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90/234

90 予感


「本日の合格者は278番と279番。以上」


 よし!

 無事合格を勝ち取って私は拳を握る。


 絶対に落ちたくないという緊張もあって、慣れるまでは苦戦したけれど、最終的にはちゃんとできるところを見せられたように思う。


「ふふん、私にかかればこんなものですよ」


 口ではそう言いつつも、内心は安堵感でいっぱいだった。

 最初簡単な罠にかかったときはもう終わったと思ったもんな。

 魔素の流れと術式構造から状態異常系の魔法陣だと見抜いて、咄嗟に無効化できたから失格にならずに済んだけど。


 前日の試験で唯一の合格者だった教国の冒険者さんと一緒に説明を聞く。

 補給を担当する冒険者さんたちと共に、早速攻略組のいる最前線――七十五層にある探索基地ベースキャンプへと向かうことになった。


 発見されて千年以上が経つヴァイスローザ大迷宮の探索ルートは、長い年月をかけ少しずつ整備されてきた。


 三十八層、五十九層、七十五層に作られた三カ所の探索基地ベースキャンプには迷宮内機構を利用した転移口が設置されている。

 おかげで、当初は到達まで一ヶ月を要した七十五層まで、私たちは半日程度でたどり着くことができる。


「すごいですね。迷宮の奥深くにこんな町みたいなところがあるなんて」


 感動して言った私に、


「そうですね。私も初めて見ました」


 教国の冒険者さんは微笑んで答えてくれた。

 今回新しく加わる合格者は三人。

 しかし、この三人というのは難しい人数だ。

 二人で話していたら一人余ってしまうし、ましてそのうち二人が友達同士となると残る一人は若干寂しい立場になってしまったりするもの。


 なので気遣いができる大人女子な私は、意識して多めに話しかけるようにしていたのだけど、


「……あの、お連れの方が殺し屋みたいな目をしてますよ?」


 なんて苦笑しながら言われてしまった。

 振り向くと、ルークは気にしてませんけど、みたいに目をそらす。


 なるほど。

 どうやら、こっちの方が寂しくなってしまった様子。


「やれやれ、大人なように見えて意外と子供なんだから」


 肩を軽く小突いて言うと、


「違う。そういうのじゃない」


 と言う。

 強がっちゃって。


 そんなやりとりもありつつ、攻略組の最前線に合流。

 早速、大規模探索に参加することになった。


 教国の冒険者さんも凄腕だったけど、他の冒険者さんたちもS級ライセンスを持ったすごい人ばかり。

 国を代表するような筆頭騎士や宮廷魔術師もいる様子。


 さすがあの異常な難易度の試験を突破した強者たち。


 場違い感がすごかったけど、一員として一緒に冒険できるのはすごく頼もしい。


 何より、これから攻略するのはヴァイスローザ大迷宮の八十層。

 世界中が注目する最高難度迷宮の未踏領域なのだ。


 果たして、どんな冒険とお宝が待っているのか!


 目指せ一攫千金!

 夢の三食ステーキを食べてからあげとハンバーグとクリームチーズコロッケがつけられる生活!


 小さく拳を握って、胸を弾ませる私だった。






 ◇  ◇  ◇


「今回合流するのは三人か」


 言ったのは攻略組最強のSランク冒険者――ジェイク・ベルレストだった。

 後方支援部からの報告を受け取ったクルーウェルはうなずきを返す。


「本日合流した三人のうち、二人はアーデンフェルド王国の王宮魔術師。最年少昇格記録を更新し続けているルーク・ヴァルトシュタインと近頃彼の国で何かと話題になっているノエル・スプリングフィールドとのことで」


 クルーウェルは試験中、その参加者が見せたと言う異能の一端をジェイクに話す。


「なるほど。なかなか使えるやつらしい」


 ジェイクはうなずいて渡された手紙と資料に目を通す。

 情報を整理し、探索に向け準備を進めようとしたところで、クルーウェルが言った。


「既に戦力は八十層階層守護者フロアボスを十分攻略できるだけのものがあると考えます。他勢力が本格的に乗り出してくる前に攻略を開始するべきかと」

「何度も言っているだろう。ダメだ」

「七度に渡る調査の結果八十層の階層守護者フロアボスの力は七十九層より一割向上している程度であることが確定しています。対して、我々の戦力は七十九層攻略時より三割増し。交戦した先遣隊にも被害はほとんど出ませんでした」

階層守護者フロアボスには苦境になると形態変化するものもいる。何が起きるかわからないのが迷宮探索だ。万全を期すに越したことはない」

「既に最終形態である第三形態まで脅威になるほどの力はないことが判明しています。攻略は可能です」

「どうしてそこまでこだわる」


 ジェイクの言葉に、クルーウェルは我に返って口をつぐむ。


「申し訳ありません」


 言って頭を下げる。

 その姿をじっと見つめてジェイクは言った。


「お袋さん、よくないのか」


 クルーウェルは押し黙る。

 やがて、顔をうつむけたまま言った。


「……もう時間がないと連絡が」


 ジェイクはクルーウェルが抱える事情を知っていた。

 唯一の肉親である母親の手術費を稼ぐため。

 庶民ではとても手が届かない高額な治療費を手に入れるために危険な迷宮の最深部に挑む。

 そんな仲間の姿をジェイクはずっと見てきた。


「わかった。攻略を決行する」

「いいんですか?」

「勘違いするな。既に安全に攻略が可能な段階だと判断しただけだ。お前のためじゃない」

「ありがとうございます!」


 何度も頭を下げるクルーウェルを追い払ってから、ジェイクは本格的な攻略に向けての作戦の最終確認をする。


 予定外のことではあったが、準備が不足しているとは思わない。

 クルーウェルの言葉は、客観的に見て正しいものだった。

 仲間の中にも同様の意見を持つ者は多い。


 高い確率で、ほとんど被害を出すことなく攻略を完遂することができるだろう。


 しかし、にもかかわらずジェイクは一抹の不安を感じずにはいられなかった。


 八十層の階層守護者フロアボスには何かある。


 順調に進んでいるはずの攻略。

 なのに、迷宮に誘い込まれているような感覚をジェイクは感じていた。



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