同級生の心の声に口説かれて“デレ堕ち”してしまう絶対に恋愛したくない“読心能力者”のクールなオリヴィアちゃん
くっ……負けない!
私、オリヴィア・スミス――カナリッジ魔法校、一年生、十三歳――には最近、少しだけ悩みがあった。
(今日もオリヴィアは可愛いなぁ……)
私の隣に座る男子。
ジャスティン・ウィリアム・ウィンチスコット……この同級生の男子生徒、貴族の少年は私の事が異性として好きな様子なのだ。
なぜ分かるかって?
それは態度が明白というのもあるけれど……最大の理由は、私には『人の感情を読む/聞く能力』が備わっているからだ。
だから、私と一緒に図書館で勉強するという名目で隣に座り、本当は私の顔を眺めているということを私は知っている。
(白い肌も、銀色の髪も、碧い瞳も本当に綺麗で……あと、やっぱり可愛い。学校で、いや、俺が人生で見てきた女の子の中でも誰よりも可愛い……)
などと、考えていることも当然、知っている。
普通なら、それは嬉しいことなのではないか?
何故、それが悩ましいのか?
そう思うかもしれない。
しかし私にとっては迷惑な話だ。
というのは、私は絶対に恋愛などしないと、恋などしないと己の心に誓っているからである。
恋愛は阿片である、というのが私の持論だ。
恋愛感情など、単なる劣情、性欲と本能の暴走である。
阿片と同様に人間の知能を著しく低下させる、極めて低俗であり、愚かな感情である。
身分違いの恋なんてした所為で、母は私を身籠り……人生を破滅させてしまったのだ。
だから私は母と同じ轍は踏まない。
絶対に恋愛などしない。
愛なんて欲しいと思わない。
特に身分違いの恋なんて……絶対に、絶対にしない!!
(学校で一番の美少女で優等生。クールで孤高のお姫様の顔をこんなに近くで見られるのは、彼女と親しい俺だけだな)
……親しいと思っているのは、ジャスティンだけだ。
私は彼のことが好きではない。
確かに頭も(私ほどではないにしても)良くて、運動も(男女の身体能力を考慮に入れれば私の方が)できて、顔も(私に釣り合うほどではないにしても)それなりにカッコよくて……
他の男子と比較すれば少し大人びていて、趣味も合うことが多いから話していて楽しくて……
身分や出生で何かと不利な立場に立たされやすい私を助けてくれたり、守ってくれたりしてくれて、少し優しくて……
…………そ、そんなやつ、私は全然好きじゃない!
事実、ジャスティンに見つめられていると……何故か胸の鼓動が高くなり、体温が上がるのを感じる。
私の体が拒否反応を起こしているからだ。
だから……好意を持っている男子に「可愛い」と思って貰えて、喜んでいるとか、ときめいているとか、そんなわけでは全然ない。
「ジャスティン……私の顔に何か、ついていますか?」
人の顔をジロジロ見ていることに、私は気付いているぞ。
そんな警告の言葉をジャスティンに伝えると、彼は……
「……いや、別に何もついていないが?」(気付かれてたか……まあ、でも、確かについているな。サファイアみたいに綺麗な瞳や、銀色に輝く綺麗な髪、細く筋の通った高い鼻、ふっくらとした色っぽい唇が……うん、本当に綺麗だ)
私は自分の体がカッと熱くなるのを感じた。
意識すればするほど、自分の顔が赤くなっていくのを感じる。
こ、これは……そう、怒りだ!
嫌悪のあまりに怒りを感じているのだ。
だから別に好きな男の子に自分の容姿のことを事細かく説明され、褒められて、恥ずかしいと感じていたりとか、そんなことは全然ない。
「ところで、そういうお前こそ……」(顔が真っ赤だけど……)
「ひゃう!」
急にジャスティンが私の顔を覗き込んできた。
あと数インチで唇と唇が触れてしまいそうな、そんな距離まで近づかれる。
私の心臓の鼓動がさらに早くなる。
「な、なん……ですか」
「体調でも悪いのか?」(前も一人で抱え込んで、辛そうにしていたし……)
入学してすぐ、私は精神的な理由から体調を崩してしまったことがある。
というのも、この学校は貴族などの良い家柄の出身者が多く……出自の悪い私には馴染めないことが多々あった。
また、私は好成績を維持することを条件に奨学金を借りており、それ故に勉強に手を抜いてはいけない、成績を落としてはいけないという強迫観念のようなものを抱えていた。
周囲から孤立し、休憩を挟まずにずっと勉強ばかりをしていたせいで……結果、体調を崩してしまったのだ。
そんな時に彼が私に声を掛け、支えてくれて、励ましてくれたおかげで、立ち直ることができた。
……も、もちろん、だからといって、彼のことが好きになったりとか、そんなことは全然ない。
少し私のタイプな顔立ちの男の子が、白馬の王子様みたいに私を助けてくれて、そして私のことを可愛いと(心の中で)褒めてくれるからと言って……
ときめいたりとか、好きになったりとか、そんなことは全然ない。
私はそんなにチョロくない。
勘違いしないでほしい。
私はクールなのだ。
そんな一時の感情に惑わされ、流されて、彼のことが好きになってしまうようなことは絶対にない。
「別に大丈夫です。……安心してください」
「そうか? なら、いいけど……」(にしても、顔が真っ赤だが……)
こ、これはあなたが私の顔を見て、可愛いなど、何だのと内心で漏らすから、恥ずかしくなってしまって……
い、いや、もちろん、恥ずかしいというのはあくまで、共感性羞恥のようなものというか、そんなことを内心で呟いているジャスティンが恥ずかしいということであって……
べ、別に私が彼に容姿を褒められたりして、恥ずかしがっているとか、そういうことでは全然ない。
私はジャスティンなんか、異性として、男の子として、意識したりしてないのだ。
こんなやつに容姿を褒められたって……別に何とも感じたりは……
(もしかして、俺に見られて照れちゃったのか……?)
なっ!
「て、照れてなんかいないです! か、勘違いしないでください!!」
私は思わずそう反論し……それから慌てて自分の口を塞いだ。
ま、不味い! 思わずジャスティンの心の声に反応して……
「い、いや、あの、こ、これは……その、あなたが変な勘違いをしているんじゃないかと思って、そう、念のために言ったのであって、べ、別に私があなたに見られて照れているとか、そんなんじゃ……」
私は慌てて弁明するが、言葉を重ねるほどに自分の言葉に説得力が失われていくのを感じた。
最後は自分でも何を言っているのか、よく分からなくなってしまった。
「そ、そうか……」(まさか、本当に照れているとは……)
ち、ちが……
「だ、だから、その……」
「いや、うん、もう、分かった。大丈夫だから」(か、可愛い……)
っく……!!
ば、馬鹿にして!!
私は思わずジャスティンを睨みつける。
すると彼は僅かに微笑んだ。
「……」(拗ねちゃったか? そんなオリヴィアも可愛い……)
べ、別に拗ねてるとか、そんなわけじゃ……
ああ、もう! 調子が狂う……
私はジャスティンとの会話をやめて、勉強へと戻ることにした。
できるだけ、隣に座る男子のことは考えないように……教科書に意識を集中させる。
一方のジャスティンも勉強に戻った。
……もちろん、勉強の合間にまるで息抜きをするように、私の顔を見たりしてきたが。
(しかし……そろそろ勉強も疲れてきたな)
どうやら、私と勉強するのに飽きてきたらしい。
……まあ、そんなものだろう。
恋愛感情なんて所詮、一時の感情、一過性のものだ。
長くは続かない。
ジャスティンもきっと、私の顔がタイプだから、今は私と一緒にいるだけで……
すぐに飽きてしまうだろう。
きっと、私と勉強することもいずれ、無くなるはずだ。
……別にだからと言って、寂しくなんかない。
むしろ、清々するくらいだ。
私は一人でもやっていける。
ジャスティンなんか……好きでも何でもないし、私と一緒に過ごしてくれなくなっても……
全然、これっぽっちも、寂しくなんか……
「……オリヴィア」(聞いているか?)
「わぁ! な、何なんですか、急に!!」
耳元で囁かれ、私は思わず声を上げた。
するとジャスティンは不思議そうに眉を顰める。
「いや……何度も呼んだんだが……」(やっぱり体調が悪いのか?)
「そ、そうでしたか。い、いえ……少し考え事を……」
「考え事?」(何のことだ? ……もしかして、俺のことだったりするのかな?)
「あなたのことじゃないです」
ま、不味い!
また、墓穴を……
「そ、それはともかく! 一体、何の用ですか? み、見ての通り、私は勉強中ですけれど」
「いや、息抜きにサロンで一緒に紅茶を飲みに行かないかと……」(……今、誤魔化したよな?)
カナリッジ魔法校は上流階級や金銭的に余裕のある中流階級が入学する全寮制のパブリックスクールだ。
そのため敷地内に紅茶や珈琲を楽しめるような社交場がある。
「ま、まあ……別に嫌なら、いいけどな。お前が来ても来なくても行くし……」(二人きりで落ち着いて話がしたいな……なんて)
実はサロンには一度も行ったことはない。
何となく、場違いな気がして、気後れしていたのだ。
……ま、まあ、私も集中力が切れてきたのは事実だし。
勉強の合間に休憩を挟んで、少し甘い物を補給した方が効率も良くなる。
し、仕方がない……別にジャスティンのことは好きなんかじゃないし、ジャスティンと一緒に行きたいとは全然思わないけど、でも……
「誘われて……断るのも、失礼ですし。私も休憩したいと、思っていましたから。いいですよ。行ってあげます」
「そうか。……じゃあ行こうか」(良し……ちゃんとデートに誘えた!)
で、デートって……
私は何となく、ムズムズするような気持ちを抱えつつ……ジャスティンと一緒にサロンの会場へと向かう。
そして会場の入口で私は思わず足を止めてしまった。
「……オリヴィア?」
「いや、その……」
会場の雰囲気に飲まれ、思わず怖気づいてしまったのだ。
私はやっぱり、こういう場は場違いなのではないか……と。
とはいえ、それを直接言うのは恥ずかしかった。
「私を誘ったのはあなたなんですから、ちゃんとエスコートしてくださいね」
いろいろと勝手が分からず、失敗するかもしれない。
だからフォローをよろしく、とそんなニュアンスを込めて、ジャスティンにそう言った。
するとジャスティンは……
「そ、そうか……うん、分かった」
そう言って何故か、私の手を取った。
……はい?
「ほら、行こう」(まさか、オリヴィアの方から手を繋いで欲しいと言うなんて……)
ち、ちが……
そういうわけじゃ……
しかし私が否定する間もなく、ジャスティンはぐいぐいと先導するように私の手を引く。
私はその力に逆らえず、手を握られたまま、会場に入ることになった。
しかしそうなるとどうしても……周囲から注目を集めてしまう。
(あの下級生、恋人同士なのかしら……)
(美少年と美少女で、中々絵になる組み合わせだな)
(初々しい感じがして、ちょっと微笑ましい。どっちも可愛いね)
(確かあっちの下級生はウィンチスコット家の……女の子の方はどこの家の子だろうか? 平民生まれだとしたら、なるほど。そりゃあ、ウィンチスコット家の嫡男に手を握られたら、ああなるよな)
上級生からの視線が辛い。
完全に誤解されている。
しかもどちらかと言うと、私の方がジャスティンに恋い焦がれているみたいな、そんな印象を受けているようだ。
本当は逆なのに……
私はジャスティンなんて、別に少しも、これっぽちも好きじゃなくて。
ジャスティンが一方的に私のことを好きなだけで、私は迷惑しているだけなのに。
今も、そうだ。
こいつは私の気も知らないで、平気で手を取って……
どういうわけか、体が熱くなり、心臓の鼓動が早くなり、そして体の奥がキューっとなる。
きっと、ジャスティンへの怒りだ。
そうに違いない!
「あの、ジャスティン」
「どうした?」
「その、目立っているので……手を……」
「え? あ、あぁ……」(そ、それもそうだな……)
私の言葉でようやく、ジャスティンは自分たちが注目を浴びていることに気付いたらしい。
慌てた様子で手を離した。
……もう遅い気がするけれど。
「えっと……それでどこに座りますか?」
「そうだな。……あそこでいいだろう。丁度、空いているし」(丁度、二人席だしな)
ジャスティンはそう言うと無造作にその席へと歩み寄り、椅子に手を掛けた。
椅子を引いて……何故か、座らず、私の方を見た。
……座らないの?
「え、えっと……」
「……座らないのか?」(反対側の席が良かったか? 別に変わらないと思うけど……)
「へ? えっと……はい、座ります!」
どうやら、レディファースト的なエスコートらしかった。
あまりにも自然な仕草だったから、分からなかった……
私は慌ててジャスティンが引いてくれた椅子に座った。
私が腰を下ろすのをしっかりと見届けてから、ジャスティンも反対側の席に座った。
さて、座ってしばらくすると、給仕の人が紅茶を注いでくれた。
好みの量のミルクと砂糖を入れて、口に運ぶ。
それからケーキスタンドの上に乗っているサンドウィッチへと、手を伸ばした。
サンドウィッチにはローストビーフとレタスが挟んであった。
口に入れると、シャキッとしたレタスの触感と肉の旨味が口の中に広がる。
美味しい……
(やっぱり、美味しそうに料理を食べるオリヴィアは可愛いなぁ……)
一方、私の顔を茶請けにして紅茶を飲むジャスティン。
……気になるからやめて欲しい。
「オリヴィアは……好きな食べ物、何?」(何でも可愛く、じゃなかった。美味しそうに食べるけど……)
「好きな食べ物ですか? そうですね……ローストビーフとか?」
「なるほど、ローストビーフか……」(そうだったのか? ……夕食の席では、あまりお代わりしてなかったような気がするけど。健啖家なのに)
い、いや……だって、ローストビーフはみんな好きだし……
いくら大皿に乗っている分は好きにとっても良いルールだからといって、私一人がローストビーフをたくさん食べるのは迷惑かなと……
と、というか!
人の食事事情を観察し過ぎだ! 別に私が何をいくら食べてもいいでしょ!
「今度から、俺の分も譲ってやろうか? まあ、たった二人分じゃ足りないかもしれないけどな」(身長は低くて、痩せているのに、人の四倍は食べるんだよな……本当にどこに消えているんだか)
ニヤニヤと笑いながらジャスティンは言った。
私は小さく鼻を鳴らす。
「結構です!」
確かに私は人よりもたくさん食べるかもしれないけど……別に食いしん坊でも、大食いでもない。
ちょっと、ちょっとだけ……健啖家なだけだ。
人の四倍も食べない。
……三倍くらいだ。
「そう言うあなたは……何が好きなんですか?」
「うーん、ビーフシチューかな?」(まあ、オリヴィアの方が好きだけど……)
食べ物の話!!
私は食べ物じゃない!!
「ビーフシチューも、たまに夕食で出ますね」
「そうだな。……まあ、俺は家のビーフシチューの方が好きだけど」(やっぱり、肉が蕩けるくらい、煮込まれているのが美味しいんだよな……)
肉が……蕩ける?
蕩けるようなお肉って、どんなお肉だ? 食べたことないけど……美味しいのか?
いや、でも……お貴族様のジャスティンが、舌が肥えてそうなジャスティンが一番好きというからには、きっと美味しんだろう……
「へ、へぇ……学校の夕食のシチューよりも……美味しいんですね。私はあれでも、美味しいと思いますけど……それよりも、美味しいということですか。……い、いや、食べてみたいとか、思ったりとかは、全然ないですけどね? ただ、ちょっとだけ、興味が湧いただけというか……」
「……そんなに気になるなら、来るか?」(分かりやすい……)
「良いんですか!?」
「あ、あぁ……別に同級生を招待するくらい、どうということもないしな」(凄い食いつきだな……)
あ!
し、しまった……うっかり、誘いに乗ってしまった……!
た、食べ物で釣るとは……卑怯な!!
「……ところで、その、いつ頃、食べら、じゃなかった、招待していただけますか? い、いえ、別に急かすわけでは、ないですけれどね? あなたのご都合の良い日なら、いつでも良いですし……」
私が尋ねるとジャスティンは少し考え込んだ様子を見せる。
「そうだな……」(いつでも良いけど、でも、邪魔な人がいない時がいいな。あの人たちがいなくて、かつ、休暇中となると……)
ジャスティンはそこまで考え込んでから、少し照れ臭そうに頬を掻きながら答えた。
「そ、そうだな……これは、もし、お前に予定がなければだけれど……前夜祭はどうだ?」(折角の機会だし、誘ってしまおう。大切な人と過ごす日だし……)
「ぜ、前夜祭の日ですか!?」
前夜祭は確かに大切な人と過ごす日と言われているが、普通、ここで言われる「大切な人」とは家族のことを指す。
前夜祭を恋人と過ごすなんて、それこそ、結婚を前提に考えているとか、そのくらいの気持ちじゃないと……
あ、あれ?
もしかして、私……遠回しに愛の告白をされてる?
そ、そんな……い、いきなり言われても……いや、別に彼の気持ちは知っていたし、いきなりではないけれど。
確かにジャスティンはカッコいいし、頭も良いし、運動もできるし、私には優しいし、たまに紳士的だし、以前助けてくれて感謝もしてるし、共感するところもあるけど……
で、でも、わ、私は、そんな、まだ、心の準備が……
「……オリヴィア?」(顔が真っ赤だけど……これは照れてるのか?)
「い、いや、べ、別に照れ……」
言いかけて、慌てて咳払いする。
危ない、危ない……
「そ、その……別に私は構わないですけれど、その、一般的に前夜祭は家族と過ごす物で……いえ、私には一緒に過ごすような家族はいませんけど、あなたの場合はご家族はご健在と聞いていますし、私よりもご家族を優先した方が……」
「その日は俺も一人だから、安心してくれ」(うちの両親はそれぞれ愛人と過ごすだろうしな)
「そ、そうですか……」
そうか……ジャスティンも……一人なんだ。
何だろう、親近感が湧く……
い、いや、別にだからといって、増々好きになったりとか、そんなことは全然ないけどね?
……い、いや!
増々も何も、そもそも好きじゃないけど!!
「じゃあ、決定だな」(今年はオリヴィアと二人で……最高だな)
あっ、ついつい流れで承諾してしまった……
ど、どうしよう。
これ、愛の告白を受けたということには、ならないよね?
(ところで、やっぱり、前夜祭を一緒に過ごすことを承諾してくれたということは……脈があると考えても良いよな? つまり、それなりに俺のことが好き……)
「好きじゃないです!」
「……え?」(何を……急に?)
し、しまった……!
私は自分の顔が急速に赤くなっていくのを感じた。
「い、いや、今のは……別に前夜祭を承諾したのは、あなたのことが好きだからじゃないという意味で……その、だから、つまり……そう、ビーフシチューのためなんです!! あなたのことが好きだったりとか、大切な人だと思っているからじゃなくて……ビーフシチューが食べたいから何です! あなたのことが好きだからじゃないです。分かりましたか? あなたのことが好きというわけでは、絶対にないんですからね! あなたに恋してなんか、いませんから!! か、勘違いしないでください!!」
私は早口でそう言った。
一方、呆気にとられた様子のジャスティンは真っ赤な顔を逸らした。
「あ、安心しろ……わ、分かってるから……」(今のは……絶対に照れ隠しだよな? そうだよな!? 俺のことが好きじゃないなら……別にこんなに必死に否定しないよな?)
「わ、分かったなら、結構です」
「そ、そうか。うん……そうだな」(お、落ち着け! ……もしかしたら、まだ、本当に好きじゃない可能性もある。告白は……然るべき時、然るべきタイミングでしよう。前夜祭の日とか)
ぜ、前夜祭の日に告白!?
あ、あと二か月後じゃん!!
それはいくら何でも、気が早すぎるというか、私の心の準備が……
私は自分の心を落ち着かせるために、カップを手に取った。
ゆっくりと、紅茶を胃の中に流し込んでいく。
しかし……
中々、冷める気配のない体温。
破裂しそうなほど、激しく動く心臓。
どこか、胸の奥が切なくなるような、変な感覚。
この、独特な感覚。
こ、これは……や、やっぱり、もしかして、恋なんじゃ……
い、いや、そんなはずはない!
私が恋するなんて、あり得ない!
で、でも……
(もし、告白が成功して、オリヴィアとお付き合いをすることができたら……)
な、何を、そ、そんなことを!
じゃ、ジャスティンとお付き合いするなんて、そんな……
それって、つまり、毎日ジャスティンと一緒にお勉強したり、紅茶を飲んだり、お話したり、手を繋いだりとかをするということで……
あれ? もう、全部やってる?
私、知らない間に、ジャスティンとお付き合いしてた?
そ、そんな、いや、でも、もしそうなら……
今までとそんなに変わらないなら、別に……良いんじゃないか?
ジャスティンと一緒にいるのは楽しいし、このままの関係がそのまま続くのは、そんなに悪いことじゃないような気も……
(キスとか、したいな……)
「ゲホッ!」
「オリヴィア!?」(気道に入ったのか?)
私は思わず紅茶を咽てしまった。
心配そうな表情でこちらを伺うジャスティンを……私は睨みつけた。
「……最低です」
「え?」(ど、どうした?)
「見損ないました」
き、キスをしたいだなんて!
な、何て不埒で、無責任な奴だ!!
そんな人だと、思ってなかった!!
「ど、どうしたんだ? 急に怒って……」(俺、何かしたか?)
「胸に手を当てて考えてください」
全く……いくら思春期だからって……考えていいことと、悪いことがある!
よりにもよって、キスだなんて……
私の出生のことを知らないわけじゃないくせに!
き、キスなんて……
「い、いや……言ってくれないと、分からないだろ!」(な、何なんだ、急に怒って!!)
不機嫌そうに声を荒げるジャスティン。
……ふむ、確かにそうだ。
ここはしっかり、言う出来だろう。
絶対に、キスなんか……キスなんて、しないと!!
「いいですか!! 私は赤ちゃんができちゃうようなことは、絶対にしませんからね!!」
キスなんてしたら!
あ、赤ちゃんができちゃうじゃないか!!
私がそう言うと……
「な、な、何を急に、言ってるんだ!! そんなこと、するわけないだろ!!」(どんな飛躍的な妄想をしたら、そうなるんだ!! 俺だって、そんなこと、考えてないぞ!!)
……え?
いや、でも……キスしたいって、さっき……
私は思わず首を傾げた。
さて、私がとんでもない勘違いと、大恥を掻いたことに気が付いたのは、それからしばらく後のことである。
……三日間、私はジャスティンの顔が直視できなかった。
やっぱり、ジャスティンなんか、嫌い!!
こ、こんなやつ!
絶対に好きになったりなんか、恋したりなんか、しないんだから!!
勝てなかったよ……
まあ、体の方は完全に(恋心に)屈して反応しちゃってますが、心はまだ屈してないです。
オリヴィアちゃんの戦いはここからです。
きっと、打ち勝ってくれるに決まっています。
なお、オリヴィアちゃんとジャスティン君の過去はクソ重いですが、今回の短編ではサラっと流しました。
この小説ですが、連載版も予定しています。
ではなぜ短編を投稿したのかと言えば、この方向性でちゃんと読者に受け入れられるか心配だったからです。
男性向け恋愛っぽいのに女主人公の一人称だったり、異世界で学園ラブコメだったり、年齢が十三歳とやや幼めだったり。
不安な要素がありました。
なので、先に短編という形で投稿して、読者からの反応を連載版にフィードバックしようと考えています。
好評であれば(高ポイントが取れれば)この方向性のまま好評だった部分を強化します。
逆に不評であったら(あまりポイントが得られなかったら)方向性を変えたり、足を引っ張ったりしたと思われる部分を変更したりします。
あとはまあ、タイトルやあらすじも変更を加えるかもしれません。「くっ……負けない!」の部分とか。
というわけなので、面白い、オリヴィアちゃんが可愛い、二人の恋の行末を見たいと思っていただけましたら
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・高評価(目次下の☆☆☆☆☆を★★★★★に)
・感想(面白いと思う部分があったら教えてください。面白い、可愛い等一言だけでも構いません)
等いただけますと、作者の自信に繋がりますので
よろしくお願いします。
特に短編はブックマークが入りにくい分、連載と比較すると不利なので評価ポイントをいただけるととても嬉しいです。
なお、作中の「インチ」はヤート・ポンド法のインチで、センチの誤字ではないです。