が正妃だった。

 しかし側妃では我慢ならないベルダ公爵家が横槍を入れ、既に子を授かっている彼女を産後の肥立ちが悪い等理由をつけ、押し退けて正妃に納まる。極めて外道の方法で。薬を盛って王を前後不覚にし、その身体に跨った所を人目に触れさせた。

 流石に言い逃れの出来る状況ではない為娶りはしたが、その後関係は結ばなかった。王はショックで不能となってしまったから。とことん不憫である。

 それ故、ベルダ公爵家サイドは焦った。

 何故ならば、王は王妃と致してはいなかったからだ。

 子が、次期王になる王太子を身籠らなければ王妃になった所で意味はない。権力はいずれ失う。

 そこで考えたのは鬼畜とも言える所業―――



「言え!ヒューバートは誰の子だ!?」



 王が王妃の両手を掴み、叫んだ。



「あれは、あな、うぐ、兄上との子で…!いやああ!!ちがっ、わないわ!!本当は貴方としていないのよ!保険(・・)の為だと言って兄上が私を犯したわ!!私は!嫌だと言ったのに!その時の子供がヒューバート……っあああああ!!!!」



 予想以上に重い真実が飛び出し、ローズリンデの冤罪とかスパーンと抜けてしまう程、会場の空気が凍っていた。



「……ローズリンデ、最初から知っていたのか。俺が王族の血を引いていない事を」



 ヒューバートは乾いた笑い声を上げると、力なくその場に座り込む。



「……ヒューバート様が、わたくしを大事にして下さっていたら、この件は内に留めて、王は無理でも私の夫として共に生きる道もありましたのよ?」


「お前を愛していたじゃないか!今からでもまだ…!」

「わたくし、初めからヒューバート様を愛しておりませんよ?」



 そう、にっこり笑って言うローズリンデ。



「臣下としての務めのみです。だから貴方に苦言を呈していたのに、女狐と狸の甘言に唆され、わたくしを罪人にしようとしましたね。多少あった情も綺麗さっぱりなくなりましたわ」



 ウフフ、とコロコロ笑う彼女に、今度こそヒューバートは肩を落としてそれきり顔を上げなくなった。


 不義の子どころか、国家を揺るがす程の出生の秘密。

 それでもローズリンデは国の為、ヒューバートを守ろうという想いがあった。だが、それを踏み躙ったのは他でもない彼自身。

 ベルダ公爵家は断絶だろう。現当主の三親等までは確実に処分される。余波がどこまで響くかは王次第だが、甘い結果は望めない。



(それに、元々別の方と婚約を結ぶ予定だったところを横槍を入れられたんですもの。愛されていたなんて思う方がどうかしてるわ)



「……ヒューバートとデボラ()王妃、並びにベルダ公爵家の一族を皆牢へ。国家転覆罪を適用し、然るべき処置を。偽聖女の件は神官長を尋問し、神殿内の速やかな調査を命ず。これは王命である。そして本日より側妃マチルダを正妃へ戻し、王太子は第一王子ハインリッヒとする!―――エマーソン嬢、頼む」


「畏まりました」



 ローズリンデは美しいカーテシーを見せると、両手を合わせ、パンと軽快な音を打ち鳴らす。

 キラキラと光が降るように零れ、会場を包むと、カチリと何かが外れる音がした。



「ロック、解錠しました―――皆様、お疲れ様です」



 この上なくスッキリとした笑顔のローズリンデと比較し、まるで狐に化かされたような顔の人々。夢から醒めたかのように会場を後にする人々を最後まで見送ると、代わりにやってきたのは騎士団を連れた第一王子ハインリッヒだった。



「近衛隊長、ご苦労だった。ここからは私達が引き受けるので、父上の護衛に戻ってくれ。ヴェルン隊長、罪人の移送を任せる」

「はっ!」



 騒がないよう口に布を噛ませ、縛り上げられて移送されるベルダ一族とヒューバートと偽聖女レナ。

 国内の貴族はともかく、他国の使者など政治的に問題の出そうな所には追って謝罪をという事で、こちらの処理を優先させてもらった。使者達もとんでもない目にあったが、国王のほうがもっととんでもない事になっていたので、同情からかこちらは気にせずにと却って気を使われてしまったのだが。


 騒ぎの大元である人物達が居なくなれば、そこに訪れるのは静寂。



「……すまんなハインリッヒ、情けない父親で。危うくあの公爵に国を乗っ取られる所であった」


「まぁ致し方ありません。我々が気付いた時はまだ幼く、なんの力も無かった。簡単に覆せる状況ではありませんでしたから」



 ハインリッヒは父親である国王に面差しのよく似た、銀の髪に深い海色の群青の瞳の青年だ。一方、ヒューバートは国王と似通った所はなく、母親似なのだろうと思われていたが、ハインリッヒは物心のついた頃からその血を疑っていた。彼の瞳に有する王家の血の能力がそう告げていたから。



「私の目にはあいつの王家の血がとても薄くしか見えなかった。二人だけで内密に処理しようとしているうちに、ローズリンデを奪われてしまったが……まさか、実の兄との子供だったとは……獣にも劣る行為だ」



 愛もなく、ただ、自分達の欲の為だけに作られた命。

 ある意味ヒューバートも被害者だ。だからこそローズリンデは彼に告げたように逃げ道を残していたが、公にされてしまった以上、穏便に済ます事は不可能で、良くて断種の上重い強制労働、悪くて毒杯を賜るか。彼は王族の血を引いていないので、生涯幽閉などという優しい処遇は望めない。


 


「エマーソン嬢、そなたにも苦労をかけたな…アレの血を残す事にならずに済んで、本当に良かった」



 げっそりと十は老けたかのように疲れ切った顔の国王がそう口にした。だが、言われたローズリンデは扇で口元を隠し、淑女の笑みを浮かべる。



「ふふ、そこは抜かりなく―――ハインリッヒ様にお力添えをお願いさせていただいておりましたの。わたくしが産む子は間違いなく王族の血(・・・・)をもつ者、ですわ」


「まぁ、その契約も君がこのまま王太子妃でいるなら継続可能だ」



 ハインリッヒの言葉にローズリンデは臣下の礼をとる。



「―――全て王太子(ハインリッヒ)様のお心のままに」

「そこは愛してると言って欲しいな」

「フフ、恥ずかしいので二人きりの時にお願い致します」



 ローズリンデはヒューバートに情はあっても愛は無かった。

 故に、負の象徴である彼の血を残そうなどあり得ない事で。彼の出生の秘密を知ってすぐにハインリッヒに申し出た。わたくしに子種を下さい、と―――

 当然ながらハインリッヒは口にしていた紅茶を吹き出すほどに驚く。さすがの彼も平静を保てなかった。苦い思い出だ。



「ハインリッヒ様のあれ程動揺したお姿を拝見したことは無かったので、大変貴重でしたわ」

「あの時のことは忘れてくれ……」



 内容はとんでもないがはたから見れば初々しいカップルそのもの。国を揺るがす程の事件があった後とは思えない空気だが、国王はやっと心の安寧を取り戻せた事に心底ほっとする。


 それからどうなったかというと、ローズリンデはハインリッヒとの婚約を果たし、結婚して王太子妃となった。

 すぐに国王がハインリッヒに譲位した為に王妃となったが、臣下達の不安とは裏腹にその力を政治に使う事はなく―――主に、臣下達の妻からの懇願を受けて、浮気調査や血縁を偽る事が無いよう、スキルを行使した。

 なんたる無駄遣―――平和的利用であろうか。

 その平和的な利用は勿論自身の夫である国王にも使われていたが、ローズリンデを愛する夫に効果は無く、ただただ嫉妬する自分を相手に晒す事となり、都度「私の愛を疑うのか?」と、おしおきされ羞恥に悶える、という事を繰り返す。



「あなた……わたくしの事、相当お好きなのね」

「……3人も産んでおいて、今更かい?」



 どうやらこの夫に『真実の口』は不要のようだ。

 3人の子を産んでからようやく気付いたローズリンデだった。




………END………


to another truth?






「……でも、わたくし時々思うのです。もし、もしもやり直す事が出来たなら……あの子を違った未来へ導いてあげられないかと。救う道があったのではないかと」



 ローズリンデが痛ましそうに目を伏せる。

 ハインリッヒもかつて弟だった彼に憐憫の情を抱く。



「……そうだな。今でもそう思っているよ。私達は子供の頃、本当の兄弟妹(きょうだい)のように仲が良かったからな」


「―――人の想いは時に奇跡を起こすと聞いた事があります。わたくし達の他にもあの子の事を助けたい、と、そう思ってくれる方がいたら、と……」

「人の想いが紡ぐ奇跡、か。そうだな、もしそれが起こせるなら……」




 あの日の彼に会う事が出来るだろうか。




これから救済ルートに続きますよー

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[一言] ちっちゃい頃モールにある占いの箱に手を突っ込むのに従姉妹が嘘を言ったら手がなくなるよと脅かされて泣いた… 悪い記憶思い出しちゃったぜ…
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