ぷろろーぐ『落ちる』
恋に落ちるとはなかなかどうして上手い言い回しだな、と思った。しかしそれは、本来特別な意味などない言葉遊びの延長であるはずだ。実際に落下するという意味ではないし、いうならば陥る、という表現の方が合うのではないかと。そんなくだらないことを考えていたくらいである。
当時、まだ小学生そこらの私にはそういった少々照れくさい言葉は真剣には受け取れなかった。私は恋人よりも一緒に遊ぶ友人が大事だったし、もっというと好きな異性というものがなかったから。
もちろん、誰かに好かれて告白される経験なんてものもなかったから、恋愛などという物は自分には一生縁がないものだと考えていた。
つまり、私にとって「恋に落ちる」とはほんの数秒だけ関心して終わるような日常のほんの賑やかしだったはずなのだ。
ところが何の因果か、私はその『落ちる』という表現がどれほど納得出来るものかと実感した。
そう、恋に落ちたのだ。
この気持ちはまさしく高いところから落ちた時の浮遊感に似ている。ジェットコースターで一喜一憂するあの感覚に近い。ただし、安全装置がなく、いつあの内臓が浮くような感覚が終わるかもわからない、そんなジェットコースターだ。
私はあの浮遊感が苦手だ。
まだ乗ったことがない頃から恐ろしく見えたソレは実際に乗ったらそれは恐ろしかったものだ。
だからだろうか。
苦手なジェットコースターと重なる、今の私の感情を快く思えないのだ。
人を好きになったのに怖い。
この胸を締め付ける衝動は、醜く、泥のように粘性をもったものだ。思い描いた恋愛という偶像とは似ても似つかない。
思っていたのと違うから、否定したくなるのではなく。
自分には縁がないと思っていたこの気持ちへの対処の仕方がわからない。だから怖い。
はあ。私はこの気持ちをどうしたらいいだろう。
蓋をして、薄れさせて、消し去ってしまえたら、楽になれるだろうか。
それともいっそ伝えてしまえたら、楽になれるだろうか。
相手をどうにかしたいというこの独りよがりは、果たして本当に恋なのだろうか。
だとしたら私は…………………………
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