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たった一つ残されたもの

ある日の朝、俺は目覚めた。

視界がぼやける。知らない場所だ。

肩に誰かの手が触れられる。


嫌悪感。


俺はとっさに振り払った。


「起きたか、じろう」

がたいのいい身体をした顔に刀傷をした男が目の前にいた……

誰だろう。と一瞬思ったが

「り…ょ…う…た」

凉太。俺の友人。

3年前に村を出た男。何故帰ってきたのか。

そんな疑問は俺の吐き気と衝動的な不安に襲われ消える。

苦しい。

なんだこれは。

頭痛?いや違う。

冷静になった時ですらよくわからないと思う感覚だ。

今でも思う。

あんな不快感はもう味わいたくない。

だが、そのときは相当、最悪な気分だった。


「どこここここだこ」

どこだここはと言いたかったがまともに喋れなかった。

「宿屋の一室」

凉太は答える。俺は起き上がろうとするも起き上がれなかった。


「無理をするな。あんな強い薬をキメたんだ。副作用が酷いだろう」

りょうたは苦しむ俺にそう解説する。

「覚醒薬。確かに一時的にスーパーチートな力を得ることができるが。

その分、依存性がヤバく、反動で何もできなくなる。

捨て駒の兵士に使って不死身の兵隊にするための薬だ。どっかに戦争仕掛ける予定だったんじゃねえか?」


俺は非常に苦しんでいる。

だが、凉太は続けた。


「大方、お前を薬漬にしていざというときに動かせる。

最強の兵器に仕立て上げたかったんじゃねえかな、そのときの教育もしっかりなされとったみたいだしな」

いやあ、怖いねえ人間ってのは、と凉太はいった。


教育という単語を聞いて

鞭、鎖、注射、足、拳、何かがフラッシュバックして吐いた。


「バケツはそこにあるからそこにゲロを吐けよ」

吐いた。

頭が非常に痛い。


意識が混濁する中。

俺は意味がわからなかった。

何故こうなったか、何があったのか、ここはどこなのか、自分は何故苦しいのか。

だが、一つだけ確かなことがあった。


国王への、殺意だ。

あの糞野郎だけは殺してやると。


「こ、ころしてやる、あ、あの、ククククククソヤロロロロロロロウ

ゆ、ゆうしゃ、と、おれを、ももももも、ちあげ、て、

こここここ、こんな、めにににあわおあわおあわせて」

俺ははっきりしないろれつの回らない中、

明確な殺意を、凉太に打ち明けた。

「いいぜ、お前を城まで連れてってやる」



凉太に車椅子乗せられ連れて行かれた場所には、何も無かった。

草木は朽ち果て、ただ広いクレーターがそこにあるだけだった。

「こ、こ」

ここはなんだ。

あのクソが住んでる城じゃないのか?

凉太は俺の疑問を答えるように呟いた。

「全部、お前がやったことだよ、勇者」

俺が、やったのか……


殺風景な景色は、俺たちに何も答えない。


覚醒薬をキメた俺は、魔王を倒した後

すぐに投獄され、依存症に苦しむことになった。

依存症を抑える薬を貰うために何度もなんども看守に懇願する。

そのときにいろいろ屈辱的な仕打ちを受けるのだ。

まず、下半身をあらわにされて……


思い出したくない、あの男に触れられた記憶など

あの男に蹂躙された記憶など消えてしまえばいい。


そんな日が何度も続いた後。

すべて無くなった。

消えたのだ。



「おそらくだが…、お前の勇者としての力が本当に覚醒したのだと思う」

かく…せい?

「薬ではない本当の力だ。

だが、それは未知数で制御もできない

ましてや依存症で精神状態もまともじゃない

暴走するのは当然だ、と推測する」

暴走……したのか

「多分国王も死んだよ。お前が殺したんだろ、良かったな」


もう、俺には何も残されていない

勇者としての名声も副作用で苦しまなかった肉体も

たった一つ残された復讐心ですら……


もう殺したい相手すらいない……


「お、おれれれのかかかぞ、く」

「さあな、この騒動で逃げたんじゃないか?自分の身内が国を滅ぼしたんだ。当然いられないだろ」

帰るところすら残されていないのか……


「だが、それでも」

凉太は言う。

「お前の力を、引き出せたなら、少しはマシになるかも知れないぜ」


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