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前編


短編、真実の口を連載版に直したものです。

短編でおまけ追加した分も加えて少し加筆してます。

救済編のAnotherに関しては好みがあるので、苦手な方は進まずブラウザバックで。


※誤字脱字報告有難うございます!

感想・星・いいね、全て原動力となってます!




「ローズリンデ・エマーソン!お前の醜い嫉妬から及んだ聖女レナに対する数々の非道な行い、もはや情状酌量の余地もない。この場をもって婚約破棄を言い渡す!その罪を身をもって償うがいい!!」





 ―――口は災いの元。


 正しい事も相手が受け止められなければ、それは毒となる。

 侯爵令嬢のローズリンデは扇の奥でため息をついた。

 彼女の前に立つ男―――この国の王太子であり、ローズリンデの婚約者でもあるヒューバート・レオ・フォンベルクも毒となった一人。王位継承者であるにも関わらず、だ。


 彼女とて、そう煩く言った訳では無い。

 言いたい事の十分の一も注意出来ず、随分遠回しにやんわりと進言した。にも関わらず()()だ。

 この男は立太子の儀を執り行うこの場で、国の重鎮から末端貴族、果ては諸国の外交官すら集まったこの場で、派手に婚約破棄を告げたのだ。

 証拠も何も提示することなく、一方的に。

 彼がただの一貴族の男であれば馬鹿息子程度で鼻で笑われて終わりだったが、次期国王として擁立してしまった直後の出来事。非常に、非常に拙い。

 彼は正妃の息子だから、と、ただその理由で王太子となった男。側妃の産んだ第一王子の方が人格も能力も国王になるに相応しい人物であったにも関わらず。


 国王はこの茶番劇を見ていたが何の行動も起こさない。

 いや、顔面蒼白で今にも倒れそうな顔で震えていたが、気丈に耐えている、というべきか。腐っても国王。本人は卒倒してしまいたかったかもしれない。

 現王は息子と違い馬鹿ではなかったが、正妃の圧に負け、ヒューバートを王太子にするほどには気弱な人間であった。

 そんな気弱な男が何故王位を継いだのかと言えば、ひとえに正妃の実家の力。妻に頭の上がらない気弱な夫、それが皆の認識するちょっと情けない国王陛下だった。


 話が逸れたが、要は国王になるには『不適格』な男。

 それが彼女の()婚約者、ヒューバートだった。



「……殿下。殿下自らがわたくしの『嫉妬』であると宣言されたので、そちらの聖女様と『不適切な』距離であった事をお認めになったのと同義です。それはもう『不貞』ですから、殿下の不貞行為による婚約破棄、となりますが宜しいですか?」


「なっ…!何を馬鹿な!お前が、私とレナの仲に嫉妬して、彼女を突き飛ばしたり、飲み物に毒を盛ったのではないか!!」


「ほら。彼女との仲に嫉妬して、と仰ってるじゃないですか。お二人が勘違いするような距離でいる事が前提にありますわ。不貞行為です」


「不貞、不貞としつこいぞ!だからといって人に危害を加え、あまつさえ殺人未遂を犯した貴様の方が悪人だろうが!衛兵!この者を引っ捕らえ、地下牢に放り込め!!」



 あーあ、結局自分で不貞だって認めちゃったよ。

 と、見ていた群集の賢い人々は思ったが口に出さない。

 なんたって賢いから。

 ローズリンデを擁護して変に怒りを買いたくはないが、このすぐボロが出る王太子の泥船には乗りたくない。

 日和見主義の貴族だけでなく、ヒューバート第二王子派の人間も、この騒動に中立派や第一王子派に鞍替えする事を決めた。まさに、ヒューバートの自業自得である。



「どうしてもわたくしに責を擦り付けたいのですね。どうやら我が侯爵家は切り捨てられるようですよ、お父様?」


「ふむ。どうせうちの領地を掠め取りたい正妃の実家(アホウ)の仕業だろう。策もなにもあったものではないな。ハッハッハ」


 ローズリンデがこの騒ぎを傍観する父親に問いかけるが、彼は娘を擁護する事もなく、笑うばかり。そんな父親の態度に溜息をついたのは、絶望したからでも、見限ったからでもない。

 彼女自らケリをつけてよい、と、そう理解したから。

 ローズリンデの無敵のターンが始まった。



「殿下。証拠を提示して下さい」


「なんだと?」


「貴族令嬢を捕らえるのに、まさか『こんな風に言われたんですぅ〜』『ローズリンデ様に突き飛ばされてぇ〜(涙)』なんて一人の証言だけで済むとお思いで?」



 すぐに個人を特定できる、鼻にかかった語尾を伸ばす馬鹿っぽい喋り。スンとしたローズリンデが彼女そっくりに真似た話し方に、周囲のあちこちで『ブフッ』『ゴホッ、ゴホッ』と何かに耐えるような音が漏れた。

 貴族の皆々様にはウケた様だが、ヒューバートは馬鹿にされたとばかりに顔を真っ赤にして反論する。



「当然だ!おいっ、証言する者を前へ!!」


「はっ!」



 ヒューバートの側近は正妃の実家のベルダ公爵家の次男。正妃の兄の息子で、ローズリンデの印象としては『頭は悪くないが策を弄しきれない男』といったところ。可もなく不可もない、そんな評価だ。

 そのベルダ子息が連れてきたのは、エマーソン家のメイド、同じ学園に通う子息令嬢達。あ、これ王子詰んだんじゃね?と賢い人々は―――以下略。



「……まさか、その者達に証言させるおつもりで?」


「何を今更。これだけの証言を前に、言い逃れはきかんぞ!」


「はぁ…いえ、そうではなく…」


「ええい!お前の説教は聞き飽きた!お前達、始めろ!!」



 ヒューバートがそう叫ぶと、メイドから前へ進み出た。

 ローズリンデとそう変わらぬ年頃の彼女は震えながらも、声高らかに証言する。そう、まるで役者のように。



「私はエマーソン家のメイド、マリエラと申します。本来なら勤め先である家の事を語るなどあってはならない事ですが、でも!人として、私は良心の呵責に耐えられなかったのです…!まさか、まさか、ローズリンデお嬢様が毒を隠し持っているなんて…!私、見てしまったんです。ローズリンデお嬢様が引出しに毒薬(・・)をしまうところを!」



 そうメイドが叫ぶと、ヒューバートはポケットからハンカチに包まれた小瓶を取り出す。



「その小瓶がこれだ。調べさせてもらったところ、効果としては強くないにしろ、毒である事が判明した。レナに盛られた毒と同じものだ。何故、貴族令嬢の貴様が所持している?」



 何故メイドが勝手に家探しをしているのかという疑問が大半の人間に浮かんだが、話の腰を折るわけにもいかないので、皆黙って聞いていた。ある意味律儀。



「あの、殿下」


「なんだ」


「まず最初の間違いを御指摘しますと―――彼女は我が家のメイドではありません」


「はぁっ?!」


「彼女は一月ほど前に侯爵家のメイドを希望して我が家を訪れましたが、エマーソン家で仕事を希望する者はまず雑用係となります。3ヶ月は試用期間として母屋での仕事はさせませんし、そもそも立入禁止なんです。どこの家のスパイが使用人に紛れ込むか分かりませんから。仕事ぶりと人間性、あと『怪しい行動』をとらないか。全てクリアした者が適性を見て配属されます。まさか禁止されてる母屋に入り込み、泥棒じみた真似までする盗人の証言を信じるおつもりですか?」


「そっ、それは…」


「そんな事をする人間なら、わたくしに罪を着せる為にその小瓶を仕込んでもおかしくないですわね……まるで最初から毒だと分かってその小瓶を持ち出すなんて。目視で成分が分かる能力があるのかしら?」



 ローズリンデの追及にメイドの顔から色が抜けていく。



「ねぇ、そこの貴女?偽証罪、って言葉はご存知?どなたかに依頼されたのかしら?平民が貴族の家でそんな真似をして、更に罪を着せたなんてバレたら……コレ(・・)、ですわね」



 ローズリンデはにっこり笑うと、自分の首を一断するように手刀を横に動かす。メイドは泡を吹いて倒れた。



「あら……どうしたのかしら?どうしましょう、殿下の証言が1つなくなってしまいましたね」



 まるで『無くなって』が『亡くなって』に聞こえてしまうような物言いに、周囲の温度が下がった気がする。

 普通に怖い。

 もういっそここから抜け出してしまおうかと考えた何人かの耳に、更に絶望が響く。



「あ、あのっ、扉が!扉が開きません!!」


「何だと!?」



 ヒューバートが側近と共に扉に近付くと、体格の良い衛兵数人で扉に体当たりしている様子が見えた。

 扉はびくともせず、何の振動も返さない。



「くそっ、どけっ!―――おいっ!!そっちに誰かいるだろう!!こちらからは開かん!人を集めてこい!!」



 出入り口となる扉は一箇所しか無い。

 テラスに出る為の窓はあるが、どうやらそちらも同様で、窓ガラスは剣で叩かれようが体当たりされようが、全ての衝撃を吸収していた。



「―――無駄ですわよ?」



 その声に、言葉に、会場から全ての音が消えた。



「これはわたくしの女神の祝福(ギフト)施錠(ロック)』です。扉でも窓でも箱でも、開閉するものならば全てに効果があります。そして、この力こそ、わたくしが殿下の婚約者に選ばれた理由ですわ」



 確かにこの力は有事の際、王族を匿うには最強の盾となる。

 しかも、攻めてきた側も下手をすれば閉じ込められる為、迂闊に近寄れない。だが。



「殿下には『地味すぎる』と吐き捨てられてしまいましたが、どうでしょう?わたくしは王族を守る盾として選ばれたのですが、聖女様の存在が明らかになった為に用無し判定を受けたようですわね。あ、先に言っておきますが、わたくしが死んでもロックは解除されないので殺しても無駄です」


 

 そうなれば一生、皆さんも死ぬまでここにいることになりますね、と、ローズリンデは朗らかに笑う。


 逃げ出す事も、応援を呼ぶ事も出来ない。

 術者に害をなせば永遠にここに留められる。

 会場の空気は今度こそ凍りついた。



「皆様にはこの茶番の目撃者になっていただかなければなりません。大丈夫、危害など加えませんわ」


「ちゃ、茶番だと…!」


「さ、殿下―――続きをどうぞ?」



 ローズリンデは笑みを崩さずそう言った。



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