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97 エピローグ2


 赤の宮殿と称えられるアーデンフェルド王国大王宮。

 茜が差し込むその一室で、その会談は行われていた。


「悪いがお前さんたちは事の重大さをわかっておらぬ」


 言ったのは王国内で絶大な力を持つ王室相談役の老人だった。


「帝国が仕掛けた国別対抗戦は今や世界中の誰もが注目する規模まで発展してしまった。これまでのように軽い感覚で準備することはもう許されん。一歩間違えれば、王国の歴史に決して拭えない深い傷を残すことになる」

「だからこそ、聖宝メイガス級魔術師を参加させればいいと言っているでしょう」


 言ったのは炎熱系最強と称される轟炎の魔術師――ガウェイン・スタークだった。


「俺を出せば必ず結果は出す。そう言っています」

「ならん。聖宝メイガス級魔術師が敗北するようなことがあっては、いよいよ王国の威信に影響する。それだけは絶対に許されん」

「帝国はなりふり構わず人間以上に高い魔力を持つ森妖精エルフの魔法使いを招聘している。対して、王国は戦う前から敗北に怯える弱腰ぶり。結果が出ないのも当然だとは思いませんか」

「だから今回は最も強い魔法使いを送り込めと言っているであろう。聖宝メイガス級を除いた中で一番優秀な魔法使いを選考する。ルーク・ヴァルトシュタインの参加も認めた。プライドを捨て、本気で勝ちに行く。これはそういう戦いじゃ」


 王室相談役の老人は言う。


「その上でもう一度お主に問う。平民出身でどこの馬の骨かもわからぬ小娘――まだ一年目で白銀シルバー級の魔法使いをアーデンフェルド代表として選考すると、お前は本気でそう言っておるのか」

「もちろん本気です」

「平民出身者を贔屓するのもいい加減にせよ。何を根拠に――」

「そういう風に仰られると思ってましたよ」


 言って懐から出したのは一通の封書だった。


「剣聖エリック・ラッシュフォードからの推薦状です。御前試合で戦ったことはご存じですよね」

「しかし、あんなものはただの祭事で」

「中を見ればわかります。直接手を合わせた者が誰よりもわかっている。彼女の持つ可能性に」


 ガウェイン・スタークは言った。


「改めてもう一度お伝えします。聖宝メイガス級魔術師ガウェイン・スタークと王立騎士団騎士長エリック・ラッシュフォードは、ノエル・スプリングフィールドを国別対抗戦の代表選手として推薦します」






 ◇  ◇  ◇


 西方大陸中央部に広大な領地を持つ大国――フェルマール神聖帝国。

 北部山岳地帯で採掘される魔石資源を背景に国力の拡大を続けるこの国は、魔法の分野においても最も進んだ技術を持つ国の一つとして知られている。


 極大魔法の技術は西方大陸でも随一。

 特に自国が主導して運営している国別対抗戦では、他国を寄せ付けない圧倒的な結果を残している。


 その原動力となっているのが、外部から招聘している森妖精エルフ族の魔法使いだ。


 数千年にも及ぶと言われる長い寿命を魔法に注ぎ込んできた彼らは、人間の魔法使いを超える存在として、国別対抗戦を席巻している。


 外交局が保有する迎賓館の一室。

 到着した二人の森妖精エルフに、元老院に席を持つ大臣が深々と礼をする。


「大変お忙しいところ、お越しくださってありがとうございます」

「まったくです。エヴァンジェリン様は本来このような人間界の俗事に関わっていいようなお方ではありません。この機会はすべて、エヴァンジェリン様の寛大なお心遣いによるもの。ゆめ、そのことを忘れませんよう」


 言ったのは、薄緑髪の森妖精エルフだった。

 強い口調の言葉に、一歩後ろにいるもう一人の森妖精エルフが微笑む。


「いいのよ、エステル。こういう催し、私は嫌いじゃないから」


 穏やかに言うその姿に、大臣は息を呑む。

 人間の魔法使いとはまるで次元が違うでたらめな魔力の気配。


 当代最強と称される魔法使いの一人であり、前回の国別対抗戦で史上初の個人三連覇を果たした絶対王者――精霊女王エヴァンジェリン・ルーンフォレスト。


 対応には細心の注意が求められる。

 もし気分を害すような失態を犯せば、被る損失がどれだけ大きいか考えたくもない。


「それで、シンシアはどこかしら? 先に来てるという話だったけど」

「それがシンシア様は気になることがあるとアーデンフェルド王国へ向かわれまして」

「気になること?」

「はい。なんでも、調査が必要な魔法使いがいると少し焦った様子で。このようなことは初めてだったもので私どもも大変驚いたのですが」

「シンシアが見た資料を見せてもらえる?」

「承知しました」


 渡された資料に目を通すエヴァンジェリン。


(いったい誰を気にしているというのだろうか)


 大臣は資料を見つめる彼女の視線を追いつつ言う。


「考えすぎだと思いますよ。エヴァンジェリン様の敵になるような相手、このリストの中にはいませんから」

「そうでもないわよ」


 エヴァンジェリン・ルーンフォレストは微笑む。

 面白いものを見つけた。

 そんな風に。


「大会に出てよかった。こんなにわくわくするのは久しぶり」


 慌てて視線の先を追う大臣。


(このページに……?)


 そこは、リストの中でも階級が低く実績が少ない魔法使いの情報が載っている箇所だった。


(いったい、誰が……?)





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